【2026年10月1日施行】カスタマーハラスメント対策が義務化|企業が準備すべき10の措置と対応手順
公開日:2025年12月8日
更新日:2026年10月5日
ハラスメント

顧客や取引先からの暴言、過剰な要求、長時間にわたる拘束等のカスタマーハラスメントは、従業員の心身だけでなく、企業の人材確保や生産性にも影響をおよぼす問題です。2025年の労働施策総合推進法等の改正を受け、2026年10月1日からは、事業主にカスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置が義務付けられます。
厚生労働省から具体的な指針も公表されているため、企業は施行前に社内体制を整える必要があります。この記事では、カスタマーハラスメントの定義や正当なクレームとの違い、企業が講じなければならない10項目の措置、中小企業が施行日までに準備すべき対応をわかりやすく解説します。
2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が義務化

2026年10月1日から、カスタマーハラスメントを防止するために必要な雇用管理上の措置を講じることが事業主の義務となります。2026年2月には厚生労働省から「カスタマーハラスメント防止指針」が告示され、企業が行うべき具体的な対応も明確になりました。
以前からカスタマーハラスメント対策を行っていた企業も、改めて自社のルールや相談体制が指針に対応しているかを確認する必要があります。
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厚生労働省のカスタマーハラスメント対策の指針について解説しています。
義務化の対象は原則すべての事業主
カスタマーハラスメント対策の義務化は、業種や企業規模を問わず、労働者を雇用する事業主が対象です。そのため、中小企業であっても「顧客対応を行う従業員が少ないから関係ない」と考えることはできません。
保護の対象となる労働者には、正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員等も含まれます。また、派遣労働者については、派遣元だけでなく派遣先にも一定の措置が求められます。
カスタマーハラスメントの行為者となり得る「顧客等」の範囲も広く、商品・サービスを購入する一般消費者だけではありません。取引先の担当者、施設の利用者やその家族、問い合わせをする人、将来的に商品やサービスを利用する可能性がある人等も含まれます。
したがって、小売業や飲食業等のBtoC企業だけではなく、取引先との接点があるBtoB企業も対象になり得ます。
カスタマーハラスメントの定義は「3つの要件」で判断する
厚生労働省の指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の3つの要件をすべて満たすものとしています。1つ目は「顧客等の言動」であること、2つ目は「労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えた言動」であること、3つ目は「その言動によって労働者の就業環境が害されること」です。
店舗等での対面の言動だけでなく、電話やメール、SNS等インターネット上の言動も対象になります。「就業環境が害される」とは、身体的・精神的な苦痛によって労働者が能力を十分に発揮できないなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じる状態です。
判断に当たっては、個人の主観だけではなく「平均的な労働者の感じ方」が基準となります。言動の頻度や継続性も考慮されますが、暴行や重大な脅迫等、強い身体的・精神的苦痛を与える言動であれば、1回だけでも就業環境を害する場合があります。
正当なクレームとの違いは「要求内容」と「手段・態様」で見極める
顧客から寄せられる苦情や改善要求のすべてが、カスタマーハラスメントになるわけではありません。商品やサービスに問題があり、顧客が社会通念上許容される方法で改善や説明を求める場合は、正当な申入れとして適切に対応する必要があります。
判断する際は、主に「要求内容」と「要求する際の手段・態様」を確認します。例えば、商品やサービスとは関係のない要求、契約内容から著しく逸脱したサービスの要求、対応が著しく困難または不可能な要求、不当な損害賠償要求等は、社会通念上許容される範囲を超える可能性があります。
また、要求内容にかかわらず、暴行や傷害、脅迫、侮辱、暴言、土下座の強要、威圧的な言動、執拗な繰り返し、長時間の居座りや電話による拘束等も典型例です。一方、自社の商品・サービスや従業員の対応に問題がなかったかも確認しなければなりません。
障害のある顧客が合理的配慮を求めることや、不当な差別的取扱いをしないよう求めること自体をカスタマーハラスメントと扱うことも適切ではありません。「強い苦情を受けたからカスハラ」と短絡的に判断するのではなく、要求内容、言動の方法、発生までの経緯等を総合的に確認することが重要です。
義務化の中心は「カスハラ判定」ではなく雇用管理体制の整備
法改正によって企業に求められているのは、個々の顧客の言動を「カスタマーハラスメントである」と認定する制度を作ることだけではありません。重要なのは、従業員を被害から守り、問題が起きた場合に組織として対応できる雇用管理体制をあらかじめ整えることです。
具体的には、会社としての基本方針、従業員が取るべき対応、相談窓口、事実確認の方法、被害を受けた従業員への配慮、再発防止、悪質な事案への対処、プライバシー保護等を整備する必要があります。特に中小企業では、現場担当者だけに判断を任せていると対応が属人化し、従業員が一人で問題を抱え込む可能性があります。
誰が一次対応を行い、どの段階で上司や経営者に引き継ぐのかを明確にすることが重要です。
企業が必ず講じるカスタマーハラスメント対策「10項目」

厚生労働省の指針では、カスタマーハラスメント防止のために事業主が講じなければならない措置が10項目示されています。大きく分けると、「方針・ルール」「相談体制」「発生後の対応」「悪質事案への対処」「相談者の保護」という5つの領域で考えることができます。
①② 方針・対応ルールを明確にし、従業員へ周知する
まず、「カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」という基本方針を明確にし、従業員へ周知・啓発しなければなりません。さらに、どのような言動がカスタマーハラスメントに該当し得るのか、発生した際にどのように対応するのかをあらかじめ決め、従業員に周知する必要があります。
例えば、一定の段階で上司へ報告する、可能な限り一人で対応させない、必要に応じて録音・録画を行う、十分な説明を行っても不当な要求が続く場合は電話を終了したり退店を求めたりする、暴行や脅迫等があれば警察へ通報する、といった対応です。
社内規程やマニュアルを作成するだけではなく、研修等を通じて現場で実行できる状態にすることが重要です。Webサイトや店頭等で顧客向けの基本方針を公表することも、過度な要求を抑止する手段の一つとなります。
③④ 相談窓口を設置し、担当者が適切に対応できる体制を作る
カスタマーハラスメントについて相談できる窓口をあらかじめ定め、従業員に周知することも義務の一つです。専用窓口を新しく設置する必要があるとは限らず、既存のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの相談窓口と一体化する方法も考えられます。
店舗等では、直属の上司や店舗責任者を一次的な相談先とすることも可能です。重要なのは、窓口の名称だけを設けるのではなく、相談担当者が適切に対応できる体制を作ることです。
カスタマーハラスメントに該当するか判断が難しいケースも含めて相談を受け止め、必要に応じて人事、総務、法務、経営者等へ連携できる仕組みを整えます。相談対応マニュアルや担当者向け研修も準備し、「相談窓口は存在するが、相談しても誰も判断できない」という状態を避ける必要があります。
⑤⑥⑦ 事実確認・被害者への配慮・再発防止を一連で行う
相談を受けた後は、事実関係を迅速かつ正確に確認します。発生日時や場所、顧客等からの要求、具体的な発言・行為、それまでの対応経緯、目撃者、録音・録画の有無等を整理することが重要です。
必要に応じて相談者以外の従業員や相手方からも事情を確認しますが、その際は相談者の心身の状態やプライバシーに配慮しなければなりません。被害が確認された場合には、上司や別の従業員が代わって顧客対応を行う、行為者との接触を避ける、担当者を変更する、複数人で対応するなど、被害者を保護するための措置を講じます。
心身への影響が大きい場合には、産業医や産業保健スタッフ等による支援につなげることも必要です。暴行や脅迫等犯罪に該当する可能性がある場合は警察へ相談し、警告や法的措置が必要であれば弁護士等との連携も検討します。
さらに、対応が終わった後も、事案を記録して再発防止につなげることが重要です。商品・サービスや接客の問題、顧客への説明不足が背景になかったかも検証し、必要に応じてマニュアルの改定や再研修を行います。
⑧ 悪質なカスハラへの対処方針とエスカレーション基準を決める
特に悪質なカスタマーハラスメントについては、通常のクレーム対応とは別に、どの段階で対応を打ち切り、誰に引き継ぐのかを事前に決めておく必要があります。厚生労働省の指針では、犯罪に該当し得る言動についての警察への通報、警告文の発出、法令の範囲内での商品販売・サービス提供の停止、店舗や施設への出入り禁止、必要に応じた法的手続等が対処例として示されています。
現場従業員に「どこまで我慢するか」を判断させるのではなく、「同じ要求を繰り返した場合」「暴言や脅迫があった場合」「一定時間を超えて対応が続いた場合」等、可能な範囲でエスカレーション基準を具体化することが重要です。ただし、医療や福祉等、サービスの中断が利用者の生命や健康に重大な影響をおよぼす可能性がある業種では、業法や業界特性を踏まえた慎重な運用が必要です。
カスタマーハラスメント対策の体制構築について解説しています。
⑨⑩ 相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止を徹底する
相談した従業員が安心して制度を利用できる環境を作ることも重要です。相談内容や被害状況、氏名等の個人情報は、事実確認や対応に必要な範囲に限定して共有し、記録の保存場所や閲覧権限を定めておく必要があります。
また、カスタマーハラスメントについて相談したことや、事実確認に協力したこと等を理由として、解雇、降格その他の不利益な取扱いを行ってはなりません。その旨を社内で明確に定め、従業員へ周知・啓発する必要があります。
カスタマーハラスメント専用の規程を必ず新設しなければならないわけではありません。既存の就業規則、服務規律、ハラスメント規程等で必要事項をカバーできているかを確認し、不足がある場合に改定する方法も考えられます。
「相談すると評価に影響するのではないか」という従業員の不安を取り除くことが、早期相談と被害の拡大防止につながります。
施行日までに中小企業が準備すべき5ステップ

中小企業では、人事や法務の専任担当者を置いていない場合もあります。そのため、一度に大がかりな制度を作るのではなく、「現状把握」「ルール整備」「相談・記録体制」「外部連携」「研修・周知」の順に進めると準備しやすくなります。
相談体制や対応マニュアルの整え方について解説しています。
STEP1 現状を棚卸しし、責任者と判断権限を決める
最初に、これまで自社で発生したクレームやトラブルを振り返ります。長時間にわたる電話、暴言、繰り返しの要求、居座り、SNSへの投稿をほのめかす行為等、どのような問題が起こりやすいかを洗い出します。
その上で、顧客との接点ごとに「誰が最初に対応するか」「誰にエスカレーションするか」「誰が電話終了や退店要請、警察への相談等を判断するか」を明確にしましょう。店舗、営業、コールセンター、訪問サービス等、業務形態によってリスクは異なります。
少人数の事業所でも、緊急時の連絡先や経営者への報告方法をあらかじめ決めておくことが重要です。
STEP2 カスハラ対応マニュアル・社内規程を自社向けに整える
次に、自社の業務に合わせた対応マニュアルを整備します。マニュアルには、カスタマーハラスメントの定義、正当なクレームとの違い、典型的な行為、一次対応の方法、上司へ引き継ぐ基準、電話終了や退店要請の考え方、録音・録画、警察・弁護士への連携、事後報告等を盛り込むと実務で活用しやすくなります。
また、自社の従業員が取引先等の従業員に対してカスタマーハラスメントを行うことがないよう、服務規律や研修内容も確認することが重要です。厚生労働省や業界団体が公開するマニュアルは参考になりますが、そのまま配布するだけでは十分とはいえません。
自社の人員配置や顧客接点、実際に発生しやすい事例に合わせて内容を具体化する必要があります。
STEP3 相談窓口・報告ルート・記録様式を整備する
相談窓口については、問題が終わった後に相談する窓口だけでなく、カスタマーハラスメントが発生している最中に現場から連絡できるルートも決めておくことが重要です。例えば、店舗責任者が一次対応し、人事・総務へ報告し、重大事案については経営者や法務へ引き継ぐなど、役割を明確にします。
併せて、事案を記録する共通の様式を作成します。日時、場所、相手方、要求内容、発言や行為、対応者、同席者、録音・録画の有無、会社として行った対応、従業員の心身の状況等を残せるようにしておきましょう。
記録は事実確認や再発防止に役立つ一方、個人情報を含む可能性があるため、保存方法や閲覧権限も併せて決めておく必要があります。
STEP4 警察・弁護士・本社等への連携基準を決める
悪質な事案が発生してから警察や弁護士の連絡先を探すのでは、対応が遅れる可能性があります。外部機関との連携方法を事前に確認しておくことが重要です。
暴行、傷害、脅迫等犯罪に該当する可能性がある言動については警察への相談を検討します。警告文の送付、サービス提供の停止、出入り禁止、法的手続等を検討する場合は、弁護士等への相談が必要になることがあります。
法務部門のない中小企業では、顧問弁護士や外部の相談窓口をあらかじめ確認し、「どのような事案が起きたら連絡するのか」「誰が最終判断するのか」「証拠をどのように保存するのか」まで決めておくことが重要です。
STEP5 従業員研修・ロールプレイを行い、顧客にも方針を周知する
ルールを作成した後は、従業員が実際に行動できるよう研修を行います。研修では、カスタマーハラスメントの3要件、正当なクレームとの違い、初期対応、上司へのエスカレーション、記録方法、相談窓口等を共有します。
さらに、店頭で暴言を受けるケース、電話が長時間続くケース、同じ要求を繰り返されるケース、SNSへの投稿をほのめかして脅されるケース等、自社で発生しやすい場面を想定したロールプレイも有効です。特に管理職には、現場従業員から対応を引き取り、一人で抱え込ませないための判断を教育する必要があります。
顧客向けにもWebサイトや店頭掲示等を通じて会社の基本方針を示すことが考えられます。ただし、正当な意見や苦情、合理的配慮の申出まで拒絶する印象を与えないよう、表現には注意が必要です。
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2026年10月1日までの準備スケジュール

2026年10月1日の施行に向けて、準備が完了していない企業は優先順位を付けて進める必要があります。8月は、既存のクレーム対応やハラスメント相談窓口を棚卸しして、カスタマーハラスメント対策の責任者、会社の基本方針、対象となる行為の考え方を決める時期です。
9月前半には、対応マニュアル、相談窓口、報告・記録様式を整備し、警察や弁護士等への連携ルールまで具体化します。9月後半は、管理職や現場従業員を対象とした研修・ロールプレイを実施します。
実際に起こり得るケースを使って運用テストを行い、「誰に連絡すれば良いかわからない」「責任者不在時の判断ができない」といった不足があれば施行前に修正します。10月1日以降も、制度を作って終わりではありません。
発生事案を記録・分析し、マニュアルや判断基準の見直し、再発防止、定期研修につなげることが重要です。
まとめ
2026年10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置が義務付けられます。企業規模や業種にかかわらず、労働者を雇用する企業は、自社の対応体制を確認する必要があります。
重要なのは、すべての苦情をカスタマーハラスメントとして排除することではありません。正当なクレームと不当な言動を適切に見極めながら、従業員が一人で対応を抱え込まない仕組みを構築することです。
まずは自社で起こりやすい事案を棚卸しし、基本方針、対応マニュアル、相談窓口、報告・記録体制、警察や弁護士等への連携基準を整えましょう。併せて従業員研修やロールプレイを実施し、2026年10月1日以降も実際の事案を踏まえて継続的に改善していくことが重要です。

















