【2026年施行予定】カスタマーハラスメント対策が義務化へ!改正労働施策総合推進法が企業に与える影響

公開日:2025年12月8日

ハラスメント

2026年に施行される「改正労働施策総合推進法」では、企業に対する「カスタマーハラスメント対策の義務化」に注目が集まっています。昨今、カスタマーハラスメントは大きな社会問題となっており、従業員の健康被害や離職を引き起こす要因としても知られています。

今回は、労働施策総合推進法の概要について確認した上で、2026年に施行される改正法の背景や内容を詳しく見ていきましょう。また、実際にカスタマーハラスメント対策を行っている企業の事例もご紹介します。

労働施策総合推進法とは

労働施策総合推進法とは、1966年に制定された「雇用対策法」をもとにした法律であり、正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」と言います。2018年の改正時に現在の名称となり、近年の労働環境の変化に応じて適宜改正が行われていることから、注目度の高い法律の一つでもあります。

ここではまず、労働施策総合推進法の基本的な内容と、これまでの経緯について見ていきましょう。

 

労働施策総合推進法の目的

労働施策総合推進法は、労働者が生きがいを持って働ける社会の実現を基本目的としています。労働環境や社会情勢の変化によってたびたび改正が行われており、特に重要度の高いものとしては、2020年6月に盛り込まれた「職場におけるパワーハラスメント対策の義務化」が挙げられます。

従来から問題視されてきたパワーハラスメント(以後パワハラ)について、法律で初めて明確な定義が行われたことから、「パワハラ防止法」として認識されるケースも多いです。

2020年改正の意義

職場におけるハラスメントは、従前からさまざまな法律で対策が義務付けられてきました。しかし、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業に関するハラスメントについては防止対策が設けられていた一方、パワハラについては明確な対策が講じられてこなかったのが実情です。

2020年の改正は、職場でのパワハラが増加している実態に合わせ、大企業(2022年からは中小企業も対象)に対して対策を義務付けた点が大きなポイントと言えます。

パワハラの定義を明確化したこと

2020年改正における特に重要な意義は、それまであいまいであったパワハラの定義が初めて明確化されたことにあります。改正法では、パワハラを「優越的な関係を背景として言動であって」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」「労働者の就業環境が害されるもの」という3つの要件を満たした行為と定義しました。

一方、「客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」については該当しないことも明記されました。パワハラに関する要件が具体化されたことで、企業だけでなく労働者も判断がしやすくなるなど、対策の基盤が整えられた点は大きな一歩であると言えるでしょう。

パワハラ対策を義務化したこと

改正法では、事業主に対して、パワハラに関する雇用管理上必要な措置を講じるように義務付けました。雇用管理上講ずべき措置とは、次のように示されています。

・事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
・相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

まずは自社の方針の明確化と周知・徹底を図り、相談窓口等を設けていつでも利用できるように整備する必要があります。さらに、実際にパワハラが発生した時には、被害者・行為者に対して速やかに適切な措置を講じなければなりません。

そして、上記の3つの措置と併せて、「従業員がパワハラの相談をしたことによる不利益な取扱いが禁止」されました。また、努力義務として国・事業主・労働者それぞれの責務が規定され、研修の実施やハラスメントへの理解の深化等の取組が盛り込まれています。

2025年改正でカスタマーハラスメント対策が義務化へ

労働施策総合推進法は、2025年6月11日にさらなる改正が行われ、2026年に施行される予定となっています。今回の要点は、新たに「カスタマーハラスメント」対策を事業主に義務化しているところにあります。

そのため、前述のパワハラ防止法と同じように、「カスハラ対策法」とも呼ばれているのが特徴です。ここでは、カスタマーハラスメントの基本的な定義と現状について見ていきましょう。

カスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメント(以下カスハラ)とは、顧客等からの著しい迷惑行為の総称です。東京都では、2024年10月に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が公布され、2025年4月1日に施行されました。

条例の定義によれば、カスハラは「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為であり、就業環境を害するもの」とされています。また、著しい迷惑行為については「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言などの不当な行為」と定義づけられています。

 

カスタマーハラスメントの相談件数が増加傾向にある、医療機関・福祉事業者におけるカスハラ対策について解説しています。

 

カスハラ対策義務化の背景

近年、カスハラは大きな社会問題となっており、従来から対策が講じられてきたパワハラやセクハラと同じように、労働環境を悪化させる主要な原因とされています。

厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によれば、調査前過去3年間でハラスメント相談があったと回答した企業のうち、相談内容は高い順にパワハラ(64.2%)セクハラ(39.5%)カスハラ(顧客等からの著しい迷惑行為/27.9%)となっており、上位を占める原因となっています。

こうした背景をもとに、まず東京都では2024年に前述の「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(東京都カスハラ防止条例)が制定されました。一方、国レベルでの横断的な法規制がなかったことから、2025年に労働施策総合推進法の改正が成立し、カスハラ防止の義務化が新たに盛り込まれたという流れです。

 

カスハラ対策義務化の内容

改正後の労働施策総合推進法では、カスハラ対策について、事業主、労働者、顧客等、国のそれぞれに義務または努力義務を規定しています。それぞれの立場における義務・努力義務について整理してみましょう。

事業主に生じる義務・努力義務

今回の改正では、カスハラについて事業主の「雇用管理上の措置義務」であると規定しています。また、具体的な義務・努力義務としては、以下のような規定が盛り込まれています。

・労働者がカスハラの相談を行ったことなどを理由に、解雇や不利益な取扱いを禁ずる
・他の事業主から必要な協力を求められた場合には、協力に努める
・国の広報活動、啓発活動その他の措置に協力する
・自社の労働者の関心・理解を深め、他者の労働者への言動に注意を払うよう、研修その他必要な配慮をする

基本的には、カスハラを防ぐための措置や研修の実施、実際にカスハラが起こった時の解決に対する協力等が事業主の義務と言えるでしょう。

雇用管理上の措置義務とは

雇用管理上の措置義務とは、労働者がハラスメント被害に遭わないよう相談に応じ、適切な対応のために必要な体制の整備や抑止のための措置等を行う義務を指します。具体的な措置は既に上記で挙げたとおりであり、この義務に違反した事業主は、ペナルティ(行政による報告徴求命令、助言、指導、勧告または公表)の対象となります。

これまで、セクハラ、パワハラ、マタハラ(パタハラ)、ケアハラについては、既に雇用管理上の措置義務の対象とされてきました。今回の改正により、新たにカスハラも対象範囲に加えられた形となります。

労働者に生じる努力義務

改正労働施策総合推進法では、労働者に対しても、カスハラ被害を防ぐための努力義務が設けられています。具体的には、次の2点が挙げられます。

・事業主の雇用管理上の措置義務に協力するよう努める
・カスハラへの関心と理解を深め、他者の労働者への言動に注意を払うように努める

まずは事業主の取組を理解し、社内におけるカスハラ対策の推進に助力することが大切となります。また、労働者それぞれがカスハラに対する関心を持ち、自らが加害者にならないように努めることも重要です。

顧客等に生じる努力義務

顧客等には、「カスハラへの関心と理解を深め、他者の労働者への言動に注意を払うように努める」という努力義務が課せられます。なお、厚生労働省が公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によれば、「顧客等」には実際に商品・サービスを利用した者だけでなく、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含まれるものとされています。

顧客や取引先のみならず、サービスについて問い合わせをした者等も含まれるため、より幅広いシーンに適用されると考えておきましょう。

 

国が負う義務・努力義務

改正労働施策総合推進法では、国に対しても義務・努力義務を規定しています。その内容は以下のとおりです。

・厚生労働大臣は、事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定める
・国はカスハラに対する事業主やその他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動・啓発活動・その他の措置を講ずるように努める

改正が企業経営に与える影響

改正労働施策総合推進法は、事業者に対してさまざまな義務を定める内容となっています。また、適用対象は単に「事業主」と規定されているため、1人でも労働者がいれば基本的には義務を負う対象者になると考えられます。

施行に伴い、企業経営にはどのような影響が生じるのでしょうか。

カスハラ対策の実施・強化が求められる

まずは、カスハラ対策の実施・あるいは強化が必要となります。ただし、すべての仕組みをゼロから構築する必要はありません。相談窓口等は、パワハラ対策やセクハラ対策で設けているものを適用することも可能であるため、無理のない形で体制の整備を進めましょう。

また、既に何らかのカスハラ対策を行っている企業は、その強化を図り、社内全体の対策がより万全になるよう努めることが大切です。

直近一年におけるカスハラの傾向について解説しています。

 

カスハラ対策の具体的なアプローチ

カスハラ対策の具体的な取組としては、「社内マニュアルやルールの明文化」「従業員教育・研修」「相談窓口の設置」「サポート体制の周知徹底」等が挙げられます。そのためにもまず重要となるのが、自社の実態の把握です。

匿名のアンケートや1on1でのヒアリング等で現場の従業員の声を聞き、どのようなトラブルが多いのか、対策に向けてどのような取組を進めるべきかを明確化しましょう。その上で、実際にカスハラが発生した時に備え、対応マニュアルを策定することが大切です。

マニュアルとして社内ルールを明文化し、研修を行って従業員への周知徹底を図りましょう。また、カスハラ対応ポリシーを策定し、社内外へ公表することで自社の姿勢を示すのも有効な取組です。

そして、予防に努める一方で、事案が発生した際のフォロー・サポート体制を整えることも大切です。サポート体制が機能すれば、従業員の精神的な負担を軽減し、被害を最小限にとどめられるようになります。

従業員のための相談対応体制の整備について解説しています。

 

自社の従業員を守ることにつながる

適切なカスハラ対策を講じれば、自社の労働環境が改善され、従業員を守ることにつながります。厚生労働省の調査によれば、特にカスハラが多い業界として「医療・福祉」「宿泊業・飲食サービス業」「不動産業・物品賃貸業」が挙げられています。

いずれも顧客と直接関わるシーンが多い職業であることから、特に最前線で働く労働者においては、カスハラによるトラブルが生じやすいと言えるでしょう。また、厚生労働省の「令和6年 雇用動向調査」でも、これらの業界では離職者数・離職率ともに高い水準にあるとされています。

こうした業界で企業がカスハラ対策を強化すれば、従業員の精神面にはプラスに働き、モチベーションの向上や離職率の改善につながる可能性も大きいでしょう。

 

企業が行ったカスハラ対策の事例

自社のカスハラ対策を進める上では、既に取組を実践している企業の事例を参考にするのも一つの方法です。厚生労働省が運営するポータルサイト「あかるい職場応援団」では、カスタマーハラスメント対策企業事例が紹介されています。

今回はその中から、2社の事例をピックアップして見ていきましょう。

 

運送業の事例

従業員数約18万人を抱える大手運輸会社では、コールセンターで起こった典型的なカスハラを一つのきっかけとして、社内全体での取組を開始します。カスハラの内容は、コールセンターに同じ顧客から執拗な苦情が入り、個人を対象とした暴言が繰り返されるというものでした。

度重なるカスハラ行為により、オペレーターに強い精神的な負荷がかかった結果、約1か月間にわたって業務復帰が困難な状態に陥ります。こうした実例を踏まえ、同社では対策の必要性が見直され、経営層の同意を得た上でカスハラ対策がスタートしました。

すると、取組の一歩として行われたオペレーター向けのアンケートで、8割がカスハラと思われる被害に遭っていたことが明らかになります。そこから、会社としての取組強化を決断し、弁護士に相談しながら「カスハラに該当する発言リストの作成」や「想定文言集を盛り込んだマニュアルの策定」を実行します。

さらに、社内にカスハラ専用相談窓口を設け、ときにはOJTでも適切な対応方法を学べるようにしました。また、どのコールセンターでも対応できるように、カスハラに関する情報を全社で共有できるシステムも構築します。

その結果、カスハラという概念がしっかりと浸透し、ハラスメント行為をする顧客等に対しては毅然とした対応ができるように社内の意識が変わっていきました。

IT企業の事例

従業員1,000人以上を抱えるIT企業では、サポートデスク(顧客の相談を受け付ける部署)で深刻なカスハラ被害が生じたことをきっかけに、全社的なカスハラ対策が行われました。被害内容は40分以上にわたる理不尽なクレームで、従業員を対象とした脅迫ともとれる暴言を受けたというものです。

事態を重く受け止めたサポートデスクの中心者が、法務部との相談により、まずはチーム内の5名で対策プロジェクトを立ち上げます。取組のスタートとして、アンケート調査でデータ収集を行い、同時に厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を読み込んで知識を身につけていきました。

その後、法務部と法的な知識を照会しつつ、「必要な対策」や「対策を講じない場合のリスク」「定めるべき項目」について洗い出します。そして、取組の概要をまとめて経営層に提言し、全社的な取組へ発展させていきました。

企業全体としての取組では、まずカスハラに関する自社の考え方をプレスリリースで公開することを第一歩としました。カスハラの対象行為や社内対応、社外対応について明記し、社内外に自社の姿勢を示します。

そして、対象行為に該当すると企業側が判断した場合、サービス・サポートの提供を断る場合がある旨も明記しました。さらに、社内向けガイドラインを作成、周知し、取組を強化します。

その結果、顧客対応をする従業員からは、「安心感につながる」というポジティブな意見が生まれました。また、「同様の悩みを抱える企業との交流が広がる」「顧客から賛同の声が挙がる」等、社外からも前向きな反響を受けるまでになっています。

まとめ

2026年に施行される改正労働施策総合推進法では、カスタマーハラスメントに関する対策の義務化が盛り込まれています。義務化の対象は事業主とされているため、基本的には1人でも労働者がいる事業者には、対策が求められると言えるでしょう。

カスハラ対策を進めることは、自社の従業員を守り、モチベーションの向上や離職の防止に結びつく重要な取組です。まだ取組に踏み出せていない場合は、改正法の内容や既に実践している企業の事例を踏まえながら、いち早く社内の体制構築に着手しましょう。

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