第2回 従業員のための相談対応体制の整備と対応マニュアル作成のポイント
公開日:2025年6月6日
ハラスメント

本稿では、2回に分けてカスハラ対策に取り組む企業の後押しとなるような対策のポイントについて解説をしています。前回は、対策の導入から対応基本方針の策定、整備しておくべき事項について取り上げました。2回目の今回は、カスハラに該当し得る行為が発生した際の相談対応体制の整備と対応マニュアル作成のポイントについて説明します。
相談対応体制の整備について
Q. カスハラに該当し得る行為が発生した際の相談対応体制として、どのような体制を整備すべきか。
A. カスハラに該当し得る行為が発生した際、顧客対応者と現場責任者、または本部組織間において迅速に協議し、対応方針の指示等を実行できる体制を整備することが必要です。全体像は下図のとおりです。

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また、本対応体制における、「本部組織」「現場対応責任者」「顧客対応者」それぞれの対応上の主な役割は以下のとおりです。

相談対応体制の整備において重要なことは、顧客対応者が対応に苦慮した場合は現場責任者に、現場責任者が対応に苦慮した場合は本部組織に、迅速に連携できる体制にすることです。
その際、現場責任者が不在の場合に備えた代替責任者の設置や、現場責任者が本部への報告を躊躇する場合(注1)を想定し、現場の対応者から直接本社(本部)へ相談できるような複数の報告ルートを設けておくことが有用です。
また、カスハラへの対応に際しては弁護士や警察といった社外機関との連携が重要になります。これらの関係者とは有事の際に円滑に連携をした対応が取れるよう、日頃から協議をしておくことが望ましいです。
Q. 相談対応体制の整備に関してそのほかの留意点は?
A. 顧客対応を行う従業員のメンタルケアを行うことも同様に重要です。具体的には顧客対応者や現場責任者に対して、定期的なストレスチェック等を実施し、従業員のメンタル不調の兆候を早期に掴むことが肝要です。
万が一メンタル不調の兆候が見られた場合には、早期に社外カウンセラーや産業医との連携、医療機関への受診のアドバイス等を上位者が行えるよう環境整備をしておくことが望ましいです。
なお、従業員へのメンタルケアが十分でない場合に起こり得る影響として、従業員本人のメンタル不調による休職や辞職、顧客から受けたストレスを発散するための他の従業員へのハラスメント行為の発生が考えられます。
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対応マニュアルの作成について
Q. マニュアルの作成については、どのような関係者が主体となって作成をするべきか?
A. カスハラ行為への対応については、複数の部署が連携することが想定されるため、関係する可能性のある部署が協働して作成にあたることが望ましいです。具体的には、顧客対応の観点でCS対応部門、法的措置といった観点で法務部門、従業員のメンタルケア等の観点では人事部、そして社内規定作成の観点からは総務部といった関係者が連携して取り組むとよいです。
Q. 対応マニュアルの目次として入れるべき項目は?
A. 入れるべき目次の例と留意点は以下のとおりです。


Q. 対応マニュアル作成に際して押さえるべきポイントは?
A. まず、カスハラの判断基準やカスハラ行為への対応方法等、「どういった言動がカスハラに該当し得るのか」「カスハラ行為が発生した際に、誰が・何を・どのようにおこなうのか」といった具体的な記載が望ましいです。
一方で、あらゆるカスハラ行為への対応を網羅することは現実的ではありません。個々の対応者が適切な対応を検討する際の一助となるような記載を意識してください。なお、マニュアルは一度作成したら終わりではなく、自社の被害実態を継続的に把握し、最新の事例や対応方法等を反映するなど定期的に見直しをしていく事が重要です。
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(注1)例えば、現場責任者がカスハラへの対応について判断に時間を要したり、「自身が管理する店舗でカスハラが発生した事が自身の人事評価にマイナス影響をおよぼすと邪推し、意図的に本部相談をしない」といった事情が考えられる。
(注2)厚生労働省はカスハラ行為とは「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と示しており、東京都のガイドラインでは「①顧客等から就業者に対し、②その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、③就業環境を害するものであり、①から③までの要素をすべて満たすもの」と示している。
(注4)具体的には、自社がカスハラと判断した行為を顧客がやめない場合は対応しかねる旨を通知する、または自社としての対応可能な範囲を通知し、それ以上の要求については対応できかねる旨など通知し対応を打ち切ることが考えられる。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2025年3月(第12号)を基に作成したものです。