障害者雇用における差別禁止と合理的配慮の義務
公開日:2025年8月20日
人手不足

2024年4月から企業が雇用すべき障害者の割合が引き上げられ、さらに2026年7月にも引き上げが予定されています。今回は、障害者を雇用するにあたり企業に求められる障害者への差別の禁止、合理的配慮の提供義務について具体的な内容を説明します。本号は社会保険労務士法人みらいコンサルティングに寄稿いただきました。
障害者の法定雇用率

障害者への差別の禁止
障害者雇用促進法に基づき、事業主は障害者の雇用機会を確保し、差別を禁止する義務があります。対象となるのは身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)を持つ方々で、障害者手帳の有無に関係なく適用されます。
差別の禁止の具体的内容
厚生労働省の「障害者差別禁止指針」では、以下のような差別が禁止されています。
①募集及び採用:
障害を理由に募集・採用から排除することや不利な条件を付すことは禁止されています。ただし、業務上必要な能力を条件とする場合は例外です。
②賃金:
障害を理由に特定の手当を支払わないなどの差別は認められません。
③配置・昇進・降格:
障害を理由に職務への配置や昇進の機会を奪うこと、または降格の対象とすることなどは差別に当たります。
④教育訓練・福利厚生:
教育訓練や福利厚生において、障害者に不利な条件を設けることなどは禁止されています。
⑤職種・雇用形態の変更、退職の勧奨、定年、解雇、労働契約の更新:
いずれも障害を理由に不利な扱いをすることなどは差別に該当します。
ただし、障害者を有利に扱う積極的差別是正措置や、合理的配慮を提供した結果生じる、異なる取扱いなどは差別には該当しません。
合理的配慮の提供義務
事業主は障害者に対して合理的配慮を提供する義務があり、障害者と障害者でない者の均等な雇用機会と待遇を確保することが求められます。合理的配慮には、職場での障害に応じた適切な設備や援助者の配置が含まれますが、過重な負担が生じる場合には例外とされます。
(1)合理的配慮の手続き
合理的配慮は以下の手順で提供されます。
①募集及び採用時:
障害者からの申出を受け、話し合いを経て合理的配慮を確定します。
②採用後:
職場での支障を確認し、話し合いを行った上で合理的配慮を確定します。
これにより、障害者が職場で直面する問題を改善し、均等な待遇を目指します。
(2)合理的配慮の具体例
合理的配慮の内容は多岐にわたります。採用時には、障害の特性に応じた面接方法の調整や試験の代替措置が考えられます。採用後は、職場環境の改善や補助器具の提供、援助者の配置などが含まれます。これらの措置は、障害者の能力を最大限に引き出すために必要とされるものです。
厚生労働省が作成している「合理的配慮指針事例集【第五版】」によると、身体障害者手帳を最も多く交付されている肢体不自由の障害の場合、上肢(腕や手指、肘関節など)の障害、下肢(股関節、膝関節など)の障害、体幹障害(座位、立位などの姿勢の保持が難しいこと)、脳病変による運動機能障害(脳性まひ)等があります。
特に下肢に障害がある場合は、面接時の移動距離をできるだけ少なくする、車いす等の利用がしやすいような場所で面接を行う等の配慮を提供している事例があります。

<例:(募集・採用)面接の際にできるだけ移動が少なくてすむようにすること>
○ 入り口から近い場所を面接場所にすることで、面接場所への移動の負担を軽減した。(企
業の規模・業種、障害者が従事する職種によらず、多くの事例があった)
○ すべての試験が1つの会場で完結するように配慮した。(100~299 人/製造業(特例子
会社)/事務)
○ 車での移動を希望する場合に駐車場を確保した。(企業の規模・業種、障害者が従事す
る職種によらず、多くの事例があった)
(3)過重な負担
合理的配慮が過重な負担となる場合、実施は求められません。過重な負担の判断には以下の要素が考慮されます。
①事業活動への影響: 生産活動やサービス提供等への影響。
②実現困難度: 設備や人材の確保等の難易度。
③費用・負担の程度: 措置にかかる費用。
④企業の規模と財務状況: 企業の規模や財務状況に応じた負担。
⑤公的支援の有無: 公的支援の利用可能性。
事業主は、過重な負担と判断した場合、その理由を障害者に説明し、可能な範囲での配慮を行うことが求められます。
相談体制の整備
事業主は、合理的配慮に関する相談窓口を設け、障害者からの相談に適切に対応する体制を整備しなければなりません。また、相談者のプライバシー保護や、相談を理由とする不利益取扱いの禁止も重要です。企業は、障害者の雇用における公平な機会と待遇を確保するため、積極的な対策と相談体制の整備を進める必要があります。
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