高齢者の自動車運転に関する実態と意識について~アンケート調査結果より(2024年版)
公開日:2025年2月28日
事故防止

■自動車運転に対する自信は高齢になるほど高くなる傾向にある。これは過去に実施した2021年の調査と同様の傾向である。
■自信の度合いは性別で大きく差がある。75~79歳の男性は78.7%が自信があるとする一方、女性は44.0%と30ポイントを超える開きがある。
■75歳以上の回答者の約6割は直近の3年間で「ヒヤリ・ハット(注1)」の体験がない(あまりない+ほとんどない)としている。
■運転上の操作ミスによる「ヒヤリ・ハット」については、20~29歳の回答が最も多かった。
■運転継続意向は、年齢が上がるほど長くなる傾向がみられる。全体の平均値は76.1歳、中央値は77歳である。
■この5年間ほどは「高齢ドライバー=危険」という印象が定着してしまっている。しかし交通事故の統計データは、若年層、中年層が高齢層よりも安全ということは示していない。
調査の目的・背景
警察庁によると、2023年末時点での我が国の運転免許保有者数は約8,186万人となっています。この値は2019年から減少が続いています。その一方で、認知能力、反射神経、および身体能力の衰えから、事故を起こしやすいとされる75歳以上の運転免許保有者は、2019年末時点の約582万人から146万人増加し、2023年末時点で約728万人となり、全体の8.9%を占めるようになりました。
我が国における交通事故および死亡事故件数は年々減少傾向にありましたが、警察庁の統計によると2023年の交通事故は、284,692件(対前年+2.2%)、死亡事故は2,348件(対前年+3.5%)と増加に転じました。このうち75歳以上の運転者による交通事故は30,330件(対前年+13.1%)、死亡事故は384件(+1.3%)となりました。これらの背景から、超高齢社会における、高齢運転者の増加と高齢運転者による交通事故および死亡事故の増加という図式が、いよいよ明確になってきたというむきもあります。
そこで、高齢運転者の事故防止の取組への貢献を目的とし、2024年11月にMS&ADインシュアランス グループのMS&ADインターリスク総研は自動車運転者に対するアンケート調査を実施しました。本稿では、本調査のデータ分析の結果を紹介し、併せて2021年に同様の目的で実施したアンケート調査の結果との比較も試みます。
調査の概要
(1)調査実施期間
2024年11月11日~16日に実施した事前調査において、「月に数回以上運転することがある」と回答した各年代の男女計1,000人を抽出し、2024年11月18日~22日の間にインターネットによる調査を行いました。
(2)回答者属性
対象者1,000人(男性500人、女性500人)の主な属性は以下のとおりです。
①年齢
20~29歳、30~59歳、60~64歳、65歳~69歳、70歳~74歳、75歳~79歳の年齢区分ごとに150人、80歳以上が100人 (最若年20歳、最高齢90歳、平均60.9歳)。
②運転の頻度

③職業
無職(28.8%)、専業主婦・主夫(21.4%)、会社員(20.9%)、パート・アルバイト(15.1%)、自営業・自由業(6.1%)、学生(0.4%) 等
④居住地域

調査結果
(1) ご自身が運転される時の主な目的(複数回答)
表1にあるように、運転の主な目的について年代を問わず最も回答が多いのが「買い物」です。30歳以上の回答者の90%超が「買い物」と回答していることには注目したいです。また、「通院」は年代が上がるにつれて回答の割合が上昇し、75歳以上になると70%超となります。

(2) ご自身の運転には自信がありますか
20-29歳の「かなり自信がある」の回答の割合は全年代で最も高い10.0%となりました(表2)。また、75歳以上の回答者の「かなり自信がある」と「ある程度自信がある」の合計は50%を超えています。

図1では、「かなり自信がある」と「ある程度自信がある」の回答の合計を「自信がある」とし、「あまり自信はない」と「自信はない(多少の不安がある)」の回答の合計を「自信がない」として、年代別に比較をしました。図1のグラフは、年代が高くなるとともに運転に対する自信が高くなる傾向を表しています。
なお、破線は、各折れ線グラフの近似直線です(赤破線グラフ:青折れ線グラフの近似直線、青破線グラフ:赤折れ線グラフの近似直線)。

(3) 直近3年以内の運転で、ご自身の不注意・過失によって「ヒヤリ・ハット」を経験しましたか
全体では、ヒヤリ・ハット経験が「ほとんどない」の回答は15.1%でした。年代別に見ると75~79歳の「ほとんどない」の回答は19.3%と最も高いです。また、「20~29歳」の「よくある」の回答は6.7%と全年代で最も高いです(表3)。

(4) あなたが直近3年以内に経験した、「ヒヤリ・ハット」の原因となった出来事はどのようなことでしたか。(複数回答)
ここでは、ヒヤリ・ハット経験が「よくある」および「たまにある」とした回答者437人にその内容について聞きました。全体で多いのは「(夜間や雨などの見通しの問題で)車、歩行者が見えなかった」こと、および「運転中の注意散漫」によるヒヤリ・ハットでした(表4)。
高齢ドライバーによる死亡事故の原因の特徴として警察庁が指摘する、運転上の操作ミス(操作不適)である、「アクセルとブレーキの踏み間違え」、「ギアの入れ間違え」のヒヤリ・ハットについては、20~29歳の回答者数が最も多かったです。
なお、「アクセルとブレーキの踏み間違え」に関しては、80歳以上の回答者数は0でした。また、しばしば報道される「一般道・高速道での反対車線の逆走」のヒヤリ・ハットについては、70歳以上の回答者数は0でした。

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ヒヤリハットの事例を紹介し、防ぐための対策について解説しています。
(5) あなたが自動車を運転している時に不安を感じる状況について、最もあてはまるものを選択してください。(3つまで)
本調査では自動車の運転をするにあたって、ドライバーが不安を感じる状況について回答者に聞いています。回答が多かった上位3つは、「夜間(暗い状況)」、「狭い道路」、「降雨時」です。
年代別にみると、「夜間(暗い状況)」の回答については、「80歳以上」が76.0%と最も多く、「20~29歳」が51.3%と最も少ないという点は対照的です(表5)。
「不安を感じることはない」は全体で4.9%と回答の中で最も少ないです。ただし、この値は、回答者の年齢が上がるにつれ減少しており、つまり年齢が上がるにつれ「不安に感じる」ことが多いことがうかがえます。前掲の図1「自動車の運転に対する自信」の年代別傾向と照らし合わせると、逆の傾向を示しているといえます。

(6) あなたは自動車の運転を何歳まで続けたいですか
本調査では自動車の運転を何歳まで続けたいかという、いわゆる「運転寿命」について回答者に聞いています。年代別に見ると、運転継続意向は年齢が上がるとともに長くなる傾向がみられます。全体の平均値は76.1歳、中央値は77歳となりました(表6)。

(7) これまで運転免許証の返納を検討したことがありますか
運転免許返納の検討の有無に関しては、回答者全体では7.3%が「検討したことがある」としました。年代別にみると、70歳から年代返納を「検討したことがある」の回答が急上昇します。80歳以上の26%が「検討したことがある」としています(表7)。なお、運転免許の返納(申請による運転免許の取消)は2019年の601,022件をピークに減少を続けており、2023年は382,957件となっています。

(8) 運転免許証返納の検討のきっかけ
運転免許証の返納を「検討したことがある」とした73人の回答者に対して、そのきっかけについて聞きました(図2)。全体では「高齢者による重大事故のニュースを耳にした」の回答が群を抜いて高く、56.2%となりました。この回答を選んだ回答者の年齢はすべて70歳以上でした。

(9) 運転免許証を返納しなかった理由
ここでは、運転免許証の返納を「検討したことがある」とした73人の回答者に対して、返納しなかった理由を聞きました(図3)。「他の移動手段もあるが不便なため」とした回答者が突出して多く、64.4%でした。ちなみに「不便なため」と回答した80%は最寄りの駅・バス停から15分以内のところに住んでいます。
身分証明書としての必要性は1.4%と最も少なく、マイナンバーカードの普及もあり、身分証明書としての運転免許証の必要性はさほどではないことがうかがえます。

考察
(1) 自動車の運転に対する自信(2021年の調査結果との比較)
ここでは、図1に示した年代別の自動車の運転に対する自信の調査結果について、2021年に行った同様の調査のデータを加えて、比較を行いました。いずれも年代が高くなるにつれ自信が高くなる傾向は変わらないことがわかります(図4)。

(2)自動車の運転に対する自信(男女別)
前述のとおり、本調査では、回答者の年代が高くなるとともに運転に対する自信が高くなる傾向が見られましたが、その自信の度合いは性別で大きく差がある事には注目したいです。
図5のグラフで明らかなように、75~79歳の男性は78.7%が「自信がある」とする一方、女性は44.0%と、30ポイントを超える開きがあります。

2023年末時点の75歳以上の運転免許保有者は、7,282,757人で、男女の内訳は、男性4,773,711人に対し、女性は2,509,046人です。運転に自信のある割合を、男性の約7割、女性の約4割として単純計算すると、運転に自信のある75歳以上の運転免許保有者は、男性約333万人、女性約100万人となります。ちなみに、我が国の運転免許保有者総数は前述のとおり、約8,186万人です。
高齢運転者による交通事故防止の効率的なアプローチを考える際に、高齢運転者自身の能力に対する「過信」を危惧するのであれば、その対象セグメントは、全体の5.3%に過ぎず、そのうち男性の割合が4分の3です。こういった数字のイメージをもって検討することが望ましいです。
(3) 高齢運転者が危険だというイメージ
本調査では、回答者に75歳以上の自動車運転のイメージについて聞いています。図6にあるように、本調査の回答者で高齢者の自動車運転が「安全」とする回答は1割に満たないです。この結果は、2019年に警察庁の有識者会議が行った全世代対象のネットリサーチの結果とほぼ変わらないです。つまり、この5年間は「高齢ドライバー=危険」というイメージが定着してしまっていることがわかります。
しかし、2023年の警察庁の統計によると、「年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数」において、16~19歳の運転者は1,025.3件、20~24歳の運転者は589.5件と、85歳以上の519.9件を上回っています。また、同年の「年齢層別交通事故件数」においては50~54歳の運転者が最も多い27,485件であることがわかっています(注2)。交通事故の統計データは、決して若年層、中年層が高齢層よりも安全ということを示していません。この点は広く知られる必要があると考えます。

まとめ
本調査では、75歳以上の回答者の約6割が、自動車の運転に自信を持っていることが明らかになりましたが(表2)、そこには大きな男女差があることも明らかになりました。また高齢運転者は、夜間(暗い状況)など状況によっては若年層よりも運転の不安を感じることがあり、高齢者による重大事故のニュースには敏感な面も認められます。交通事故防止の効率的なアプローチを考える際には上記のような対象セグメントの傾向と、全体に対するボリュームを考慮することが望ましいです。
本稿の目的は、そういった高齢運転者のイメージをより鮮明にするために行っており、決して「高齢ドライバー=危険」のイメージを増幅させる狙いはないことをここで強調しておきたいです。併せて本稿が高齢運転者の交通事故防止の一助となれば幸いです。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のリサーチレター(2024 No.5)を基に作成したものです。
<参考文献>
警察庁(2019)『高齢運転者交通事故防止対策に関する調査研究』
警察庁交通局運転免許課(2024)『運転免許統計令和5年版』
警察庁ホームページ「統計表」
(注1)ここでいう「ヒヤリ・ハット」とは、結果として事故にはならなかったが、事故につながる一歩手前で回避できた(ヒヤリとしたり、ハッと息を飲んだりする)状況のことを指す。
(注2)新納康介(2024)「基礎研コラム」『“高齢ドライバーは危険?”正しい認知を妨げる認知バイアスの罠』