政府の企業向け人権尊重ガイドラインが確定、取組目的は侵害防止を強調

2023年8月16日

人事労務・働き方改革

政府が企業の人権尊重取組を推進するため策定を進めていた「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が、意見募集で寄せられた指摘の反映作業などを終えて内容を確定し、2022年9月13日に公表されました。構成および主要な内容は、2022年8月公表の原案から大きな変更はありませんが、ガイドラインの趣旨の明確化や具体例の提示などで追記・修正がなされています。

政府の企業向け人権尊重ガイドラインが確定、取組目的は侵害防止を強調

意見募集では、131の個人・団体から700件超の意見が寄せられました。意見を受けて行われた変更の主要なものは次のとおりです。

まずタイトルについて、ガイドラインの内容はサプライチェーンに限定していないことを理由に、「企業の人権尊重のためのガイドライン」といった代替案が意見で出されたことなどを受け、「等」が追加され、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」で最終化しました。

次に、企業が人権尊重に取り組む意義や主眼を明確にする表現に修正されました。原案でも、企業の人権尊重取組の主眼は人権侵害によって生じる被害の防止であり、企業経営リスクの観点からの評価や判断をすべきでないと示されていました。ただ、原案の表現は企業の取組の目的が経営リスクの低減や持続可能な社会・経済の実現に直接つながるように読めるといった指摘が複数ありました。そのため、確定版では、例えば「1.2 人権尊重の意義」で、「企業による人権尊重の取組は、論ずるまでもなく、企業活動における人権への負の影響の防止・軽減・救済を目的とすべき」と下線部を追記しています。続く文章で、自社の経営リスク低減は副次的な成果であることを強調する表現に変更されました。

また、対応する人権リスクの優先順位を検討する際の観点に、「蓋然性」(発生可能性)が追加されました。ただし、重視する順序を①(影響の)深刻度、②蓋然性、③自社との距離の近さ(直接の契約関係の有無)についても併せて提示しています。ほかには、特に被害を受ける可能性が高いステークホルダーとして、「女性(ジェンダー)」と「外国人」の記載を追加しました。例えば、「4.2.3 構造的問題」で、男女間の社会的・経済的な不均衡(ジェンダーギャップ)が根深い日本特有の問題を踏まえて、「女性」を明記しています。同項目には、「外国人」も追記された上、併せて国内で不当な扱いが相次いで問題化している外国人技能実習生について、複数の事項で人権侵害の事例などに取り上げられました。

取組内容の開示の重要性を強調するため、プロセスの開示を促す文言も追加されました。これは、現状や見通しなどをこまめに開示する方がステークホルダーの信用獲得につながるという根拠に基づいています。各企業における取組の段階に応じて、積極的な開示を促すよう求める意見を反映したものです。

ガイドラインが法的拘束力を持たないことは、原案と同様に明記され、「ソフトロー」の性格に変更はありません。現時点で、欧州諸国のように企業の人権取組を義務化する法制備が国内で進むかは未知数です。しかしながら、ガイドラインの確定で、企業に求められる社会的責任のレベルは着実に高まります。ガイドラインが求めるデューデリジェンスは、実効的な人権侵害リスク低減のPDCA サイクルの構築・運用と同義といえます。経済産業省が、企業の取組を支援する目的で具体的・実務的な資料を提供する意向も原案どおり明記されました。これらを参考に、規模の大小を問わずすべての企業は、人権尊重取組の着実な実践が必要です。

【参考情報】

MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2022年11月(No.8)を基に作成したものです。