不平等と差別の構造、「解体が緊急に必要」、国連人権作業部会が日本調査で表明
公開日:2023年11月13日
人権
国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」の普及促進を目的とする国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は2023年8月4日、訪日調査のミッション終了声明を公表しました。その中で、日本国内に、官民による取組が不十分な人権課題に「懸念を抱く」とし、女性や障がい者、外国人労働者などのぜい弱な対象への「不平等と差別の構造の完全な解体が緊急に必要」と表明しました。
不平等と差別の構造、「解体が緊急に必要」、国連人権作業部会が日本調査で表明
声明では、日本国内での「ビジネスと人権」の認識について、東京以外の地方や中小企業で浸透が不十分として政府の取組強化の必要性を強調しています。具体的な問題に、長時間労働や、外国人労働者・先住民などマイノリティの権利保護などを指摘しました。
今回の作業部会の調査にあたっては、国内の大手マスメディアの報道が特定の大手芸能事務所に関するスキャンダルに集中し、その他の指摘への注目が希薄でしたが、実際には日本の社会や企業に根強く残る人権軽視の構造的問題への言及が声明の大半を占めました。
声明は、日本国内の「リスクにさらされているステークホルダー」に、▽女性▽LGBTQI+▽障がい者▽差別部落▽先住民族と少数民族▽技能実習生と移民(外国人)労働者▽労働者・労働組合▽子どもと若者――を特定しています。特に企業活動に関連深い問題として、女性の社会進出の遅れや待遇格差、障がい者の低雇用率、外国人技能実習生への差別的処遇などに触れました。一方、大手芸能事務所の問題には最後段で触れているものの、メディア企業が「不祥事のもみ消しに加担」と断定した上で、搾取的な労働条件がハラスメントを助長したとして業界全体の問題との見方を際立たせる内容でした。
今回の調査は、「ビジネスと人権」作業部会が人権の状況が懸念される国に人権問題の専門家等を派遣・調査して人権理事会に報告し、各国に状況改善を促す取組です。本声明は暫定的なもので、最終報告書は2024年6月に国連人権理事会で提出されますが、報告書に法的拘束力はありません。
作業部会が指摘した日本の主な人権課題は以下のとおりです。
- ・東京以外の地方でUNGPsや日本政府の「ビジネスと人権に関する行動計画」(NAP)に基づく人権上の義務と権利の理解浸透が不十分
- ・NAPの策定に、労働組合や市民社会・地域社会の代表、人権活動家が関与していない
- ・中小企業にUNGPsの理解が広がっていない。企業(特に中小)の担当者育成に政府の関与が必要
- ・幅広い人権問題に対する裁判官の認識が低い
- ・国際基準を満たした政府から独立の人権救済機関が未設置
- ・女性、LGBTQI+、障がい者、差別部落、先住民族・少数民族、技能実習生・移民(外国人)労働者、労働者・労働組合、子どもと若者の人権に明らかな課題
- ・メディア・エンターテインメント業界の搾取的な労働条件が、性的な暴力・ハラスメントを不問に付す文化を作り出した
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2023年10月(第7号)を基に作成したものです。