帝国データバンク公表「人手不足倒産、急増止まらず 年度上半期の過去最多を更新 ~徐々に改善する価格転嫁、『賃上げ原資』の確保なるか~」
公開日:2024年10月18日
人手不足
帝国データバンクの調査によると、人手不足倒産の急増は止まらず、年度上半期の過去最多を更新しています。価格転嫁の状況は徐々に改善していますが、「賃上げ原資」の確保ができるかが人手不足解消の鍵となると考えられます。
本ニュースでは、帝国データバンクが実施した「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)」の調査結果について解説します。
はじめに
人手不足による経営へのダメージは深刻化しています。従業員の退職や採用難、人件費高騰等を原因とする「人手不足倒産」の件数は、2024年度上半期(4-9月)で163件に達しました。年度として過去最多を大幅に更新した2023年度をさらに上回る、記録的なペースで急増しています。
就業者数は増加しており、有効求人倍率も上昇に歯止めがかかるなど、各種統計では人手不足が落ち着いたような傾向もみられます。しかしながら、賃上げ機運が高まるなか労働市場の流動化が進んでいることが、人手不足倒産が増加している一因としてあげられます。帝国データバンクが毎月実施しているアンケート調査では、企業の人手不足感は高止まりしていることを踏まえると、今後も労働条件が厳しい小規模事業者を中心に人手不足倒産は高水準で推移するとみられます。
※人手不足倒産:法的整理(倒産)となった企業のうち、従業員の離職や採用難等により人手を確保できなかったことが要因となった倒産を指します。
急増続く人手不足倒産 「2024 年問題」の対象となる建設・物流業で高水準、飲食店では大幅増
2024年度上半期の人手不足倒産は163件に達し、同期間として2年連続で過去最多を記録しました。2023年度は313件となり前年度比2.1倍と大幅に増加したなかで、さらにそれを上回る可能性が出てきました。コロナ禍以降さらに深刻な社会問題として表面化した人手不足は、企業経営に深刻な打撃を与えています。
業種別では、建設業では55件(前年同期51件)、物流業では19件(同19件)と高水準が続き、合わせて全体の45.4%と多くを占めています。加えて、飲食店では9件(同2件)となり増加幅が大きくなっています。また、全業種を通じて従業員数10名未満の小規模事業者が多くを占めました。
徐々に進む価格転嫁、人材の確保・定着に必要な賃上げに向けて、原資の元手を作れるか
「2024年問題」の対象業種である建設・物流業において人手不足倒産が特に顕著であるなか、その背景として両業種とも人手不足を感じている企業の割合が約7割に達していることがあげられます。全体の51.5%を大幅に上回る高水準となっており、未だ低下に転ずる兆しは見られません。2020年度の前半こそ新型コロナの感染拡大によって人手不足感は一時的に緩和されたものの、以降は一転して経済の回復とともに上昇し続けました。こうした状況に加えて、2024年4月に時間外労働の上限規制適用がダブルパンチとなり、倒産に追い込まれたケースが続出する結果となりました。
一方で、改善がみられる部分もあります。人材の確保・定着にとって大きな要素である賃上げに向けて、その「賃上げ原資」の確保に欠かせない価格転嫁の状況を見ると、両業種は徐々に上昇しています。特に物流業においては2022年12月当時では全体と20ポイント近く差が開いていましたが、未だ下回っているなかでも差は縮まっています。今後は価格転嫁状況の改善による賃上げ、労働環境の改善によって人材の確保につなげられるかが人手不足の解消を左右するでしょう。
株式会社帝国データバンク発行の「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)」(2024年10月4日)を基に作成したものです。