帝国データバンク公表「従業員「退職」で倒産、 前年比1.6倍に急増過去最多を大幅更新へ」
公開日:2025年9月26日
人事労務・働き方改革

2025年1-7月に判明した人手不足倒産のうち、「従業員退職型」は74件で、前年同期(46件)から約6割の増加となりました。2025年通年では年間100件に達するとみられます。
IT産業や映像制作等の「サービス業」、「建設業」等の倒産が多かったです。また、2025年は業績悪化による賃金引き下げが原因の倒産も発生しました。転職市場で待遇改善を求める動きが広がるなか、賃上げできない中小企業の淘汰が進む可能性があります。
従業員の「転退職」で倒産、前年比1.6倍に急増
2025年1- 7月に判明した人手不足倒産251件のうち、従業員や経営幹部等の退職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の倒産は、合計で74件判明しました。前年同期(4 6件)から28 件・約6割増と急増しており、このペースで推移した場合、集計可能な2013年以降で最多だった2024年(90件)を大幅に上回り、初めて年間100件に到達することが確実な情勢となっています。
2025年7月までに発生した「従業員退職型」倒産を業種別にみると、最も多いのが「サービス業」(19件)で全体の25.7%を占めたほか、サービス業としては2013年以降、1- 7月ベースで最多を更新しました。サービス業では、人手不足の状態が慢性化しているソフトウェア開発等IT産業のほか、特に映像制作等の業界が目立ちました。
システム開発を手がけていたピーシーネット( 2025年1月、破産)は、小規模な運営のなかでエンジニアの引き抜きや人材流出、それに伴う外注費の増加等に直面したことで収益性が低下し、最終的に事業継続を断念しました。
次いで多いのが「建設業」(17件)で、設計者や施工監理者等、業務遂行に不可欠な資格を持つ現場作業員のほか、営業担当役員等幹部社員が相次いで退職し、事業運営が困難になった企業等が目立ちました。建売住宅の販売を手がけていたクレセントホーム(佐賀、2025年5月破産) は、新代表の就任以降に幹部社員が相次ぎ退職し、営業力や施工力が低下したことが痛手となりました。
「製造業」のほか「卸売業」、トラック輸送を中心とした「運輸・通信業」でも、2025年1- 7月の累計でいずれも過去最多となるなど、従業員の退職が引き金となって事業に行き詰まるケースが幅広い業種に広がっています。
また、不動産仲介のウィルプライズ(東京、2025年4月破産)では、業績が悪化したことで給与引き下げを実施した結果、従業員の退職が続き事業継続が困難となるなど、満足な給与水準を提供できないことが要因となった「賃上げ難倒産」も発生しました。
賃上げによって良い人材を高給で確保する動きが広がるなか、「待遇改善をしないことによる人材流出リスク」が中小企業を中心に高まっています。ただ、賃上げしたくても業績悪化等を理由に賃上げができない企業も多く、従業員に対し十分な報酬を支払う余力のない中小零細企業の淘汰が、「従業員退職型」倒産として今後表面化する可能性があります。

株式会社帝国データバンク発行の「「従業員退職型」の倒産動向(2025年1-7月)」(2025年8月6日)を基に作成したものです。