太陽フレアとは?経営にもたらす影響や被害、対策を詳しく解説
公開日:2025年4月7日
自然災害・事業継続

太陽フレアとは太陽の黒点付近で発生する巨大な爆発のことです。遠く離れた太陽表面で起こる現象ではありますが、惑星である地球にも大きな影響をもたらし、過去にもさまざまな被害が記録されてきました。
2025年は太陽活動が活発になるタイミングとされており、巨大な太陽フレアが発生するリスクが高いと考えられています。今回は太陽フレアの基本的な仕組みやメカニズムをご紹介した上で、社会や経済にどのような影響をもたらすのか、必要な対策とともに解説します。
太陽フレアとは

「太陽フレア」とは、太陽の表面で起こる爆発現象のことです。黒点の活動と強い関係性を持っており、詳細は後述しますが、地球に対してもさまざまな影響をもたらす現象として知られています。
ここではまず、太陽フレアの基本的な仕組みとメカニズムについてご紹介します。
太陽フレアの概要
太陽フレアは大きな黒点の周りで起こる大爆発のことであり、規模は1万から10万キロメートルにも達します。大規模なものはエネルギー換算すると、一度の大爆発で水素爆弾100万個分、あるいは全人類が使用する数十万年分の電力に匹敵するエネルギーを放出するとも言われ、太陽系でもっとも大きな爆発現象です。
太陽フレアが発生すると、X線等の電磁波や高エネルギー粒子、プラズマ等が放出され、最短約8分という短時間で地球に届きます。到達した電磁波やエネルギー粒子は目に見えないものの、地球環境にさまざまな影響を与え、人間社会にも大きな被害をもたらします。
爆発の大きさによって等級が区分されており、もっとも小さなA等級の発生頻度は1年間で約1万回です。もっとも巨大なX50等級に関しては50年に1度とされており、2012年には150年ぶりに巨大フレアが太陽の裏側で発生しました。
米航空宇宙局(NASA)は「太陽風が地球を直撃していれば現代文明を後退させるほどの威力があった」と発表しており、重大なリスクが潜んでいたことが明らかにされています。
太陽フレアが発生するメカニズム
太陽フレアが発生するメカニズムは、現時点では明らかになっていない部分も多いです。ただ、太陽の黒点を構成している強い磁場によってエネルギーが集約され、抑えきれなくなって一気に解放されることで爆発が起こると考えられています。
磁場にはN極とS極が存在し、二つの極をつなぐ磁力線では、ねじれや変形によって磁気エネルギーが蓄えられていきます。何らかの原因で磁力線のつなぎ変わり(磁気リコネクション)が起こると、磁気エネルギーの高い磁場配位から低い磁場配位へと変化し、その過程で大量の磁気エネルギーが放出されるのです。
現在では、この磁気リコネクションが太陽フレアを引き起こす重要な原因になっていると考えられています。
太陽の活動周期
太陽フレアの発生状況は、太陽の活動周期に大きな影響を受けます。太陽活動はおよそ11年の周期で変動を繰り返しており、太陽フレアと関連が深い黒点の増減も同様のサイクルで動いています。
現在の太陽活動は、2019年12月に第25活動周期に入っており、次にピーク(黒点の極大期)が訪れると見られているのは2025年7月です。夏ごろには強大な太陽フレアが頻発する恐れがあることから、国内においても総務省が被害想定を行い、必要な対策を検討しています。
太陽フレアによってもたらされる影響

太陽フレアが発生すると、地球には具体的にどのような影響がもたらされるのでしょうか。ここでは、通信・衛星・気候の三つの観点から、具体的な影響について解説します。
通信への影響
太陽フレアによって強力なX線が降り注ぐと、大気の上層にある電離層に影響を与え、不規則な乱れを発生させます。電離圏のもっとも低い高度の電子密度が増えると、通信に用いられる短波が吸収されてしまい、通信が行えなくなる恐れが生じます。
これを「デリンジャー現象」と言い、「無線通信が行えなくなる」「飛行機の運航に支障をきたす」「ラジオ放送が聞こえなくなる」などのさまざまな影響をもたらします。
人工衛星への影響
太陽から放出されたX線は、地球の上層大気を加熱し、膨張させる効果ももたらします。その結果、人工衛星が飛んでいる大気の密度が急激に上昇し、大気の抵抗力が高まって衛星の寿命を縮める恐れがあるとされています。
また、もう一つの影響として懸念されているのが、地磁気が急激に変化する「磁気嵐」と呼ばれる現象です。太陽フレアに伴って発生する「コロナ質量放出(CME)」が地球に衝突すると、磁場が乱れて大気中の電流が増大し、高高度の静止軌道にある人工衛星等に損傷を与える恐れが発生します。
地球の気候への影響
太陽の黒点の周りには、より温度の高い「白斑」と呼ばれる領域がたびたび現れます。太陽の表面では、黒点によって暗くなる効果よりも白斑によって明るくなる効果のほうがわずかに上回るのが特徴です。
そのため、黒点が増えれば、結果として太陽の明るさも増加することになります。その結果、地球に降り注ぐ太陽放射エネルギーも増え、平均気温を変化させる可能性があると考えられています。
また、太陽の活動周期によって地上に注がれる宇宙線の量が変わると、雲の成長が加速するなどの形で、地球の気候に影響をおよぼすといった研究報告もあります。ただし、太陽フレアがもたらす影響については、現時点で明らかになっているのはあくまでも一部であり、今後も研究が進められていくと言えるでしょう。
太陽フレアによって想定される被害

太陽フレアによる影響は、経済や生活の分野に大きな被害をもたらすと考えられています。ここでは、過去の被害事例も踏まえながら、想定される被害の内容を詳しく見ていきましょう。
太陽フレアによる被害額
アメリカの気象当局NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)では、大規模な太陽フレアが発生した場合、全世界で約160兆~320兆円もの被害が生じる可能性があると試算されています。太陽フレアによるさまざまな影響は、通信や電気を用いる幅広い産業に被害をもたらします。
例えば、2024年には太陽フレアの影響でGPSを用いた自動運転トラクターが動かなくなり、農業にも大きな被害をもたらしました。さらに、電力の関連設備等に被害が生じれば、ますます経済損失が大きくなると想定されており、国際的な対策が必要であると考えられています。
停電による被害
太陽フレアの影響で、特に大きな被害をもたらす恐れがあるのが停電です。1989年3月にはXクラスの巨大な太陽フレアが発生し、カナダのケベック州で約9時間もの停電を引き起こしました。
この停電によりおよそ600万人が影響を受け、機器の損害なども含めると推定1,320万ドルもの純損失が発生したとされています。また、アメリカのニュージャージー州では、変電所が破壊される被害も発生しました。
この原因は、磁気嵐によって磁場が変動し、変圧器に過剰な電流が流れてショートしたことによるものとされています。1989年当時の社会状況を踏まえると、デジタル化が進んだ現代ではさらに大きな経済被害が発生すると考えられるでしょう。
通信障害による被害
太陽フレアによる通信障害は、無線通信を用いるさまざまな分野に影響をもたらします。2001年4月には、当時の観測史上で最大級となる太陽フレアが発生し、飛行中の航空機と空港の間で電波が届かなくなる事態が発生しました。
航空機は40分間もの長時間にわたって位置が把握できなくなり、大事故につながる危険性があったとされています。また、2017年9月には、カリブ海で超大型ハリケーン「イルマ」等のハリケーンが複数発生し、周辺諸国に大きな被害をもたらしました。
その際、同時にXクラスの太陽フレアが発生しており、現地で緊急災害対応を行っていた連邦緊急事態管理庁(FEMA)等の短波通信に障害をもたらしたため、現場に大きな混乱が生じました。この時の太陽フレアは、ブラジルとフランス領ギニアの沿岸を飛行していたフランスの民間航空機にも約90分の通信障害をもたらしています。
また、通信障害にはサイバー攻撃のリスクも含まれます。通信インフラやデータセンター等が一時的な機能不全に陥ることによってセキュリティリスクが高まり、脆弱性が増す可能性がある点にも注意が必要です。
【関連記事】
サイバー攻撃の主な種類と対策について詳しく解説しています。
人工衛星への被害
2003年5月に日本で打ち上げられた人工衛星「初代はやぶさ」は、数億キロメートル先にある小惑星「イトカワ」に到達し、取得したサンプルを持ち帰るという世界初のミッションを担っていました。しかし、11月に当時の観測史上最大規模の太陽フレアに遭遇し、太陽電池パネルに深刻な劣化が生じてしまいます。
結果として、初代はやぶさはさまざまなトラブルを乗り越えて地球に帰還するものの、太陽フレアの影響で航行計画に3か月のズレが生じたとされています。また、2022年2月には、アメリカのスペースX社が打ち上げた人工衛星「スターリンク」が、49基中最大40基も大気圏に墜落してしまうという事故が起こりました。
事故後の調査の結果、太陽フレアにより上層大気が加熱されて膨張したことで衛星が受ける抵抗が増し、軌道を外れて落下したものとされています。
日本で想定されている被害

太陽フレアが日本国内にもたらす被害の想定について、総務省では2022年4月に『宇宙天気の警報基準に関するWG報告:最悪シナリオ』という報告書を、6月に『宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会報告書』という報告書を取りまとめています。
最悪シナリオとは、100年に1度の頻度で起こる極端な宇宙天気現象が起こった場合に、想定される被害の内容をまとめたものです。最悪シナリオでは、前提条件として「2週間にわたってX10クラスの太陽フレアが連続して発生」した場合が想定されています。
それによれば、主な被害として次のようなものが挙げられています。
■通信・放送に関する被害
短波通信は発生直後から2週間にわたり、全国的に使用不可能となる状態が断続的に発生するとされています。さらに、超短波・極超短波も昼間の時間帯は断続的に使用できなくなり、「携帯電話システムの停止」「緊急通報の接続不良」「スマートフォンからのネット接続不良」「FMラジオ・地上デジタル放送の受信障害」等が発生すると考えられています。
また、L帯の周波数を用いる通信回線も不調になるため、「航空・船舶・電力・ガス・石油などのライフライン企業の運営に支障をきたす」「自治体の防災・重要拠点のバックアップに著しい制約が生まれる」などの影響も想定されます。
■衛星に関する被害
測位の大幅な劣化や途絶が2週間にわたって続き、「ドローンの位置精度の低下」「カーナビの不良」「自動運転の障害」といったさまざまなシステムに影響をもたらすと考えられています。万が一必要な安全対策を持たないシステムが運用されれば、最大数10メートルもの誤差が生まれ、衝突事故に発展する恐れもあるでしょう。
また、安全確保のための運行見合わせや、ナビの不良による位置情報のズレにより、人流や物流にも多大な被害が生じると想定されています。
■電力に関する被害
必要な対策が講じられていない電力インフラについては、保護装置の誤作動が生じ、広域停電を発生させる可能性があります。また、誤作動が起こらなかったとしても、電力供給に制限が生まれることで、産業全体に大きな被害をもたらす恐れがあります。
多数の変圧器が損傷することがあれば、交換そのものに多くのコストや労力が発生するでしょう。
太陽フレアに備える対策

今回ご紹介したように、太陽フレアは地球規模の被害をもたらすとともに、経済や日常生活にも影響を与える身近な問題です。被害を最小限に抑えるためには、民間レベルでも対策を講じておくことが大切です。
停電対策
まずは、物流に影響があった場合に備えて、非常食や飲料水の準備といった基本的な災害対策を行うことが大切です。地震等の自然災害への備えとして防災用品を整えておけば、太陽フレアへの対策にも役立ちます。
その上で、停電による日常生活や事業への影響を踏まえ、予備電源(太陽光パネル・蓄電池・電気自動車等)を準備しておくのが理想です。
通信障害対策
電波障害が発生する可能性に備え、複数の連絡手段を確保しておくと安心です。携帯電話が使えなくなってしまった場合でも、公衆電話や地上のインターネット回線は使える可能性があるため、緊急時の連絡手段として頭に入れておくと良いでしょう。
事前に公衆電話の設置場所を調べておくとともに、インターネット回線を使うケースに備えて、メールやSNSといった電話以外の連絡先を把握しておくことが大切です。
宇宙天気予報をチェックする
太陽フレアの被害を抑えるには、ある程度の発生可能性を予測し、できるだけ早く対策を講じることも大切です。そのための手段として活用できるのが、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が1988年から運営している「宇宙天気予報」です。
NICTでは、365日24時間体制で、人工衛星等による観測データを通じた太陽の監視が行われており、その内容を宇宙天気予報としてまとめています。予報では太陽フレアの状態に加え、地磁気擾乱や電離圏嵐、デリンジャー現象といったデータを一覧でチェックすることが可能です。
また、レポートとして詳しい日報や週報もまとめられているので、太陽活動の状態をリアルタイムで細かく調べることができます。
予報の内容はホームページでも確認できるものの、あらかじめ情報登録しておけば企業にもメールで配信してもらえます。いつもと異なる現象が起きれば、ただちに臨時情報として伝えてもらえるため、緊急時の動き出しがスムーズになるでしょう。
まとめ
太陽フレアは地球から遠く離れた太陽で起こる現象ですが、過去の事例から通信障害や停電等がもたらされているため、企業においても一定の備えを行っておくことが重要です。自然災害への備えと併せて、太陽フレアが発生した時の対応についても確認しておきましょう。
また、宇宙天気予報等をチェックして、日ごろから関連する情報を集めておくことも大切だと言えます。サプライチェーン等とも連携をしながら、自社の取組を進めてみましょう。