台風等による風水害への備え
公開日:2023年12月25日
自然災害・事業継続
2023年7~8月の台風6号・7号、そして9月には台風13号等、この3か月間で日本各地で大きな被害が発生しました。被害に遭われた皆さまには心からお見舞い申し上げます。
本稿ではこれらの災害の教訓等も踏まえて、今後の台風等の風水害への必要な備えを取り纏めました。
台風6号、7号、13号の概要
2023年7~8月は台風6号と7号、そして9月には台風13号等、この3か月間で日本各地に大きな被害をもたらす台風が相次ぎました。本稿ではこの3つの台風を振り返るとともに、今後、予想される台風等の風水害に対する必要な備えを取り纏めたものです。まずは台風6号、7号、13号の概要を示します。
台風6号は2023年8月2日に最も沖縄に接近、いったん東シナ海に進んだのち、6日に再び沖縄地方に接近しました。その後、9日には九州の西の海上を北上しました。24時間降水量は鹿児島県の2地点で観測史上1位の値を更新しました。人的被害は83人、住家被害は64棟でした(内閣府、2023年8月10日時点速報)。
台風7号の特徴は速度が遅く、長時間にわたって影響をおよぼしたこと、暖かく湿った空気を大量に運んだことにより経路から離れた地域でも大雨となったこと、陸地を横断した後も勢力が衰えず北海道付近まで進行したことです。2023年8月15日に和歌山県に上陸したのち、近畿地方を北上し日本海に達したこともあり、西日本だけではなく、東日本を含む広い範囲で大雨となりました。24時間降水量は岩手県、岐阜県、兵庫県、岡山県、鳥取県の8地点で観測史上1位の値を更新しました。人的被害は65人、住家被害は181棟でした(内閣府、2023年8月17日時点速報)。
台風13号は、2023年9月5日から7日にかけて日本の南を北上、8日には東海道沖へ進んで熱帯低気圧に変わりました。24時間降水量は茨城県、千葉県の4地点で観測史上1位の値を更新しました。人的被害は22人、住家被害は2,929棟でした(内閣府、2023年9月12日時点速報)。台風6号、7号と比較すると住家被害が極めて大きかったです。
今回の台風の影響による防災面での特徴は次の2点です。1点目は事前防止行動(タイムライン防災)が有効に機能したことです。台風6号では、九州への上陸に先立ち鉄道や航空便等の公共交通機関、公共施設をはじめ、製造業・流通業等で、混乱防止の観点から前もって休業を決定する企業が多かったです。
2点目は公共交通機関が長期間にわたって停止したことです。台風6号については沖縄付近を二度にわたり台風が通過したこともあり沖縄発着の航空便が長期間欠航、多くの観光客が沖縄で足止めされました。また台風7号では上陸した2023年8月15日だけではなく17日午前中まで東海道新幹線を含む各路線での運休が続きました。
今回の台風の教訓を踏まえた企業に必要な対応
(1)事前防止行動(タイムライン防災)の策定
台風6号では、九州への上陸に先立ち航空便の欠航や公共交通機関の計画運休が行われたほか、製造業、流通業等を中心に混乱防止の観点から前もって休業を決定する企業が多かったです。事前防止行動(タイムライン防災)が有効に機能したものと考えます。
台風接近に伴い災害の発生が予想される場合には、風雨のピークの3~4日前から情報収集を行ない、土のう等の活用による建屋内への浸水被害の防止や、操業体制の見直し等による従業員の出退勤や物流等の混乱を抑制することができます。
風水害が予期された場合に実施すべき事項をあらかじめ洗い出し、実施計画や体制を時系列に沿って準備することで被害を最小限に抑制することができる「タイムラインに沿った防災行動計画」を策定しておくことが望まれます。策定の基本的な流れは次のとおりです。
①気象庁は台風災害の危険性の確度が高い場合には、災害ピーク時の3~4日前に災害への警戒を呼び掛ける情報発信を行います。企業としてもこの時点から災害ピーク時の人命安全配慮や操業停止を見据えて、必要情報の収集や業務優先度の確認、取引先や顧客への対外的な措置等を講じていきます。
②ピークの2日前頃には交通インフラ(高速道路、船舶、鉄道、航空等)が通行止め、計画運休、欠航等の予定を発表される可能性があり、従業員の出退勤可否と事業継続の必要要員が確保されるかを加味した判断が求められます。
③操業が交通インフラの状況に影響されやすい物流業、流通業等では早期に集荷・配送の停止、店舗の休業、店舗入荷の増加等の実施を検討します。各企業におかれては防災対策や被災時の応急対応に必要な物資の調達が災害ピーク時には困難となる可能性があり、台風期前での備品調達が望ましいです。
④製造業においては浸水リスクの高い事業所を中心に土のう、止水対策、資産の浸水回避(高所移動)等の水害対策や、屋外品の収容または固定・補強など強風対策を災害ピーク時の2日前に実施・完了します。特に週末にかけての台風最接近となる場合には早めの判断・対応が必要です。
(2)長期間にわたる公共交通機関停止への備え
台風6号では、沖縄付近を二度にわたり台風が通過したこともあり2023年7月31日から8月7日を中心に沖縄発着の航空便が長期間にわたって欠航しました。このため運行再開後、観光客を中心に航空便の確保の観点で多くの混乱が生じました。
台風7号では、3日間にわたって東海道新幹線のダイヤが乱れました。2023年8月15日は台風接近に伴う計画運休でしたが、翌日の16日も三島~静岡間等、局地的に基準を超える大雨となったことで運休が続き、ダイヤの混乱は17日までおよびました。
台風の接近に伴う公共交通機関の計画運休が行われることが一般的となり、人流の観点からの混乱は生じにくくなりました。一方で今回の2つの台風を踏まえて、長期間にわたる公共交通機関の停止が新たに検討すべき課題として生じることになりました。今回の事例は人流への影響が中心でしたが、物流面への波及も念頭に、特に製造業や流通業では災害時に備えた適正在庫の見直し、物流業では災害時の人員確保等も平時に検討しておくことが必要と考えます。
企業における台風への備え
企業として実施すべき台風対策は、平常時・緊急時・事後の3段階に分類できます。末尾に掲載の対策チェックリストを参考に、対策の策定・見直しに活用いただければ幸甚です。
(1)平常時の対策
①リスクの洗出し
事業所に潜在する風水災リスクを洗い出します。立地場所に係わるリスク情報をハザードマップ等で収集するとともに、施設の脆弱な箇所(強風や浸水で被害発生が想定される箇所など)を把握することが重要です。また、事業フローを整理し、ボトルネック(事業中断や復旧遅延に大きく影響する要素)をしっかりと見極めることがポイントといえます。
②リスク低減策の準備
洗い出したリスクについて、平常時および緊急時に実施する対策を明確にします。
日常的な点検で発見された建物の損傷箇所は、被害の拡大防止のために速やかに修繕してください。一方、建物全体について健全な状態を維持するためには、中長期的な観点で取り組む必要があります。建物の経年劣化に伴って風や雨による被害が発生しやすくなるため、部材の適切な修繕・更新周期に基づいた工事の計画・実施が望まれます。劣化が顕著になる前の予防保全とともに、修繕費用の把握や工事時期の調整が可能になる等のメリットがあります。なお、部材の劣化状況によっては、計画より前倒しでの対応が必要となることも想定されるため、修繕・更新予定の前年等に専門業者による点検を行った上で工事の実施時期を判断してください。
緊急時に備え、誰が何をどのタイミングで実施するかを明確にした事前防災行動計画(タイムライン防災)を策定することが重要です。先を見越した早めの行動が可能になり、必要な実施事項の抜け漏れの防止、社内でのコミュニケーションツール等に活用できます。この計画および実施手順が盛り込まれたマニュアルに基づいた訓練を定期的に実施し、防災対応力を高めていくことを推奨します。
台風シーズン前には排水系統を清掃するとともに、緊急時に必要な資機材を確認します。また、台風が接近した際の行動ルールを改めて周知することが重要です。
(2)緊急時の対策
台風の発生や接近が予測された際には、台風情報や防災気象情報、リアルタイム情報(実況情報)を注視しながら、タイムラインに沿って行動します。
台風襲来の数日前においては、強風・大雨のピークがいつ頃になるかを確認し、操業時間の短縮や出社・外出の可否を判断します。また、保管品の固定・移設や建物開口部の養生、非常用発電機・排水ポンプの試運転もピーク前に実施してください。
なお、強風・大雨の発生時に屋外で行動することは避けてください。事業所や従業員の自宅周辺で大規模な災害の発生が想定される場合には、安全な場所への早めの避難および安否の連絡を徹底することが重要です。
(3)事後の対策
台風が通過した後は速やかに施設を点検・修繕します。被害の発生箇所は記録に残し、被害の再発防止措置を検討することが望まれます。また、緊急時での対応行動全体を振り返り、洗い出された課題への解決方法を計画やマニュアルに落とし込み、次の台風に備えることが重要です。
【風水害対策チェックリスト】
MS&ADインターリスク総研株式会社発行の災害リスク情報2023年11月(第95号)を基に作成したものです。