2024年問題を理解するためのはじめの一歩!
公開日:2023年11月10日
2024年問題
「2024年問題」とは、働き方改革の一環として労働基準法や労働安全衛生法、労働者派遣法等が改正されたことで、2024年4月以降に発生するさまざまな問題の総称を指します。具体的には、2019年4月(中小企業は2020年4月)から、時間外労働の上限が法律で制定されましたが、自動車運転者や建設業といった一部の業務・事業については、長時間労働の背景に業務の特性や取引慣行の課題があることから上限の適用が5年間(2024年3月末まで)猶予されることになりました。この猶予期間が終了した時(2024年4月以降)にさまざまな問題が発生することが懸念されているのです。
中でも物流業界では、時間外労働の上限が設定されることで、主に長距離トラックドライバーの担い手が不足し、物流に大きな影響を与えると想定されています。
今回は2024年問題を正しく理解するために、おさえておきたい基礎知識について解説します。物流業界の現状や2024年問題による影響とともに、対応策もあわせて確認しておきましょう。
物流の2024年問題とは
「物流の2024年問題」とは、2024年の4月以降に、自動車運転業務などの時間外労働の上限が規制されることに伴って生じるさまざまな影響・課題の総称です。特にトラックドライバーの残業規制により、運送業への大きな影響が予測されています。
主な内容としては、自動車運転業務の時間外労働について、2024年4月より「年960時間の上限規制」が適用される点があげられます。何も対策を講じなければ、2024年度には約14%(4億トン相当)、2030年度には約34%(9億トン相当)の輸送力が不足するとの見方もあり、大規模な物流の停滞につながってしまうというのが主要な課題です。
物流業界を巡る現状と働き方改革の影響
そもそも、運転業務における時間外労働の規制は、どのような経緯で導入されるのでしょうか。ここでは、物流業界における労働力の現状や、働き方改革に伴う影響について見ていきましょう。
トラックドライバーの働き方における状況
厚生労働省の調査データをもとに、国土交通省自動車局が作成した資料によれば、トラックドライバーの年間労働時間は全産業と比較して約2割長く、一方で年間所得額は全産業と比較して2割程度低いというデータが示されています。
このデータを見る限り、トラックドライバーは「労働時間が長い」「労働時間に対する所得が低い」といった2つの課題を抱えていることがわかります。それにより、深刻な担い手不足の状態が生じており、有効求人倍率は2017年から5年連続2倍程度で推移しています。(全業種における有効求人倍率の平均は1.3倍程度)
トラックドライバーの長時間労働には、もちろん単純な「運転時間の長さ」も大きく関係していますが、「荷待ち時間(荷物の積み下ろしのためにドライバーが待機している時間)」や「荷役作業等(荷積み・荷下ろし・附帯業務)」も主な要因です。
時間外労働の上限規制
労働基準法の改正に基づき、自動車の運転業務の時間外労働には、2024年4月から年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用されることとなっています。
これにあわせて、厚生労働省がトラックドライバーの拘束時間(労働時間+休憩時間)等を定めた「改善基準告示」(貨物自動車運送事業法に基づく行政処分の対象)により、拘束時間等に関するルールが見直されています。また、国土交通省は過労運転防止の観点から、改善基準告示の内容を通達し、行政処分基準として運用しています。
これらの改正内容をまとめると、次の表のとおりです。
物流業界に生じる影響
これまで見てきた時間外労働の上限規制などにより、物流業界には長距離ドライバーの不足によるさまざまな影響が生じると考えられています。なぜなら、規制の強化により、従来と同じ長距離輸送の方法では、労働基準法違反や改善基準告示違反となってしまう可能性が生じるためです。
実際のところ、全日本トラック協会のアンケートによれば、長距離輸送においては約39%の事業者が「時間外労働時間960時間を超えるドライバーがいる」と回答しています。こうした事業者では、規制に適応するために、長時間労働に基づいた運行計画を見直さなければなりません。
運行計画によっては、これまで1人のドライバーで担っていた業務をこなすために人員を増やさなければならないケースも生じるでしょう。そのため、人員確保のためのコストが増加するといったさまざまな影響が懸念されています。
2024年問題への対応策
これまで見てきたように、2024年問題による影響がもっとも大きいのが物流業界であることは確かです。しかし、物流は経済や人々の生活を支える重要な社会インフラとなっており、その機能の維持については、業界だけでなく国レベルで取り組むべき課題として捉えられています。
2024年問題への対応策として、経済産業省、農林水産省、国土交通省の連名で策定された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」では、発荷主事業者・着荷主事業者・物流事業者が早急に取り組むべき事項がまとめられています。ここでは、その内容について詳しく見ていきましょう。
物流業務の効率化
ガイドラインでは、人手不足を直接的に解消するための対応策として、物流業務の効率化・合理化が掲げられています。具体的な取組事項(発荷主事業者・着荷主事業者に共通する取組事項)としてあげられているのは次の4つです。
前述のとおり、トラックドライバーの長時間労働については、運転時間だけでなく荷待ちや荷役作業の時間も大きな要因となっています。例えば、荷役作業には荷積みや荷下ろしだけでなく、附帯業務(品代金の受領・貨物の荷造り、仕分け・保管・検収および検品、ラベル貼りなど)も含まれており、積み重なることで大きな負担を生み出してしまいます。
そこで、まずは荷待ちや荷役作業の時間を把握し、改善の糸口をつかむことが重要です。その上で、長時間のロスを防ぐために、荷主事業者に対しては「荷待ち・荷役作業の2時間以内ルール」が設けてあります。
また、既に2時間以内を実現している事業者においては目標時間を1時間とし、さらなる時間短縮に努めることが示されています。3つ目の「物流管理統括者」とは、物流の適正化を実現するために、販売部門や調達部門などとの交渉・調整を行う責任者のことです。
各荷主事業者に対しては、物流管理統括者を選任して、総合的に物流の適正化・生産性向上を実施することが示されています。そして、ガイドラインでは「物流の改善提案と協力」として、事業者間の商取引契約にも着目しています。
具体的な内容としては、過度な負担が発生している部分がないかを検討して改善する、物流事業者などから荷待ちや荷役作業の合理化について要請があった場合は真摯に応じるというものです。
物流業務の改善のためには物流事業者だけでなく、荷主側の協力も必要である点をおさえておきましょう。
運送契約の適正化
ガイドラインでは、運送契約そのものの適正化にも触れられています。具体的な内容は次のとおりです。
2つ目の「荷役作業等の対価」とは、荷主事業者が荷役作業などを依頼する場合には、物流事業者に対して適正な料金を対価として支払うというものです。また、3つ目の内容は待機時間料や附帯業務料といった料金を運賃とは別建てで収受するものです。
また、燃料サーチャージ(燃料価格の変動分を別建ての運賃として設定する制度)の導入や下請取引の適正化など、物流事業者を守るための指針も示されています。
輸送・荷役作業の安全確保
ガイドラインでは、ドライバーの安全を守る上で重要となる安全確保の考え方も示されています。具体的な内容は、台風・豪雨・豪雪といった異常気象時には無理な運送依頼を行わないこと、運行の中止・中断等が必要と物流事業者が判断した場合はその判断を尊重することとされています。
デジタル化の推進
物流業界が抱える課題を解決する上では、業務のデジタル化も重要なテーマとなっています。デジタル化の具体的な取組の1つが、大型トラックへのデジタコ(デジタルタコグラフ)の装着です。
デジタコとは、自動車運転時の速度や走行時間、走行距離、エンジン回転数といった運行データを取得・記録するための車載機器です。既に2015年から、車両総重量が7トン以上または最大積載量が4トン以上のトラックにはデジタコの装着が義務付けられており、労務管理の精度向上や安全運転意識の向上につながっています。
また、物流事業者における全体的な人員不足に対応するためには、車両管理システムや運行管理システムの導入といった事務面でのデジタル化も重要です。少ない人員で急な注文やルート変更に対応する上では、車両の稼働状況や運行状況をリアルタイムで把握できるシステムの構築が欠かせません。
その上で、物流業界全体の取組としては、複数の荷主による荷物の「共同輸配送」促進が大きなテーマとなっています。これは、1台のトラックで複数の荷主が共同で輸配送を行うことで、積載効率の向上をめざすという取組です。
また、行きの輸配送のみのいわゆる「片荷」となってしまう場合でも、共同輸配送が実現されていれば安定して帰り荷の確保が行え、空車回送の削減にもつながります。
まとめ
2024年問題は、2024年4月から運送業などにおける時間外労働が年960時間以内に制限されることで生まれるさまざまな影響のことです。物流業界においては、もともと担い手不足を抱えていたこともあり、2024年以降はますます深刻な人員不足が起こると考えられています。
そこで、国のガイドラインでは、基本的な対応策として各事業者が取り組むべき事柄や指針が示されています。まずはガイドラインの内容を確認し、物流事業者や荷主事業者がそれぞれどのような取組を行うべきであるかを丁寧に把握しましょう。
その上で、2024年問題が自社に与える影響を精査し、物流業務の効率化や運送契約の適正化等、具体的な対抗策を実行していくことが求められています。