物流改革に向けた政策パッケージの取組内容のご紹介
公開日:2025年1月24日
2024年問題

長時間かつ不規則なトラックドライバーの勤務状況や人手不足の解消に向けた取組の必要性が叫ばれてきた「物流2024年問題」ですが、トラックドライバーの労働時間に関する規制の施行から約10か月が経過し、間もなくその2024年度も終わりを迎えようとしています。本ニュースでは、現在の物流の状況および物流の効率化に向けて政府や事業者により進められている施策をご紹介します。
労働規制強化後の物流現場の状況
2024年4月1日にトラック運転手の年間労働時間の上限が原則3,300時間に短縮されました。これにより人手不足が深刻化し「モノが運べなくなる」可能性が懸念されてきました。では、労働時間の上限規制がスタートしてからの状況はどうなっているでしょうか。
2024年4月~7月の輸送量は8.6億トンと前年同期比で3.6%増加しています。輸送能力の不足が懸念されていましたが、現時点では前年以上の水準を維持しており、トラック輸送を取り巻く各事業者の企業努力によって効率化が進んできていることが伺えます。
一方、トラックドライバーの労働環境や多頻度少量輸送での低い積載率、長い荷待ち時間などの問題は依然として解消されておらず、運送業界が厳しい環境にあることに変わりはありません。このままでは2030年度には物流需要に対して輸送能力が34%不足すると予想されており、一層の効率化や自動化の推進が急務です。そのための取組として、国土交通省は「物流改革に向けた政策パッケージ」を策定し、中長期的対策を法制化できるよう対応を進めています。
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物流改革に向けた政策パッケージのポイントと取組事例
国土交通省が策定した「物流改革に向けた政策パッケージ」は①物流の効率化、②商慣行の見直し、③荷主・消費者の行動変容を柱とした総合的な施策を取りまとめたものです。ここでは、物流業者に大きく関わる「物流の効率化」について、取組事例とともに概要をご紹介します。
(1)道路・港湾等の物流拠点に係る機能強化・土地利用最適化や物流ネットワークの形成支援
≪取組内容≫
農産物輸送においては、大産地が消費地から遠方に位置し、長距離輸送が多いことから、複数ドライバーによる中継輸送が重要となります。そのため、以下取組を実施しています。
① 物流生産性向上推進事業
物流の標準化、デジタル化、モーダルシフト、ラストワンマイル配送、効率化、コールドチェーン設備の導入を支援
② 中継共同物流拠点施設緊急整備事業
中継輸送、モーダルシフト、共同輸配送に必要となる中継共同物流拠点の整備を支援
③ 生体家畜の長距離輸送
陸上・海上・鉄道の組合せ輸送や中継拠点を活用したリレー輸送の実証取組を支援
≪取組事例≫
・ホクレン農業協同組合連合会では、バラ積みが主流であるかぼちゃを、標準パレット(T11パレット)に適合した段ボールを用いたレンタルパレットでの輸送実証を実施。パレット輸送により、産地での積込み・市場での荷卸し作業時間を平均150分から60分に58%削減。
・北九州市中央卸売市場内で青果卸売業者が中継共同物流拠点を整備し、全国農業協同組合連合会が中継事業を実施。九州各県の荷物を集約し、大ロットでの輸送や鉄道・船舶へのモーダルシフトを推進。新門司港から横須賀港間の約1千Kmを船舶輸送にモーダルシフトした場合、トラックドライバーの運転時間を平均27時間から4時間に85%削減。

(2)モーダルシフトに対応するための港湾施設の整備等
≪取組内容≫
国土交通省では、鉄道、内航(フェリー・RORO船等)の輸送量・輸送分担率を今後10年程度で倍増する目標を策定し、以下取組を実施しています。
・鉄道輸送
31ftコンテナの必要数確保やコンテナ荷役が対応可能な駅等の施設整備、国際海上コンテナ輸送に必要な低床貨車の導入、貨物駅の施設整備と災害対応強化。
・内航海運
内航船を通じた中継輸送に使用するシャーシの必要数確保や新船投入及び船舶の大型化促進、内航フェリー・RORO船ターミナルの機能強化、海運事業者によるネットワーク強化。
≪取組事例≫
・モーダルシフトに向け、船舶大型化や情報通信技術を活用した荷役効率化に対応する次世代港湾ターミナル整備を推進。モーダルシフト推進に資する機器の導入等を行う実証事業に要する費用を補助。

・2024年12月から2025年3月までの間、敦賀港と大阪港にて「ターミナル管理システム」の実証実験を開始予定。この検証では業務時間やシャーシ滞留時間の削減など、システム導入の効果に関する計測・分析を行い、かつシステムの精度や導入による荷役効率化の効果などを検証していく。

(3)高規格道路整備等による物流ネットワークの強化
≪取組内容≫
・「ダブル連結トラック」の導入や運行路線の拡充、対応駐車スペースの整備を実施しています。
・料金所業務の効率化や渋滞解消のため、ETC専用化を計画的に推進しています。
≪取組事例≫
・2024年4月大型トラックの最高速度を90km/hに引上げ。
・2024年9月連結トラックの通行可能区間を5,140kmから6,330kmへ23%拡充。
・駐車スペースは2023年6月時点で125ヵ所269台分を整備。今後は全国12ヵ所の休憩施設等で連結トラック優先駐車スペースを新たに整備し、改善基準告示(連続運転時間4時間で30分の休憩)を超過する箇所を解消していく。
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今後の展開
2025年以降も人手不足はますます深刻化する見込みであり、国土交通省では2030年度に向け、多様な輸送モードの活用推進を進めていますが、現状では大手事業者を中心に対策は進んでいるものの、中小事業者では対策の遅れが目立っており物流効率化の二極化が進行している状態です。上記にて紹介した補助制度を積極的に活用し、モーダルシフト(トラックから鉄道や船舶への転換)やダブル連結トラックの導入などにより、輸送効率の向上を目指していくことが期待されています。
【参考文献一覧】
この記事は、「MS&AD Marine News 2024年12月17日発行分」を基に作成したものです。