デジタルタトゥーとは?企業に与える影響と対応策を解説

公開日:2024年10月21日

サイバーリスク

インターネットやSNSの普及により、ユーザーが自ら情報発信を行う機会が格段に増えています。個人でも簡単に情報を公開・拡散できることから、利便性が高まる一方で、炎上や風評被害等のリスクが高まっていると言えるでしょう。

そのなかでも、企業にとって特に注意が必要なのが「デジタルタトゥー」です。この記事では、デジタルタトゥーの概要や危険性について解説した上で、企業がとるべき対応策をご紹介します。

デジタルタトゥーの概要

「デジタルタトゥー」とは、「デジタル」に刺青を意味する「タトゥー」を組合わせた造語です。ここではまず、デジタルタトゥーの基本的な意味や類似する用語との違い、危険性について見ていきましょう。

デジタルタトゥーの意味

デジタルタトゥーとは、インターネット上に投稿者の意図に反して半永久的に書き込まれた情報や画像等を指すものであり、「刺青」になぞらえた表現のことです。一度インターネット上に公開された情報は、誰もが自由にコピーすることができ、一気に拡散されてしまう恐れがあります。

なお、デジタルタトゥーに類似する言葉に「デジタルフットプリント(デジタルシャドー)」があります。デジタルフットプリントは、インターネットを利用した際にオンライン上に残るさまざまな記録のことです。

例えば、ホームページの閲覧履歴やログイン情報といった受動的なもの、あるいはSNSのプロフィール等の個人情報が該当します。

デジタルタトゥーの危険性

デジタルタトゥーの危険性は、本人や家族、友人を特定するような個人情報が不特定多数に公開されてしまう点にあります。例えば、個人の住所や所属がわかってしまうような情報が拡散され続ければ、より直接的な誹謗中傷を受けたり、犯罪に巻き込まれたりするリスクが生じるでしょう。

そして、もう一つの危険性は、本人の意に反してインターネット上、あるいは不特定多数の端末等に情報が残り続けてしまう点にあります。写真のようなデジタルデータは、単にインターネット上のみに存在するだけでなく、個人のデジタル端末等に保存されるケースもあります。

そのため、仮にSNSのアカウント削除等で元のデータを削除したとしても、複製されたデータまではコントロールできません。一度情報が不特定多数に拡散されれば、本人を含めて誰にも完全に消去することはできず、「なかったこと」にするのはほとんど不可能です。

このように、後戻りができない不可逆性を持っているのも、デジタルタトゥーの重大な危険性と言えるでしょう。

サイバー攻撃の主な種類と対策について詳しく解説しています。

 

デジタルタトゥーの種類と被害

デジタルタトゥーにはいくつかの種類があります。予防のための対策を行う上では、あらかじめ具体的なパターンを把握しておき、ケースに応じた手を打つことが大切です。

個人情報の流出

個人情報の流出は代表的なデジタルタトゥーの例です。個人のトラブルとしては、例えば「自画撮り写真が不特定多数に拡散されてしまった」「個人・家族の住所や職場等の情報が勝手に公開された」といったケースが挙げられます。

また、企業においては「従業員や顧客情報の流出」により、社会的な信用を大きく損なってしまうというケースが考えられます。基本的には不十分なセキュリティによって、意図せずに情報が流出してしまうというパターンが多いです。

しかし、時には企業自らが自社のホームページやSNSに従業員・顧客の画像等を掲載し、トラブルを招いてしまうこともあります。これは、デジタルタトゥーのリスクについて、企業側の認知が不十分であることが原因と考えられます。

企業情報の不正持ち出しに関する個人情報保護法の適用を踏まえた留意点等について解説しています。

 

誹謗中傷による被害

第三者による誹謗中傷も、一度拡散されればデジタルタトゥーになる可能性があります。仮に、事実無根のデマであったとしても、真偽が不明確なまま不特定多数に発信されれば、企業に大きな損失をもたらすリスクがあります。

過去の不祥事等の拡散

企業や団体等の組織においては、既に解決した過去の不祥事等が掘り返されることで、イメージダウンを招いてしまうというリスクも存在します。時には間接的に関わった事件や過去に発生したクレーム、過去に所属していた従業員の行い等が原因で、炎上につながってしまうケースもあるのです。

その結果、例えば取引先の獲得や人材採用等の場面で、不利益を被ってしまう可能性もあります。

サプライチェーンが抱えるリスクや課題解決につなげるためのポイントを解説しています。

 

従業員による不適切な発言

現代はSNSを通じて個人でも容易に情報発信を行うことが可能であり、従業員による不適切な発言が企業全体に大きな影響をもたらすケースも増えています。具体的には、従業員が業務上の機密を漏らしたり、企業の公式アカウントで差別的な発言をしたりするといったケースです。

また、近年では従業員が悪ふざけの動画を投稿したことにより、重大な被害が発生した事例も相次いでいます。アルバイト先の飲食店や小売店で、不衛生な行為を撮影した動画が拡散された行為が問題となり、「バイトテロ」という名称とともに社会的な注目を集めました。

デジタルタトゥーが企業に与える影響

デジタルタトゥーが残れば、企業にとってもさまざまなデメリットの原因となります。ここでは、デジタルタトゥーが発生した場合に起こり得る影響を四つのポイントに分けてご紹介します。

不適切な投稿による企業イメージの悪化

まずは、従業員の不適切な投稿による企業のイメージダウンが挙げられます。仮に投稿が従業員個人のものであっても、所属する企業が明らかな状態で行われれば、企業そのものの印象も悪くなってしまいます。

例えば、自社の従業員が不適切な労働条件や業務内容等を外部に公開すれば、それをきっかけに会社全体のイメージも大きく損なわれてしまうでしょう。SNS等で拡散されれば、簡単には削除ができなくなるため、誹謗中傷等の被害が繰り返し発生する恐れもあります。

犯罪行為に巻き込まれる可能性

デジタルタトゥーは、自社や自社の従業員が犯罪に巻き込まれるリスクも呼び込んでしまいます。例えば、自社のブログやSNS等を通じて、従業員の写真や情報が流出することにより、不特定多数からのストーカー行為や迷惑行為を受ける可能性が発生するといったケースが考えられます。

また、デジタルタトゥーを削除しようと焦るあまり、悪徳な会社の詐欺被害に巻き込まれてしまう可能性もあるでしょう。

顧客や取引先からのイメージが悪化

企業に対するイメージ悪化が長期化すれば、顧客や取引先からの信用が低下する恐れもあります。問題を起こす場合があると判断されれば、他社にとっては取引の継続そのものがリスクになってしまうため、最悪の場合は取引停止となってしまう可能性もあるでしょう。

また、特に飲食店や小売店のようなBtoCの企業では、炎上やバイトテロ等による影響を強く受けてしまう傾向にあります。急激な顧客離れが進めば、売上の減少より経営状態が悪化し、大きなダメージを負ってしまう可能性もあるのです。

そして、もう一つのリスクとして挙げられるのが、銀行や投資家に対するイメージの悪化です。デジタルタトゥーによって銀行や投資家からの信用を失えば、融資の相談や投資の呼び込みを行いにくくなり、資金調達のハードルが高くなってしまう恐れがあるでしょう。

採用活動への影響

デジタルタトゥーによって企業イメージが低下すれば、採用活動にも悪影響をおよぼします。現在の就職活動では、インターネットやSNSを通じた情報収集が前提となっており、多くの求職者が多様なルートで企業の情報に触れています。

気になる企業があれば、インターネット等で対外的な評価や評判を確認し、選考に応募するかどうかを検討するのが自然な流れです。そのため、自社のデジタルタトゥーが残っていれば、求職者からの応募が集まりにくくなり、母集団を形成する段階で不利に立たされてしまいます。

母集団が少なくなれば、自社にマッチする人材と出会える確率も下がるため、採用活動全体の質が下がってしまうでしょう。

リファラル採用の基本的な捉え方や実施手順、成功に導くためのポイント等について解説しています。

 

デジタルタトゥーの対応策

これまで見てきたように、デジタルタトゥーは企業活動に大きな影響を与えるリスクがあるため、そのまま放置しておくのは望ましくありません。発見した場合は速やかに対処し、さらなる被害を生み出さないようにする必要があります。

ここでは、デジタルタトゥーの基本的な対応策について見ていきましょう。

削除依頼を行う

検索エンジンやSNS、動画サイト等で悪質な風評被害やデマを発見した場合は、速やかにサービス提供会社に報告し、該当する投稿を削除してもらうことが大切です。具体的な手順としては、次のとおりです。

1.削除依頼をする投稿のURLやアドレスを控える
2.対象の動画や画面も保存しておく
3.サービス内の「通報」や「お問い合わせ」「削除依頼専用ページ」等から提供会社に連絡する

対策のタイミングが早いほど不特定多数への拡散を防ぎやすくなるため、発見してからはできるだけ時間を置かずに手を打つことが大切です。

発信者情報の開示請求等を行う

削除依頼を行ってもデジタルタトゥーの掲載元に応じてもらえない場合は、情報開示請求により、さらに強力な対応を行うことも可能です。2022年10月に施行された「改正プロバイダ責任制限法」により、情報開示の手続が簡易かつ迅速に行えるようになっているため、対策の一つとして検討してみると良いでしょう。

改正による変更点は主に、「裁判手続の簡略化」と「手続期間の短縮化」の2点です。具体的な必要期間は事案によっても異なりますが、従来なら半年から1年半程度かかっていた手続が、数ヵ月から半年程度で行えるようになっています。

匿名による発信者を特定できれば、損害賠償請求等も可能になるため、デジタルタトゥーの問題を解決する手段として特に有効です。

【従業員教育】専門窓口に相談する

デジタルタトゥーによる被害を防ぐためには、社内のネットリテラシーを高めて予防に努める必要もあります。アルバイトも含めた従業員全員を対象に研修を行い、デジタルタトゥーのリスクや予防のポイント、セキュリティ対策等を学べる機会を設けることが重要です。

特に社内でSNSやブログの運用を担当するメンバーには、他社における過去の炎上事例等も取り上げながら、丁寧に研修を実施していくと良いでしょう。なお、実際にデジタルタトゥーが発生してしまった場合には、「違法・有害情報相談センター(総務省)」や「人権相談(法務省)」「セーファーインターネット協会等」等の相談窓口を利用してみるのも有効です。

また、削除依頼や情報開示請求を行う際には、弁護士等の専門家に相談するのも一つの方法です。

新入社員教育時に押さえておきたいポイントを解説しています。

 

まとめ

デジタルタトゥーには、個人の人生や企業の経営に大きなデメリットをもたらすリスクがあります。企業においては、「風評被害による顧客離れ」「資金調達への悪影響」「人材採用への悪影響」といったさまざまなリスクにつながるため、発見した場合は速やかに対処することが大切です。

また、企業が自らデジタルタトゥーを生み出さないためには、アルバイトスタッフも含めて従業員のリテラシーを向上させる必要があります。従業員教育を徹底し、デジタルタトゥーの危険性や原因を正しく理解してもらいましょう。

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