2024年の熱中症対策のポイント

公開日:2024年5月10日

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2024年2月末、厚生労働省は職場における熱中症予防対策を呼び掛けるため、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」の実施要項を発表しました。2024年の重点項目は「暑さ指数(WBGT)の把握」、「労働衛生教育の実施」、「有訴者への特段の配慮」の3点です。この記事では、2023年までの熱中症の発生状況や他社の事例等を踏まえ、2024年の熱中症予防対策のポイントを解説します。

2023年までの職場における熱中症の発生状況

熱中症とは、高温多湿な環境下において、体内の水分と塩分(ナトリウム等)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻したりするなどして発症する障害の総称です。症状としては、めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐(おうと)・倦怠(けんたい)感・虚脱感、意識障害・痙攣(けいれん)・手足の運動障害、高体温等が現れ、重篤化すると死に至る場合があります。
我が国の職場における熱中症の発生状況を以下に示します。

(1)死傷者数の推移

2023年の死亡を含む休業4日以上の死傷者数は1,045人、うち死亡者数は28人でした(速報値)。過去10年で見ますと、2018年に続いて過去2番目に多い死傷者数となっています。また、2022年の死傷者数に比べ、死傷者数は約1.3倍に増加している状況です(図表1)。

(2)業種別死傷者数

2019年以降の業種別の熱中症の死傷者数をみますと、建設業が最も多く、次いで製造業、運送業の順に多いです。また、死亡者数で見ると建設業が最も多く、次いで製造業、警備業の順となっています。

(3)暑さ指数(WBGT)と熱中症発生の状況

暑さ指数(WBGT)とは、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度、②日射・輻射(ふくしゃ)等周辺の熱環境、③気温の3つを取り入れた指標です。なお、数値が上昇すればするほど熱中症の発生可能性が上昇し、暑さ指数(WBGT)が28を超えると熱中症患者が著しく増加することがわかります(図表3)。

 

なお、暑さ指数(WBGT)は労働環境の指針として有効であると認められており、日本気象学会では「日常生活に関する指針」を公表しています(図表4)。

 

2023年の熱中症による死亡災害の事例

厚生労働省が公表した、2023年の熱中症による死亡災害の事例の特徴は以下のとおりです(図表5)。

・ 死亡災害の事例の総数28件のうち、25件は7月・8月に発生している。
・ 業種は「建設業」「製造業」「警備業」「商業」「運送業」である。
・ 被災者の年代は、60代以上が3割強を占めるが、20代もいる。
・ 暑さ指数(WBGT、参考値を含む)は、不明を除き警戒以上(25以上)で発生している。
・ 事案の概要を見ると、建設業、警備業や農業等、屋外での作業と推定されるものが目立つが、店内・工場内でも発生している。

また上記に加え、厚生労働省は以下のように報告しています。

・ 死亡災害の事例のうち、被災者はすべて男性であった。
・ 発症時や緊急時の措置を周知していなかった事例が25件あった。
・ 作業現場での暑さ指数(WBGT)確認できなかった事例が24件あった。
・ 熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例が18件あった。
・ 糖尿病、高血圧症等熱中症の発症に影響をおよぼすおそれのある疾病や所見を有している事が明らかな事例は10件あった。

こうした2023年の発生事例を踏まえて、厚生労働省より、令和6年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」の実施要綱が作成され、熱中症対策への取組強化を呼び掛けています。

令和6年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」のポイント

前述の死亡災害事例を踏まえて、令和6年)「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」では、「暑さ指数(WBGT)の把握」、「労働衛生教育の実施」、「有訴者への特段の配慮」の3点が重点項目として挙げられています。

(1) 暑さ指数(WBGT)の把握

2023年の事例では、職場の暑さ指数(WBGT)を把握しておらず、その値に応じた熱中症予防対策が実施されていなかった事例が発生していました。前述のとおり、暑さ指数(WBGT)が労働環境の指針として有効であると認められていることからも、暑さ指数(WBGT)を把握し、それに基づき対処することは熱中症対策として最も重要な取組です。

暑さ指数(WBGT)の把握は、日本産業規格JIS Z 8504またはJIS B 7922に適合したWBGT指数計による随時把握を基本とします。同じ事業場であっても、個々の作業場所や作業ごとの状況によって差異があることに留意し、直射日光下における屋外の作業、炉等の熱源の近くでの作業および冷房設備がなく風通しの悪い屋内における作業では、特に暑さ指数(WBGT)に注意しなければなりません。

暑さ指数(WBGT)を踏まえて実施する熱中症予防対策の基本は「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」となります(図表6)。

(2) 労働衛生教育の実施

2023年の事例では、熱中症予防を目的とした教育を実施していなかった事例がありました。また、熱中症が発症した際の対応内容も周知していなかった事例もあることから、熱中症が発生した場合に適切な救急対応がとれるように労働者を指導することが必要です。管理者と労働者によって必要とされる教育事項が異なる点については、以下の図表7を参考にしてください。

教育用教材としては、厚生労働省の運営しているポータルサイト「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報」に掲載されている動画コンテンツ、マニュアル、リーフレットを活用することをお勧めします。外国語の資料もあることから、日本語を母国語としない外国人労働者に対してはこれらを利用ください。

加えて、熱中症が発症し状態が悪化した場合に対応できるように、救急対応等を労働者に周知することが必要です。前述のポータルサイトに記載されている携帯カード「熱中症予防カード」を活用できます(図表8)。

なお、具体的な対応として、以下の取組事例を紹介します。

・ 全作業員に災害防止協議会での教育内容が伝わっているかどうか、内容伝達報告書に署名させて確認している。また、毎日の朝礼でも熱中症予防を繰り返し説明している(建設業)。
・ 外国人従業員には熱中症予防対策に関する母国語の基本教育の冊子を配布し、安全衛生管理の徹底を行っている(建設業)。
・ 経営者のみならず職長や社員も「熱中症予防指導員研修」を受講している(建設業)。
・ 体調不良時の早期発見と初期対応を適切に行えるよう、管理監督者に救命救急講習を受講させており、必要な応急キットも完備している(運送業)。

(3) 有訴者への特段の配慮

死亡者のうち、糖尿病、高血圧症等熱中症の発症に影響をおよぼすおそれのある疾病等を有しているケース(有訴者)も見られ、その多くは医師等の意見を踏まえた配慮がなされていませんでした。

心臓病、糖尿病、高血圧、腎臓病、精神神経疾患、皮膚疾患等の持病がある場合、体温調節機能がうまく機能しないために熱中症のリスクが高いとされています。また、病気の治療のために薬を服用している場合も、薬の種類によって発汗の抑制や利尿作用があるものがあるため、熱中症の原因になることが指摘されています。特に、生活習慣病・うつ病・不眠症の治療をしている人は注意が必要とされています。

また、高年齢者についても、加齢に伴い心身機能の低下により脱水症状や体熱放散困難になりやすいとされていることから配慮が必要です。
具体的な対応として、以下の取組事例を紹介します。

・ 特に高齢者や持病の有る作業者については、2人1組で作業させている(建設業)。
・ 産業医の指示を仰ぎ、健康診断における有所見者には特に丁寧に対応する(建設業)。
・ 健康診断結果による配慮について、職長に共有している。特に該当者については巡視の際等に『体調はどうか?』『食生活はどうか?』『酒を飲みすぎないように!』などの声掛けを実施している(建設業)。
・ 人間ドックおよび健康診断の結果を確認し、該当者については現場の仲間が注意して目を配り、少しでも異変がある場合には休ませる/午前中のみで帰宅させるなどの対応を行っている(建設業)。
・ 健康診断書を提出させて有所見者を判断し、必要に応じて配置転換を行っている(建設業)。
・ 高血圧の人には毎日血圧を測るよう指導し、結果によりその日の作業内容を考慮している(運送業)。

熱中症予防に向けた職場における対策

「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」では5月から9月をキャンペーン期間としています。熱中症予防対策の検討・準備に向けたポイントを図表9に示します。

なお、気象庁の発表によれば、2024年の夏(6~8月)は、地球温暖化に加え、南米ペルー沖の海面水温が上がるエルニーニョ現象の影響により全国的に気温が高くなると予想されています。また、「4月頃から暑くなる可能性があり、十分な熱中症対策をしてほしい」と呼びかけているとの報道があることからも、例年以上に熱中症予防への対応が重要です。

2024年の重点項目は「①暑さ指数(WBGT)の把握」、「②労働衛生教育の実施」、「③有訴者への特段の配慮」の3点です。本稿が熱中症予防対策の参考になれば幸いです。

 

MS&ADインターリスク総研株式会社発行の労災リスク・インフォメーション2024年4月(No.35)を基に作成したものです。

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