6月から義務化(罰則付き)となった「職場の熱中症対策」のポイント

公開日:2025年6月13日

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2025年6月1日より、労働安全衛生規則が改正され、職場の熱中症対策が義務化されました(罰則付き)。今回は、義務化の背景、熱中症対策義務化の具体的な内容、そして事業者が取り組むべき対応策について、解説します。

熱中症対策義務化の背景

熱中症対策義務化の背景には、地球温暖化の影響による夏季の気温上昇と、それに伴う職場での熱中症による労働災害の増加があります。厚生労働省の資料によると、熱中症による死亡災害は高止まりの傾向が続いており、特に屋外作業での発生が多く見られます。

2020年から2023年の熱中症による死亡・重症化事例を分析すると、「発見の遅れ(重篤化した状態で発見)」が78件、「異常時の対応の不備(医療機関に搬送しない等)」が41件など、初期症状の放置・対応の遅れが問題として挙げられています。これらの状況を踏まえ、国は重篤化させない(死亡に至らせない)ための適切な対策の実施が必要と判断し、今回の法改正に至りました。

「熱中症対策の義務化」を認知している企業の割合や、企業の熱中症対策の現状について解説しています。

熱中症対策義務化の内容と企業が講ずるべき実務対応

今回の労働安全衛生規則の改正により、事業者は下表の条件を満たす「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行う際に、特定の措置を講じることが義務となりました。

補足:WBGT(湿球黒球温度)とは
WBGT(湿球黒球温度)とは、暑さ指数とも呼ばれ、環境省が熱中症を予防するために提唱した指標で、気温・湿度・輻射熱などの要素を考慮して人体の熱ストレスを評価するものです。 1950年代にアメリカで提案され、国際的に規格化されています。WBGTは、特に高温多湿の環境下での熱中症リスクを評価するために重要な指標です。

事業者の実務対応としては、先ず自社の事業場や業務のなかに、義務化の対象となる「熱中症を生ずるおそれのある作業」があるかを特定する必要があります。

この時に、WBGT値を適切に把握・評価するため、日本産業規格(JIS)に適合したWBGT指数計を用いることが推奨されています。環境省の「熱中症予防情報サイト」も参考とできますが、このサイトに掲載される値は、当該地域の一般的な値であり、個々の作業場所や作業ごとの状況は反映されていないことに留意が必要です。

また、作業強度や着衣の状況によっても熱中症のリスクは高まります。特に、身体作業強度が高いほど、あるいは透湿性・通気性の悪い服装であるほど、WBGT基準値は低く設定されるべきとされています。熱中症対策義務化の対象作業に該当しない業務であっても、これらの要素によって熱中症リスクが高まる場合は、義務化される対策に準じた対応が望ましいです。

上記の「熱中症を生ずるおそれのある作業」に該当する業務が行われる場合、事業者は熱中症のおそれのある労働者を早期に見つけ、その状況に応じ、迅速かつ適切に対処することにより、熱中症の重篤化を防止するため、以下(1)(2)を講じなければなりません。

(1) 「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行う際に、
①「熱中症の自覚症状がある作業者」
②「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」
がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること。


事業者の実務対応としては、以下A~Cをあらかじめ定め、休憩場所など作業者の目に触れる場所に掲示すること等で周知することが考えられます。
A 報告先(担当者や連絡先)を定める
B どのような手段(電話やメール等)で報告するか定める
C 緊急連絡網、緊急搬送先となる医療機関の所在地・連絡先等を作成する

また、事業者は単に報告を受けるだけでなく、以下を取り組むことにより、熱中症の症状がある作業者を積極的に把握することが推奨されています。

(2)「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行う際に、
 ①作業からの離脱
 ②身体の冷却
 ③必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせること
 ④事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること。


厚生労働省では、以下のフロー図を例示していますので参考にするといいでしょう(以下フロー図は、あくまで参考例であり、現場の実情にあった内容にすることが望まれます)。

熱中症による業務災害と使用者の責任について解説しています。

建設現場など複数の事業者が混在して作業を行う現場

また、建設現場にみられるような混在作業で、同一の作業場で複数の事業者が作業を行う場合は、当該作業場に関わる元方事業者及び関係請負人の事業者のいずれにも措置義務があります。
この場合の作業者への周知の方法として、各事業者が共同して1つの緊急連絡先を定め、これを作業者の見やすい場所に掲示すること等が考えられます。

対応を怠った際のリスク

(1)罰則付き
改正労働安全衛生規則で定められた熱中症対策を事業者が怠った場合、罰則が科される可能性があります。

具体的には、都道府県労働局長または労働基準監督署長から、作業の全部または一部の停止、建設物等の全部または一部の使用の停止または変更、その他労働災害を防止するため必要な事項といった使用停止命令を受けるおそれがあります。

また、熱中症対策の義務に違反した者には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、法人に対しても50万円以下の罰金が科されることがあります。

複数事業者が混在して作業を行う状況で、改正労働安全衛生規則で定められた熱中症対策を怠った場合には、元方事業者のみに違反が生ずる訳ではなく、当該作業場に関わる全ての事業者に罰則が科される可能性があります。

(2)安全配慮義務違反
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする(労働契約法第5条)」という「安全配慮義務」を負っており、熱中症対策もこの「安全配慮義務」の範疇です。

例えば以下のように、WBGT値を把握せずに高温多湿な場所で作業を続行させた場合など、事業者が適切な対策を怠り、労働者が熱中症を発症した場合には、安全配慮義務違反として事業者の責任が問われ、労働災害認定とは別に、民法上の損害賠償責任が発生することもあります。

(例)熱中症の発生が事業者の安全配慮義務違反と判断されるケース
・作業環境が高温であるにもかかわらず、冷房設備が設置されていなかった場合
・WBGT値が高いことを把握していたにもかかわらず、作業を続行させた場合
・休憩や水分補給の指示がなく長時間作業を強いた場合 など
これらのケースは、熱中症という疾病そのものよりも、それを防ぐための適切な措置を事業者が講じなかったことに問題があると判断され、事業者に責任が問われる可能性があります。

関連する法律の内容や違反の具体例のほか、企業として対策すべき内容等について解説しています。

その他の熱中症対策

厚生労働省では、「職場における熱中症予防情報」サイトを運営しており、義務化される措置以外にも、効果的な熱中症予防対策が多数挙げられており、これらも参考にしながら総合的な対策を進めることが有益です。

「~職場における~熱中症予防基本対策のススメ」掲載の熱中症予防対策(抜粋)

まとめ

近年の猛暑による熱中症労働災害の増加、特に初期症状の放置や対応の遅れによる重篤化を防ぐため、労働安全衛生規則が改正され、2025年6月1日より、事業者の熱中症対策が罰則付きで義務化されました。

自社の作業環境を特定し、熱中症リスクを評価したうえで、報告体制や対応手順を具体的に整備し、文書化することが急務です。また、これらの体制や手順を、労働者を含む関係者に周知し、労働衛生教育を通じて意識を高める必要があります。

厚生労働省などが推奨する熱中症予防策も参考にしながら、自社の実情に合った対策を講じ、労働者の安全と健康を確保していくことが肝要です。

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