帝国データバンク公表「2024年問題に対する企業の意識調査」
公開日:2024年2月2日
2024年問題
物流の2024年問題に対して、約7割の企業でマイナス影響を見込んでいます。企業は運賃の値上げやスケジュール見直し等の対応策を検討しています。
建設業、トラック・バス・タクシードライバー、医師等の「働き方改革」を進めるため、これまで適用が猶予されていた時間外労働の上限規制が、いよいよ2024年4月より適用されます。長時間労働が是正されることにより健康被害や労働災害、交通事故の削減など労働環境の改善が進展することが期待できる一方で、人手不足による工期の長期化や業務の停滞等の諸問題、いわゆる「2024年問題」も懸念されています。
とりわけ、運送業界においては、物流を担う運送事業者だけの問題ではなく、産業を問わず幅広い業界や消費者の日常生活にも変化が生じると指摘されています。
そこで、帝国データバンクは、2024年問題に対する企業の見解について調査しました。本調査は、TDB景気動向調査2023年12月調査とともに行いました。
調査結果(要旨)
*調査期間は2023年12月18日~2024年1月5日、調査対象は全国2万7,143社で、有効回答企業数は1万1,407社(回答率42.0%)
*本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載しています
「2024年問題」全般への影響、約6割の企業でマイナスを見込む
建設業や運送業、医師等でこれまで猶予されていた、時間外労働の上限規制が適用されることによって生じる人手不足や、輸送能力の低下等が懸念される「2024年問題」全般について尋ねたところ、「マイナスの影響がある」企業は 59.9%となりました。他方、「影響はない」は 22.3%、「プラスの影響がある」は1.6%でした。
さらに、物流の 2024年問題に限ってみると、「マイナスの影響がある」企業は 68.6%となりました。特に、『卸売』(79.6%)や『農・林・水産』(78.9%)等6業界で 7割超の企業がマイナスの影響を見込んでいます。企業からは「物流コストが増加すれば、製品単価の上昇につながり、景気は後退する」(繊維・繊維製品・服飾品卸売、大阪府)や「現状も部材不足の納期遅延が多い。物流問題が生産計画に波及し、さらに悪化するかもしれない」(電気機械製造、群馬県)といった声があがっています。
他方、企業の1.5%では「プラスの影響がある」としており、「長い目で見れば自由な時間が増えるため、若い人も入りやすくなり、運送業界にとっても良いはず」(鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売、東京都)といった前向きな声が寄せられていました。
「2024年問題」全般に対する具体的な影響、企業の 66.4%が「物流コストの増加」を見込む
「2024年問題」全般に対して具体的な影響を尋ねたところ、「物流コストの増加」が 66.4%と最も高くなりました(複数回答、以下同)。次いで、「人件費の増加」(41.0%)、「人手不足の悪化」(40.0%)が4割台、「配送スケジュールの見直し」(32.4%)が3割台で続きました。
業界別にみると、「物流コストの増加」は『製造』(80.4%)で8割を超え、『卸売』(79.2%)と『農・林・水産』(75.2%)が7割超で高くなりました。
また、「配送スケジュールの見直し」は『製造』(45.7%)や『卸売』(45.6%)、『小売』(36.4%)といった主に荷主側となる業界で高い結果となりました。
物流の 2024年問題への対応策、「運送費の値上げ(受け入れ)」が 43.3%でトップ
「2024年問題」のうち、特に物流の2024 年問題に対して、対応(予定含む)を行っているか尋ねたところ、「対応あり」とする企業は62.7%でした。他方、「特に対応しない」企業は26.4%と4社に1社となりました。
さらに、「対応あり」とした企業に対して、具体的な対応策を尋ねたところ、「運送費の値上げ(受け入れ)」が43.3%でトップとなりました(複数回答、以下同)。
次いで、「スケジュールの見直し」(36.3%)や 「運送事業者の確保」(24.9%)、「発着荷主と運送事業者双方での連携強化」(24.2%)、DX 等 「業務のシステム化や効率化の推進」(20.0%)が上位に並びました。業界別にみると、「運送費の値上げ(受け入れ)」は『運輸・倉庫』(51.5%)、『卸売』(50.2%)、『農・林・水産』(50.0%)で 5 割以上となりました。企業からも「物流コストアップは交渉により抑制したいが、一定程度は受け入れる」(広告関連、東京都)といった声があがっていました。
そのほか、DXなど「業務のシステム化や効率化の推進」は、『金融』(44.4%)や『不動産』(28.3%)、『サービス』(27.5%)で高く、「ドライバーの確保・育成」では、『運輸・倉庫』が53.6%と突出して高くなりました。
また、「荷待ち・荷役時間の把握・削減」は、『運輸・倉庫』が32.4%と最も高く、『製造』(12.2%)や『農・林・水産』(9.1%)が続きましたが、総じて荷主側企業からの対策意識が低い様子がうかがえました。企業からも「時間指定の縛りや、荷役作業に対する荷主側の意識改革がなされない限り、根本的な解決にならない」(紙類・文具・書籍卸売、東京都)といった厳しい声が聞かれました。
物流の 2024年問題、2024年4月が直前に迫るなか、対応を決めかねている様子も
物流の2024年問題へ「特に対応しない」企業に対してその理由を尋ねたところ、「これまで通りで問題が生じず、対応する必要がない」が34.6%でトップとなり、「2024年4月以降、問題が生じた際に対応を検討する」(33.6%)が続きました(複数回答、以下同)。
以下、「自社だけでは対応策が検討できない」(27.5%)や「どのように対応すればよいか分からない」(15.8%)が続き、2024年4月が直前に迫っているなかであっても、具体的な対策が見つからず、対応を決めかねている様子も表れています。
「2024年問題」に対する支援策、企業は「金銭的支援」や「人材育成・確保支援」等を求める
「2024年問題」全般に対して求める支援策や政策等について尋ねたところ、補助金や助成金等「金銭的支援」(34.0%)と「人材育成・確保支援」(32.3%)が3割台で上位となりました(複数回答、以下同)。以下、「高速道路料金などの見直し」(29.3%)や「時間外労働の上限規制の猶予期間の延長」(26.6%)、「ルールなどの周知徹底」(21.5%)が2割台で続きました。
他方、自動運転やロボット技術等「新技術開発支援」は低位にとどまりますが、「高速道路での自動運転の新技術開発等、単に補助金を出すこと等ではなく、先を見据えた対策を支援する体制を国に設けてほしい」(メンテナンス・警備・検査、静岡県)といった前向きな意見も寄せられました。
まとめ
本調査の結果、「2024年問題」全般に対して、マイナスの影響を見込む企業は約6割となりました。具体的な影響として、「物流コストの増加」や「人件費の増加」、「人手不足の悪化」等があげられ、多くの企業が負担増を危惧しています。
また、幅広い業界に影響をおよぼすと予想される物流の問題に絞ると7割近くの企業でマイナスと捉えています。荷主事業者、運送事業者に関わらず幅広い業界でマイナス影響を見込んでいました。他方、一部企業では残業時間の短縮等働き方改革の進展でプラスとして捉えています。
さらに、物流の2024年問題に対しては、運送費の値上げや受け入れ、スケジュールの見直し等具体的な対策の実施を予定しています。一方で、問題が生じた際に対応を検討する企業も多く、 2024年4月が直前に迫るなか、具体的な対策が見つからず、対応を決めかねている企業も一定数存在していました。
迫りくる2024年問題に対して、既存のサービスを維持するため、企業には様々な対応策を行っており、現状の課題解決に資する対策だけでなく、DXなどの力強い推進や新技術の開発・利活用など将来を見据えた効率化や業務改善が必要となってきます。
政府には十分な金銭的な支援だけでなく、個社だけの対応や一部の業界だけが負担を被ることにならないような制度や体制づくり、企業の取り組みを継続的に後押しする政策が求められています。
調査先企業の属性
1.調査対象(2万7,143 社、有効回答企業1万1,407 社、回答率42.0%)
2. 企業規模区分
株式会社帝国データバンク発行の「2024年問題に対する企業の意識調査」(2024年1月26日)を基に作成したものです。