地方創生SDGs登録・認証等制度構築における課題と可能性

2023年6月1日

SDGs

政府はSDGsを軸とした地方創生、すなわち「地方創生SDGs」を推進するため、各種施策を展開しています。
自律的好循環の形成を目指し、地域のSDGs取組を「見える化」するための制度の構築を進めるため、地方自治体向けの「ガイドライン」を策定しました。
2022年2月末現在、全国で51の自治体が「地方創生SDGs登録・認証等制度」を構築し、地域のSDGs取組を推進していますが、SDGsウォッシュなどの課題も出てきています。
本稿では、自治体による取組状況をもとに「地方創生SDGs登録・認証等制度」の課題を踏まえ、今後の可能性について考察します。

SDGsの普及

(1)地方創生SDGs

政府は、SDGs達成に向けた取組が地域の諸課題の解決や地域活性化に貢献するとして、SDGsを原動力とした地方創生、すなわち「地方創生SDGs」に関する様々な施策を展開しています。具体的には「SDGs未来都市」の選出による成功事例の創出や、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」を通じた官民連携の拡大、「地方創生SDGs金融」を通じた自律的好循環の形成の推進などを行っており、これらは2021年12月24日にSDGs推進本部で決定された「SDGsアクションプラン2022」にも記載されています。また、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020改訂版)においてはSDGsの達成に向けた取組を行っている都道府県及び市区町村の割合を2024年度までに60%に引き上げるという目標が掲げられており、引き続き地方創生SDGs推進のための取組が展開されていくと考えられるのです。

(2)地方創生SDGs金融

地方創生SDGs金融とは、地域におけるSDGsの達成や地域課題の解決に取り組む地域事業者を金融面(投融資だけでなくコンサルティング等の非金融サービスなども含む)から支援することによって、地域における資金の還流と再投資(「自律的好循環」の形成)を促進する施策です。
地方創生SDGsの推進においては、このような地域課題の解決に向けた取組によって得られた収益を地域に再投資する「地方創生SDGs金融を通じた自律的好循環」の形成が重要であるとされており、そのために自治体がSDGs達成に向けて積極的に取り組む地域事業者等を「見える化」する仕組みを構築して取組を加速化することが期待されています。

(3)地方公共団体のための地方創生SDGs登録・認証等制度ガイドライン

SDGsに取り組む地域事業者等を「見える化」する「地方創生SDGs登録・認証等制度(以下、「登録認証等制度」)」の構築を支援するため、2020年10月、地方創生SDGs金融調査・検討会(事務局:内閣府地方創生推進事務局)において「地方公共団体のための地方創生SDGs登録・認証等制度ガイドライン(以下、「ガイドライン」)」が公表されました。ガイドラインでは、登録認証等制度の概要や期待される事項とその具体的な対応方法、「宣言制度」「登録制度」「認証制度」の3つのモデルと各制度の構築に当たって考慮すべき事項などが示されています。そして、自治体が、これらを参考に地域の特性に合った登録認証等制度を構築し、自律的好循環の形成に向けた土台を築くことを促進しているのです。

登録認証等制度について

(1)登録認証等制度の概要

(2)登録認証等制度構築による効果

ガイドラインでは、自治体が登録認証等制度を構築することで表1のような効果が期待できるとされています。

自治体によるSDGsへの取組状況

(1)地方創生SDGsへの取組状況

内閣府が実施した「SDGsに関する全国アンケート調査」(図1)によると2021年10月時点で全自治体(1,788)の52.1%に当たる932の自治体がSDGs達成に向けた取組を推進していると回答しています。2018年10月に実施された同調査でのわずか4.9%(87自治体)から3年間で大幅に増加しており、特に2019年から2020年の1年間で3倍近くに急増しています。

(2)登録認証等制度構築の現状

内閣府によると2022年2月28日現在で全国51の自治体(表2)が地方創生SDGs登録・認証等制度を構築しています。

(3)自治体によるSDGs推進の課題

内閣府の「SDGsに関する全国アンケート調査」では、自治体がSDGsを推進する際の課題や障壁についても調査をしています。それによると、「先行事例や成功事例がないためどのように推進すればいいのかわからない」、「行政内部での理解、経験や専門性が不足している」、「行政内部での予算や資源に余裕がない」、「行政内部署間の職務分掌の問題や優先度をめぐる認識に差がある」、「専門家の支援が不足している」といった課題を多くの自治体が感じていることが分かります。

登録認証等制度の課題

本項では内閣府の「SDGsに関する全国アンケート調査」結果を参考に登録認証等制度を構築・運営する際の課題について考察します。

(1)運営体制の整備

まず、制度運営主体となる自治体の体制整備についてです。
自治体が構築する登録認証等制度はガイドラインの三つの制度モデルを参考に構築した場合、いずれの制度でも申請書類の確認等の事務作業が発生し、基本的には運営主体である自治体の職員が実施するか、外部委託することになります。自治体の負担は、登録認証等制度の内容や申請件数などの要因に左右されますが、SDGsが世間に広く浸透した昨今は多くの企業が登録認証等制度への申請を行うことが想定されるでしょう。実際に長野県SDGs推進企業登録制度の登録企業数(図2)を見ても、制度開始直後は80程度であった登録数が、2021年以降は毎期100件を超えており、直近の第11期登録数が184と最も多くなっています。

自治体内部での予算や人的資源に余裕がない場合、登録認証等制度の構築後も制度が円滑に運用できるよう、想定以上の申請が行われた場合の対応なども含め、運営体制について制度設計段階からあらかじめ十分に検討する必要があります。

(2)取組の質の向上

自治体が制度を構築したことをきっかけに企業がSDGsに取り組み始める場合、「まず何から始めれば良いか」、「自社事業とSDGsをどのように関連付けるか」といった課題感を持つことが想定されますが、予算や人的資源が限られ、ノウハウを持たない自治体では企業に対する個別支援を行うことは難しいでしょう。企業に取組を促すだけでは、企業がSDGsを理解し、達成に向けて実践していくことは期待できず、登録認証等制度への登録自体がゴール(目的)となってしまうことが考えられます。そして、取組が一過性のものとなり、登録企業として表面上はSDGsに取り組んでいるように見える「SDGsウォッシュ」も問題となります。

このように、登録認証等制度はSDGsに取り組むきっかけにはなるものの、企業の具体的な取組が加速しなければ、SDGsの実践による企業価値の向上や地域活性化といった登録認証等制度を構築する本来の目的を達成することはできないでしょう。

(3)登録企業に対するメリット

登録認証等制度の構築を検討する際、ロゴマークの使用や入札への加点、自治体によるPRといった登録企業に対するメリットを用意することが多いのですが、これは企業が登録認証等制度に登録する動機として有効であり、ガイドラインにおいても地域金融機関等のステークホルダーとあらかじめ協議を行い具体的なメリットの設計を検討することが期待されています。

一方で、メリットの内容によっては、運営主体の負担の増加になるほか、登録がゴールとなることを助長する可能性も考えられるため、慎重に検討する必要があります。

(4)登録企業に対するメリット

前述のとおり2022年2月末時点で既に51の都道府県・市町村が登録認証等制度を構築しており、今後も引き続き制度を構築する自治体は増加すると考えられます。一方で、日ごろから中小企業との関わりが強い商工団体が登録認証等制度を構築するなど、地域のステークホルダーが同一地域で複数の登録認証等制度を構築する事例も生じています。登録を目指す企業にとって、それぞれ趣旨や申請方法が異なる制度について理解し申請を行うことは煩雑でわかりにくく、取組を阻害する要因にもなりかねません。また、制度が乱立することで各制度の価値が相対的に低下してしまうことも考えられます。

登録認証等制度の今後(可能性)

ここまで登録認証等制度の現状や課題について述べてきましたが、自治体による登録認証等制度を持続可能で地域の発展に寄与する効果的な制度とするためのポイントについて考察します。

(1)自治体や地域の実情に沿った制度設計

SDGsの推進は地域課題の解決や地域活性化につながるものであるため、地域特性や地域の実情を理解した上で、各自治体において最適な制度を設計することが重要です。

まず、課題でも述べたとおり、運営主体となる自治体内部の体制について、制度運営に確保できる人員や予算を明確にし、その範囲で対応可能な制度を検討する必要があります。予算や人員が限られ、その範囲内で事業を行うということは当然のことではありますが、構築した制度の実効性を高めるために要件を厳格にしたり、取組を形骸化させないために定期的に書類の提出を求めたりするなどした結果、想定を超える業務量により運営が滞ってしまうことも考えられます。制度の運営と質の担保との両立を念頭に、用務やキャパシティなどの現状を十分に分析した上で制度を設計する必要があるのです。

また、制度を設計する上では、地域におけるSDGsに関する取組の進捗状況を把握することが重要です。例えば、地域企業や住民のSDGsへの理解が十分でない状況で、認証制度の様な厳格な審査が必要となる制度にしてしまうと企業が取り組むハードルが高くなり、結果として申請企業が限定されてしまいます。
地域の実情に合った施策から始め、進捗状況に応じて新たな施策を追加するといったことも選択肢の一つになるでしょう。

内閣府では、ガイドラインの公表に続き、地方創生SDGs金融表彰を創設しました。この表彰制度は、地方創生SDGs金融を通じた自律的好循環の形成に資する自治体と地域金融機関の好取組事例を表彰、公表することで、取組の質を向上することを目的としており、SDGsに関する取組が普及啓発の段階から、質を高める段階へと変化してきたことを表していると言えます。

(2)取組の質を高める伴走支援の実施

登録認証等制度を地域のSDGsを推進するための有効な手段として機能させるためには、登録後の企業支援を制度の一環として組み込み、登録から実践まで一貫した支援を行うことが重要です。ここでいう登録後の企業支援策は、ロゴマークの活用や入札への加点、自治体によるPRといった登録企業に与えられるメリットのことではなく、企業に対する伴走支援です。企業がSDGsに取り組むことで得られるメリットは運営主体から与えられるものだけではありません。他社との差別化や新たなビジネスチャンスの獲得、そして社会課題の解決に意欲的な優秀な人材の確保など、取組を通じて企業価値を向上させることで得られるメリットも多く存在します。しかし、このようなメリットはSDGsに関する取組を開始してすぐに実感できるものではなく、本質的な取組が求められるため難易度も高いのです。全ての企業が自社単独で取組を推進できるものではないため、登録企業がそのようなメリットを得られるまで伴走支援を行うことが理想的です。また、伴走支援が難しい場合は、登録企業間の交流と情報の共有を促すことで取組を活性化させるという方法も考えられます。

(3)ステークホルダーとの連携

自治体が地域のステークホルダーと連携して登録認証等制度を運営することは、制度の実効性を高める上でも非常に有効であると考えられます。自治体だけでは人員や予算が不足し、ノウハウが十分でない場合でも、ステークホルダーと連携することで、円滑な制度運営と実効性の高い取組の両立が可能となるのです。企業への伴走支援を例に考えてみると、自治体が個別企業の支援を行うことは現実的には困難ですが、普段から地域企業と接点を持ち、企業支援のノウハウを有する民間企業や専門家に任せることができれば、自治体は登録や認証といった制度の運営部分を中心に行い、制度の普及啓発や企業の伴走支援は民間企業が行うといった役割分担ができます。

また、SDGsという共通言語をきっかけに登録認証等制度で官民連携等が促進された結果、地域が抱える他の課題の解決に向けてもステークホルダーが連携して取り組むことも期待できるでしょう。

(4)DXの活用

最後に、取組を推進するための手段について考えてみたいと思います。
これまで述べてきたとおり、自治体の資源には限りがある一方で、課題解決のためには様々な施策を展開することが必要です。この課題を解決するためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用して企業の実践支援や取組の深化を行うことをお勧めします。

DXツールの一例として、一般社団法人サステナブルトランジションが運営する「Platform Clover」(図3)を紹介します。

Platform Clover

一般社団法人サステナブルトランジションが運営する「Platform Clover」は、持続可能な社会を共創してゆくためのオープンイノベーションプラットフォームです。産学官民のあらゆる関係者が使用可能で、ユーザーはSDGsを共通言語として「他会員の取組事例を検索してSDGsについて学ぶ」、「自社の取組状況を記録して対外的に発信する」、「ニーズやシーズからパートナー企業を探す」等、取組段階に応じた使用が可能です。

プラットフォームクローバーはDXの一例ですが、多くの企業や個人が集まるオープンイノベーションで、地域の課題解決に資する新たな活動が生み出されることが期待できるでしょう。

(5)SDGs × DX

政府が進める「デジタル田園都市国家構想」においても、デジタルを活用して地方創生を実現していくとの考えが示されており、今後の自治体経営はDXを効果的に活用できるかがこれまで以上に重要になってくるものと想定されます。

SDGsの目標は貧困、気候変動対策、生物多様性、安心・安全なまちづくりなどあらゆる分野に及び、これらの課題を解決するためには、個々の課題を個別にとらえるのではなく、関連付けて検討するとともに、多くの関係者が連携して取り組むことが求められます。そして、このような複雑化した問題の解決のためには、デジタル技術を活用したこれまでにないアプローチが必要になると考えられるのです。

登録認証等制度が地域におけるSDGs取組の普及推進のきっかけづくりに留まらず、SDGsというキーワードを用いて関係者間の連携を促進し、新たな課題解決策を生み出す仕組みとなり、持続可能な社会に向けた取組を活性化させることが強く期待されます。

MS&ADインターリスク総研株式会社発行のRM FOCUS 2022年4月(第81号)を基に作成したものです。