改正GX推進法と二酸化炭素排出量取引制度の義務化について

公開日:2025年11月7日

脱炭素

2025年5月に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)が改正・成立しました。この改正により、2026年4月1日から二酸化炭素(CO2)排出量が一定規模以上の事業者に対し、CO2排出量取引制度(ETS)への参加が義務付けられます。本稿では、改正GX推進法の概要、ETSの仕組み、および、物流業界への影響を紹介します。

改正GX推進法と主な改正内容

改正GX推進法は、2050年のカーボンニュートラルと経済成長の両立を目指し、成長志向型カーボンプライシングを具体化する法律です。カーボンプライシングは、CO2排出量に価格を付けて企業にCO2排出に応じたコスト負担を求めることにより排出削減を促し、グリーン投資を加速する仕組みです。主な改正内容は以下の通りです

排出量取引制度の法定化:CO2排出枠の割当と市場取引を法的に規定します。

化石燃料賦課金の導入:化石燃料(石油、石炭、天然ガス等)の使用に伴うCO2排出量に応じた課金を2028年度から開始します。

GX分野への財政支援:再生可能エネルギー、水素、CCUS(炭素回収・利用・貯蔵)等の技術開発にし、補助金や低利融資を拡充します。

これらにより、企業は脱炭素技術への投資を強化し、国際競争力を維持しつつ経済成長を実現することが期待されます。

CO2排出量取引制度(ETS)の概要

(1)排出量取引制度(ETS)とは

ETSでは、政府が企業ごとにCO2排出枠を無償で割り当て、企業がその枠内で事業活動を行い、枠を超過した場合は企業が市場で追加の排出枠を購入します。一方、排出枠が余った企業は、余剰枠を翌年度に繰り越したり、市場で売却して収益を得たりできます。この仕組みは、経済的インセンティブを通じて効率的なCO2排出削減を促進します。たとえば、排出削減技術を導入することで枠を節約した企業は、余った排出枠を売却することにより投資したコストを回収できます。

(2)対象となる企業

2026年度から、年間CO2排出量10万トン以上の企業(例:電力、鉄鋼、化学、セメント業界の大規模事業者)を対象に、ETSへの参加が義務付けられます。政府のGX戦略の中核機関である「GX推進機構」がETS市場を運営し、透明性と公平性を確保します。将来的には、中小企業への適用拡大も検討されています。

海外の排出量取引制度

海外ではEU、韓国、中国等が導入しており、日本と同様に排出枠に上限を設けた上で市場を通して企業間で排出枠の取引を行う方式が主流となっています。取組が先行しているのは、2005年に世界初の国際的な排出量取引制度として開始したEU-ETS(欧州連合排出量取引制度)です。EU-ETSは2030年までに温室効果ガスを1990年比で最低40%削減させる目標が設定されており、現在最終フェーズの第4フェーズ(2021~2030年)にあります。2024年1月からEU-ETSが海運にも適用され、EUの港に寄港する総トン数5,000トン以上の船舶を運航する船会社は排出枠の購入が必要となりました。

化石燃料賦課金と今後の展望

我が国において企業のCO2削減を促す枠組みとしては、本稿でご紹介したETSに加え化石燃料賦課金制度があります。これは、化石燃料(石油、石炭、天然ガス等)の消費によって発生するCO2排出量に応じて企業に賦課金が課される制度で、2028年度からの導入が決まっています。これらの制度によって、企業の効果的かつ費用効率的なCO2排出削減取組が進展することが期待されます。

物流業界への影響

物流業界は、トラック輸送、鉄道、海運、航空等CO2排出量の多いセクターを含み、ETSと化石燃料賦課金制度の影響を大きく受けます。特に、年間CO2排出量10万トン以上の大規模物流事業者や海運会社は、2026年度からETSへの参加が義務付けられます。ETSへの参加によって以下のような課題の発生や影響が想定されます。

コスト増加:燃料消費に伴う排出枠購入や賦課金により、輸送コストが上昇します。例:長距離トラック輸送や国際海運では、ディーゼルや重油の使用によるCO2排出が課題です。

技術投資:電気トラック、バイオ燃料、または低炭素船舶(例:アンモニア燃料船)への移行が必要ですが、初期投資コストやインフラ整備が課題となります。

サプライチェーンへの波及:荷主企業は、物流コスト上昇を反映した価格転嫁や、脱炭素型物流(例:モーダルシフト)の採用を迫られます。

競争力への影響:中小物流事業者は、資金力不足から低炭素技術の導入が遅れ、大手との競争力格差が拡大するリスクがあります。

おわりに

政府は、GX推進法に基づく補助金や融資で、電気トラック導入や港湾の低炭素化を支援予定です。物流業界は、ETS対応を通じて効率的な輸送計画や技術革新を進め、カーボンニュートラルに貢献することが期待されます。2027年度から本格的に導入されるETS制度と、2028年度から導入される化石燃料賦課金が物流業界におけるCO2排出量削減に関わる技術革新と、モーダルシフトや共同輸送等の推進による物流率化を促す転換期となる効果が期待されます。

<参考文献一覧>

 

この記事は、「MS&AD Marine News 2025年10月21日発行分」を基に作成したものです。

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