サプライチェーンリスクマネジメントとは?|概要から取組方法についても解説

2024年2月7日

自然災害・事業継続

サイバーリスク

サプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)とは、サプライチェーンを構成することで発生するさまざまなリスクに対して、管理を行うことで問題の発生を防ぐ仕組みのことを指します。自然災害やパンデミック、サイバー攻撃による情報セキュリティリスク等、サプライヤーを取り巻く事業環境においては多くのリスクが存在しています。

そのため、事前にリスクについて検討した上で、必要な対策や仕組みづくりを行っていくことが重要です。この記事では、サプライチェーンリスクマネジメントの基本的な捉え方やサプライヤーとして取り組むべき事項、課題解決につなげるためのポイントを解説します。

サプライチェーンリスクマネジメントとは

サプライチェーンリスクマネジメントについて理解するには、まず「サプライチェーン」とは何かを把握しておく必要があります。経済産業省が公表している「通商白書2021」によれば、サプライチェーンとは「商品の企画・開発から、原材料や部品等の調達、生産、在庫管理、配送、販売、消費までのプロセス全体を指し、商品が最終消費者に届くまでの『供給の連鎖』を指す」ものとされています。

つまり、サプライチェーンとは自社だけでなく、サプライチェーン内の業務に携わるすべての企業のつながりを表すものです。サプライチェーンを構成する企業間の関係は、「垂直的な関係」と「水平的な関係」の二つに分けられます。

垂直的な関係とは、サプライチェーンの上流から下流の関係を意味しており、例えば部品を供給するサプライヤーと最終的な製品を取り扱う企業の関係等を言います。一方、水平的な関係とは同業の企業間における関係を意味し、例えば製品や技術を共同開発したり、他社に生産を委託したりする関係等です。

サプライチェーンは一つの国の中だけで留まるものではなく、経済のグローバル化に伴って国境を越えた広がりがあり、関係性は複雑化しています。サプライチェーンを構成することで生じるさまざまなリスクに対して、管理を行うことで問題の発生を防ぐ仕組みをサプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)と言います。

サプライチェーンが抱えるリスク

サプライチェーンが抱えるリスクはさまざまなものがありますが、代表的なリスクとして自然災害やパンデミック等の環境的リスクが挙げられます。また、テロや政治的な不安等の地政学的リスク、「経済危機や原料の価格変動といった経済的リスク、サイバー攻撃やシステム障害」等の技術的リスク等もあります。

それぞれのリスクにおける重要度は、社会情勢にも影響されるため、サプライチェーンごとに抱えるリスクは異なると言えるでしょう。ここでは、おもに環境的リスクについて解説します。

自然災害がサプライチェーンに与える影響

アジア地域における自然災害の発生件数はほかの地域と比較して多く、日本では自然災害によるサプライチェーンへの影響は大きいと言えます。例えば、2011年3月に起きた東日本大震災では地震による被害だけでなく、津波や原発事故といった被害が東北地方を中心に広い範囲で生じました。

それにより、被災地域に生産拠点のあった産業において、サプライチェーンへの影響が伝えられました。震災等の被害は局所的に発生するものですが、サプライチェーンを伝って被災地域以外のところへも波及していくのが特徴です。

例えば、自動車の電子部品を扱うメーカーのケースでは、東日本大震災によって自社工場が被災しました。部品を供給できなくなってしまったことで、1次サプライヤーや完成車メーカーへと連鎖的に影響が広がりました。

新型コロナがサプライチェーンに与えた影響

2019年末頃に発生した新型コロナウイルス感染症は、世界中で連鎖的に感染が拡大しました。人を介して感染が拡大することから対面でのコミュニケーションの自粛や渡航制限、外出制限等の措置がとられました。

人や物の交流が制限されたため、サプライチェーンにおける商品調達等の遅延や途絶が発生してしまい、世界経済が急速に減速するきっかけとなりました。港湾業務に携わる社員や物流を担うトラック運転手等に不足が生じ、人的資源が担う機能に障害が発生することで、生産活動や物流に影響が出ました。

また、世界中に感染が拡大したことによって、海外に展開する企業等がグローバルに広がるサプライチェーンを伝って影響を受けました。そのため、調達や販売網、生産拠点についての見直しを行う企業も現れ、多くの企業でサプライチェーンへの対応策を迫られることになりました。

サプライヤーとして取り組むべき事項

サプライチェーンが抱えるリスクの影響を低減させるには、サプライヤーとしての立場でどのような取組が行えるかを検討しておくことが重要です。5つの視点から、サプライヤーとして取り組むべき事項を見ていきましょう。

品質や安全性の確保

サプライヤーとして納入する製品やサービスに関して、品質と安全性を確保し、さらに向上させていく取組を行うことは重要です。製品やサービスの品質・安全性を確保するために基準を定め、適切に運用されているかを定期的にチェックしましょう。

また、サプライチェーン全体でコミュニケーションを強化し、信頼関係を構築していくことも大切です。製品の検査過程等で問題が生じた場合、速やかに情報共有を行って、不具合の原因を全体で共有していく必要があります。

情報セキュリティ対策

ITの普及によって経営効率が向上した一方で、機密情報や個人情報の漏えいによる影響も出ています。自社だけでなく、委託先やビジネスパートナー等から情報の流出が発生する可能性もあるため、取引先に情報提供を行う時は情報を厳重に管理し、運用ルールに沿って用いることが大切です。

近年では、取引先を経由したサイバー攻撃が増加しており、リスクを未然に防ぐためには早急な点検作業と対策の実施が重要だと言えます。自社で収集した情報セキュリティに関する脅威や攻撃の手口についての情報は、社内で共有するだけでなく、取引先に対しても共有することで情報セキュリティ対策を強化できます。

共有する情報に機密情報が含まれる時は守秘義務契約を交わしておくことも大事です。

コンプライアンスの強化

コンプライアンスは法令遵守を意味する言葉ですが、事業活動を行う国や地域の法令や条例を守るだけでなく、社会規範に沿った事業活動を展開していく必要があります。経済のグローバル化に伴い、海外に生産拠点を持つ企業においては、各国の法制度を遵守し、現地の文化や慣習にも配慮することが大切です。

コンプライアンス体制を整備するために、独自の倫理行動規範を策定したり、法令の遵守状況を定期的にチェックするために専門部署を設置したりする企業も増えています。また、社員が法令違反に気づいた時に相談できる内部通報窓口を設置している企業もあります。

コンプライアンスを徹底するためには、社員一人ひとりが法令を遵守することを理解し、実践していける環境づくりを行っていくことが重要です。

環境への配慮

環境に対する取組は広範囲におよぶため、自社だけで行うというより、サプライチェーン全体で取り組んでいく必要があります。中小企業庁が公表している「2023年版 中小企業白書」では、サプライチェーンで一体となって行うカーボンニュートラルの取組は、「企業の業績を維持することや、生産効率の向上だけでなく、自社のブランド向上に もつながる可能性が示唆」されています。

日本の中小企業は日本全体の温室効果ガス排出量のうち、約2割を占めており、2030年度の温室効果ガス46%削減目標や2050年のカーボンニュートラル実現のためには中小企業の取組も不可欠です。国内外のサプライチェーン全体でカーボンニュートラルをめざす大企業が増えており、既に取引先から協力要請を求められている中小企業もあります。

サプライチェーン全体の排出量を把握し、削減に取り組んでいくことがサプライヤーにも求められていると言えます。

労働環境の整備

サプライヤーとして安定的に製品やサービスを提供し続けるためには、日々の業務を担う従業員が働きやすいように労働環境を整備していく必要があります。労働環境が劣悪な場合、社員のモチベーションが低下し、生産性にも影響を与えるでしょう。

労働時間・賃金等の労働条件の見直し、ハラスメントの防止等に取り組んでいくことが重要です。また、定期的にストレスチェックを行って、過度な負担が生じていないかを確認しましょう。

課題解決につなげるためのポイント

サプライチェーンリスクマネジメントにおける課題解決のポイントとして、以下の点が挙げられます。

・環境変化を想定したシナリオの策定
・脆弱性の分析
・サプライチェーン環境の改善と再構築
・ワークショップによる訓練

それぞれのポイントについて解説します。

環境変化を想定したシナリオの策定

自然災害やパンデミック等が発生した時に、どのような影響があるのかを想定し、シナリオを立てておくことが重要です。在庫の確保等の課題について、アクションプランを検討しておきましょう。

平時において、BCP(事業計画書)を策定しておくことによって、リスク発生時に被害を最小限度に抑えるだけでなく、事業の継続や早期の復旧につなげられます。平時から具体的なシミュレーションを行っておくことで、在庫データや顧客情報等に基づいた判断を下すことが可能になります。

脆弱性の分析

サプライチェーンにおける脆弱性の分析は、可視化・特定・評価のプロセスに分けられます。サプライチェーンの全体像を見える化し、海外の生産拠点も含めてどこが弱点になりやすいかを把握しておきましょう。

また、物流に限らず、人や情報等を含めた経営資源に与える影響をシナリオごとに考え、リスクを特定していくことが大切です。そして、評価においてはリスクの優先順位を決めておく必要があります。

非常時にはさまざまなリスクが顕在化することが予想されるため、事前に優先順位を決めていなければ、迅速な行動が取れなくなってしまいます。経営に与える影響を考慮し、どのリスクに対して優先的な行動を取るべきかを検討しておきましょう。

脆弱性の分析を行うことで、主要な取引先に加えて、利害関係にある協力会社を含めた強固なサプライチェーンの構築につながるはずです。

サプライチェーン環境の改善と再構築

サプライチェーンの脆弱性に関する分析が済んだら、それぞれの課題に対して具体的な対策を立てていきます。例えば、特定の地域からの供給が途絶えたとしても対応できるように、原材料や代替品の調達先を複数確保しておく必要があります。

また、国外にサプライチェーンを持つ際は、複数の国に拠点を置いたり、国内の拠点もさまざまな地域に分散したりする必要があるでしょう。一方で、むやみにサプライチェーンを複雑化してしまうと、緊急時の対応や判断を疎外する恐れもあるため、サプライチェーン全体が有効に機能するのかを検証し、再構築していくことも重要です。

ワークショップによる訓練

まとめ

自然災害やパンデミック等、企業を取り巻く環境は時として想定外の事態に見舞われてしまうことがあります。影響が長期にわたれば、自社の事業活動だけでなく取引関係にあるサプライチェーン全体にも影響をおよぼす恐れがあるため、事前の対策が重要です。

サプライチェーンリスクマネジメントにおいては、サプライチェーンが抱えるさまざまなリスクに対して、適切な管理を行うことでトラブルを未然に防ぐ取組を進めていきます。取引先等とも連携しながら、どのような事態が発生すれば自社にとっての脅威となるかを把握し、必要とされる対策を継続的に実施していきましょう。

【参考情報】

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