人手不⾜をSNSで解決︕ ショート動画で ⺟集団を形成する⼿法

公開日:2025年4月30日

人手不足

日本国内における採用活動は、少子高齢化や働き方改革といった社会構造の変化と相まって、大きな転換期を迎えています。日本能率協会の調査によると、「現在」「3年後」「5年後」のいずれの期間でも「人材の強化」は経営課題として最も多く挙げられている課題項目で、経営者が人材確保および人材育成を短期・中期の課題として捉えている実態が浮き彫りになっています。

実際に採用現場では「母集団形成の難しさ」「自社に合う学生との接触・応募数の不足」が深刻な問題となっており、母集団の形成を最優先の課題とする声が5割以上にのぼるアンケート結果も出ています。これらの要因の一つに採用手法の多様化が大きく影響していると考えられます。従来の合同説明会や求人媒体に依存する手法のみでは十分な応募数を確保しづらくなっており、新たなチャネル開拓が急務となっています。

そうした新たなチャネルとして近年注目を集めているのがSNSの活用です。

SNSマーケティング市場の拡大と採用への影響

SNSマーケティング市場の成長性

国内SNSマーケティング市場規模は2023年に1兆円を突破し、2027年には1.8兆円規模にまで拡大すると予測されています。消費者がSNS上で商品やサービスに関する情報を得る機会が増えるにつれ、企業もSNSをコミュニケーション媒体として積極的に活用を注力せざるを得ない状況です。

就職活動生の情報収集の変化

就職活動においてもSNSを使って企業を知る求職者が増加しています。
実際の学生への調査によると、約60%の就職活動時に「SNSを企業情報の収集源として活用している」ことがわかっています。

また、SNSで企業情報を見た結果、約65%が「応募意欲が高まった」と回答していることから、SNSの企業情報が学生の志望度を左右していることもうかがえます。

このように、近年の就職活動において、学生・求職者は従来の求人媒体や合同説明会だけでなく、SNS等、多様な媒体から情報を得る「オムニチャネル化」が一層進んでいると考えられます。企業が自ら魅力や文化を発信するためには、SNSをはじめとするマルチチャネルの戦略的な活用が不可欠となっています。

採用におけるSNSごとの特性

SNSと一言で括っても、媒体ごとに採用における利用目的や特性が異なるため、目的から逆算し、どの媒体を選択するのか、どのようなコンテンツを投稿するのかを工夫する必要があります。以下に主要SNS(YouTube・X(旧Twitter)・TikTok・Instagram)の求職者の利用目的や特徴、運用時のコンテンツ例を示します。

YouTube

●求職者の利用目的: 企業について深く理解する
●運用の特徴:
 ○長尺動画による会社説明や職種紹介を行うのに適しており、自社への興味関心度合いが高い求職者向けに情報を提供。
●コンテンツ例:
 ○会社説明会動画
 ○社員に密着したドキュメンタリー形式の動画

X(旧Twitter)

●求職者の利用目的: 企業の最新の活動やニュースを確認する
●運用の特徴:
 ○短いテキスト中心でリアルタイム性が高いため、採用ブログや新着の採用情報を頻繁に更新することが可能
●コンテンツ例:
 ○外部ブログやオウンドメディア等の記事紹介
 ○採用イベントや会社説明会の告知

TikTok

●求職者の利用目的: 企業の雰囲気やカルチャーを気軽に知る
●運用の特徴:
 ○短尺動画プラットフォームとしての拡散力が強く、若年層への認知形成が他SNSと比べて容易。
 ○社内カルチャーをエンタメ性と結びつけて発信することで、企業への興味を喚起しやすい。
●コンテンツ例:
 ○業界あるある(エンタメ軸での動画)
 ○トレンドの楽曲やフォーマットに合わせた動画

Instagram

●利用目的: 企業の雰囲気やカルチャーを気軽に知る
●運用の特徴:
 ○リール機能を利用して、フォロワー外にもリーチができるので、若年層への認知形成がTiktokと同様に容易。
 ○フィード機能を利用することで、自社への理解を促進できる投稿が可能。
●コンテンツ例:
 ○社員インタビュー(フィード機能)
 ○オフィス写真(フィード機能)
 ○エンタメ性の強い企画(リール機能)

TikTokとInstagramを活用した採用戦略

先にご説明した四つのSNSにおいて、特に採用母集団形成に繋がりやすいのは、TikTok、Instagramになるため、この2媒体を深ぼってご説明致します。

TikTok採用の実践ポイント

採用におけるTikTok活用のポイントは、ショート動画の拡散力とエンタメ性を最大限に活かすことです。

●アルゴリズムを活用した自社の認知拡大
○TikTokは高い視聴完了率やエンゲージメント(コメントやいいね等)を得られるコンテンツを発信すれば、レコメンド(おすすめ欄)に掲載され、フォロワー数が少なくても大きなリーチが期待できます。トレンドに沿った楽曲や動画フォーマットを活用し、多くの方への露出を行うことで自社の存在を知らない方への認知形成も可能になります。

● エンタメ要素を取り入れたコンテンツ発信
○TikTokのユーザーは暇つぶし目的・隙間時間で視聴することが多く、手軽に楽しめるコンテンツが求められます。硬い真面目な企業情報ではなく、エンタメ要素を含んだ情報を発信する事で、気軽に企業を知ることができ、結果的に高いエンゲージメントを狙うことができます。

Instagram採用の実践ポイント

Instagram活用のポイントは、機能の使い分けと目的から逆算したコンテンツ発信を行うことです。

●リール投稿とフィード投稿の使い分け
○リール投稿はショート動画、フィード投稿は主に静止画のフォーマットになります。Instagramでは特にこの二つの機能を活用し、企業認知・理解を図るためのコンテンツを発信しましょう。

●企業認知・理解を目的とするリール投稿
○ショート動画のリール投稿では、企業認知・理解促進の両側面をアプローチすることが可能です。但し、目的によってコンテンツ内容が異なる点に留意が必要です。企業認知目的の場合は、リールタブや発見タブに掲載され、多くの方への露出を図ることが重要です。
そのため、TikTok同様に高いエンゲージメントを狙える「エンタメ要素を取り入れたコンテンツ」の発信を行いましょう。理解促進目的の場合は「企業」「人」「仕事」という3軸で自社のビジョンや働く社員、具体的な業務内容等を短くまとめ発信しましょう。

●企業理解を目的とするフィード投稿
○主に静止画を投稿するフィード投稿では、企業理解促進を目的としたコンテンツを発信します。理解促進のためのリール投稿同様、「企業」「人」「仕事」という3軸でコンテンツを作成しますが、その際写真単体で投稿をするのではなく、写真に文字入れを行い、ユーザーに「読んでもらう」ことが重要です。

ショート動画の重要性

TikTokやInstagramで多くの方への露出を行うためには、各プラットフォームのおすすめ欄に掲載されやすいショート動画を活用することが重要であると前述致しましたが、実施に若年層のショート動画利用率が非常に高いことも着目すべきポイントです。

Z世代の多くがTikTokやInstagramリールを日常的に視聴しており、特にTikTokは6~7割が「ほぼ毎日見る」とアンケートでは回答しています。これは、ショート動画が情報収集の主要な手段になっていることを示しており、採用活動においてもショート動画を活用する意義が大きいことを裏付けています。

Z世代の基本的な特徴や行動パターン、注意点等について解説しています。

 

成功するショート動画制作ポイント

TikTokやInstagramでのショート動画は、視聴完了率やエンゲージメント(いいね・コメント・シェア等)がおすすめ欄に掲載されるための指標として重視されます。以下のポイントを押さえることで、動画がより多くのユーザーに表示される可能性が高まります。

冒頭3秒のインパクト

●ユーザーはスワイプやスクロールで容易に次のコンテンツに移動できるため、最初の数秒で視聴者の目を引く要素が必須です。
●興味を引くセリフや演出を冒頭に入れると、動画の続きを見てもらいやすくなります。
●明るい色使いや大きめのテキスト、動きのある映像を冒頭に配置するなど、視覚的な工夫も効果的です。

画質や見やすさの確保

●推奨解像度は720p以上とされており、撮影時の画質や編集後の出力設定に注意が必要です。
●縦動画(9:16)のフォーマットが推奨されており、スマホ全画面で見やすい構成にすることでエンゲージメントの向上が期待できます。
●照明や音声にも配慮し、暗すぎたり雑音が多い動画を避けるようにします。

30~60秒程度にまとめる

●TikTok、Instagram共に30秒~60秒程度の動画がアルゴリズム上、評価されやすいと言われています。(2025年3月現在)
●不要なシーンはカットし、要点を絞ったテンポの良い展開を心がけることが重要です。

コメントやメッセージへの対応

●ユーザーの疑問や反応に素早く回答することで、投稿へのエンゲージメントが高まります。
●アルゴリズムはコメント数や返信有無も評価要素の一つとされているため、SNS担当者が丁寧に対応する姿勢が重要です。
●コメント欄でのやりとりが増えるほど、結果的に投稿がより多くのユーザーに表示される可能性があります。

SNS向けコンテンツの設計ステップ

SNSにおいてコンテンツを制作する際には、採用候補者の段階に応じた設計を意識すると効果的です。以下では、認知→興味喚起→応募誘導という流れを踏まえて、それぞれに適したコンテンツの方向性を整理します。
 1. 認知を広げるコンテンツ
   ○ 目的: 企業の存在をより多くの人に知ってもらう
   ○ 対象: 企業に興味を持つ前の潜在層
   ○ 内容例: 高いエンゲージメントを狙いやすいトレンドの楽曲や動画フォーマット 等
 2.  興味を深めるコンテンツ
   ○ 目的: 企業のカルチャーや仕事の実態を理解してもらう
   ○ 対象: 企業に興味を持ち始めた準顕在層
   ○ 内容例: 事業紹介や社員インタビュー、オフィスツアーのコンテンツ 等
 3.  応募・行動を促すコンテンツ
   ○ 目的: 実際の応募や問い合わせにつなげる
   ○ 対象: 関心度の高い顕在層
   ○ 内容例: 募集職種の情報、応募方法や説明会の案内、オンライン説明会やイベント予告動画 等

上記のステップを踏まえてコンテンツを設計・運用することで、潜在的な候補者から応募意欲の高い候補者まで、一気通貫してアプローチすることが可能になります。

まとめ

本稿では、採用市場を取り巻く環境変化やSNSマーケティング市場の拡大を背景に、TikTokやInstagram等のSNS媒体を活用した採用戦略の重要性について整理しました。

SNS施策はあくまでも採用全体の一部であり、応募者体験の向上や内定者フォロー等、総合的な視点で設計することが不可欠です。テクノロジーとユーザートレンドの変化が激しい時代だからこそ、社内外の知見を取り入れながら、長期的視点でSNSを活用した採用戦略を進化させることが重要となるでしょう。

Instagramベストプラクティスガイド (Instagram公式)

株式会社Evoke 代表取締役 小野 勇輔

▼プロフィール
早稲田大学商学部卒業後、ニュースアプリ運営会社の株式会社Gunosyに新卒入社。子会社にて動画マーケティング事業の企画やセールス、SNSアカウント運用事業の立ち上げに従事。その後、株式会社Evokeを設立。中小企業から大企業まで、SNSを活用した採用やマーケティング支援を幅広く行う。

▼株式会社Evokeについて
株式会社EvokeはSNSを活用し、採用やマーケティング支援を行うデジタルマーケティング企業です。企業のTikTok、Instagramアカウント運用における企画から撮影、編集、投稿、分析まで一気通貫してご支援しております。

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