2024年に発生した台風と災害への備え

公開日:2025年1月17日

自然災害・事業継続

令和6(2024)年台風第10号では暴風や大雨により、西日本から東日本の太平洋側を中心に土砂災害や建物損壊等、多大な被害が生じました。被害に遭われた皆さまには心からお見舞い申し上げます。
本稿では、令和6(2024)年台風第10号を中心とした2024年の台風に関する情報についてまとめるとともに、災害への備えについても記載します。
なお、本レポートは2024年10月23日時点の情報に基づいて作成しています。

2024年(10月まで)の台風について

2024年に発生した台風は10月23日時点で20個となっています。表1には本州に被害をもたらした主な台風を示します。この三つの中で特に被害が大きかったのが台風第10号です。

台風第10号の経路を図1で示します。2024年8月22日3時にマリアナ諸島で発生した台風第10号は、24日にかけて発達しながら北へ進み、25 日には進路を北西へ変えて進みました。台風は日本付近で動きが遅くなり、27日に非常に強い勢力となって奄美群島に接近し、進路を北に変えて九州に接近しました。

台風は、上陸直前には中心気圧935hPa、最大風速50m/sの勢力となり、29日8時頃に鹿児島県薩摩川内市付近に上陸しました。上陸後は、ゆっくりとした速度で勢力を弱めながら九州や四国を通って東海道沖へ進み、9月1日12時に熱帯低気圧に変わりました。

台風が非常に強い勢力で接近したため、8月27日から29日にかけて鹿児島県では最大風速30m/sを超える猛烈な風を観測し、九州の複数の観測地点で8月の最大風速の観測史上1位の値を更新しました。28 日には、鹿児島県(奄美地方を除く)の市町村に暴風、波浪、高潮の特別警報が発表されました。

また、西日本から東日本の太平洋側を中心に記録的な大雨となり、8月28日から31日にかけて、鹿児島県、宮崎県、大分県、徳島県、香川県、兵庫県および三重県で線状降水帯が発生しました。⁴⁾

図2は台風第10号の影響を受けた2024年8月27日から9月1日までの降水量の合計値を示します。期間中の総雨量は静岡県伊豆市天城山で977.5mm等、平年8月1か月分の降水量の2倍以上となった所がありました。

また、図3、4は8月27日から9月1日までの最大風速と最大瞬間風速の状況示します。九州を中心に観測史上1位の値を更新した所が多くなりました。なお、最大風速と瞬間風速、最大瞬間風速の定義は表2の通りです。

表1であげた台風の主な被害状況は次の通りとなっています。
なお、2024年9月10日時点での国土交通省、総務省消防庁および内閣府から公表されている情報をもとにまとめています⁸⁾~¹⁷⁾。

(1)人的被害

(2)河川

ここでは、特に被害が大きかった台風第10号による河川氾濫のみ取り上げます。14)

国管理河川:櫛田川水系佐奈川(三重県多気町)で氾濫による農地浸水

都道府県管理河川:11都県(岩手、埼玉、東京、神奈川、岐阜、静岡、愛知、三重、大分、宮崎、鹿児島)の30水系42河川で氾濫による浸水被害
         
岐阜県管理の木曽川水系小畑川(養老町)と三重県管理の三渡川水系川木畑川(松阪市)で堤防欠損

(3)土砂災害件数

(4)住宅被害

(5)インフラ被害

ここでは、特に被害が大きかった台風第10号のインフラ被害のみ取り上げます。

台風第10号から見る台風のなぜ

(1)なぜ台風は予想よりも西に進路を変えたのか?

日本の南海上で発生した台風第10号ははじめ北上していましたが、次第に進路を西に変え鹿児島県に上陸する形となりました。当初の予想では太平洋上をそのまま北上し、近畿や東海地方周辺を直撃すると考えられていました。予想よりも西にズレた理由の一つとして、台風の西側にあった「寒冷渦」があげられます(図6参照)。寒冷渦とは上空に寒気を伴った反時計回りの循環で、この寒冷渦の流れに台風が引っ張られる形で西に進路を変えたとみられます。

さらに、図7に示すように特に水温が高い海域(ピンク色)を進んだことで台風のエネルギー源となる水蒸気の補給が十分だったため、上陸直前には台風が非常に強い勢力となりました。

気象庁が発表する台風情報の見方をここで確認します。
図8が台風情報の例です。台風の中心位置や進行方向、速さ、最大風速等に加えて、5日先までの進路を白い破線=予報円で示しています。この予報円は、台風の大きさの変化を表すのではなく、予報した時刻の円内に台風の中心が入る確率が70%¹⁹⁾というものです。

そのため、この予報円が大きいほど台風の進路が定まっておらず、不確実な要素が大きくなることを示しています。また70%という比較的高い確率ではあるものの台風第10号のように当初の予報円に入らず、予報が変わる可能性も多いに考えられます。予報円が自分の住む地域等に重なっていなくても、常に最新の情報を確認することが必要です。

(2)なぜ台風の動きがノロノロだったのか?

台風第10号が自転車並みの遅さとなったのは、台風を移動させる風が弱かったことが理由としてあげられます。一般的に台風は東風が吹いている低緯度では西に移動し、太平洋高気圧のまわりを北上して中・高緯度に達すると、上空の強い西風=偏西風により速い速度で北東へ進むと言われています。²⁰⁾

しかし、台風第10号の時は図9のように偏西風の蛇行が小さく日本の北方に離れていたことから台風のスピードが上がらず、各地で線状降水帯が発生するなど影響が広範囲で長引くことになりました。

気象庁気象研究所の発表²²⁾によると、地球温暖化に伴い台風(熱帯低気圧)の移動速度が今世紀末には現在よりも約10%遅くなることがわかっています。地球温暖化によって大規模な大気の流れが変化し、日本上空の偏西風が北上して台風を移動させる風が中緯度帯で弱くなることが原因だと考えられています。

また、地球温暖化で台風の降水強度が増加することも指摘されており、移動速度の減速と降水の強化との相乗効果で、将来降水量が増える恐れがあります。

企業の台風への備えについて

台風への備えとしてハザードマップ等による自社所在地の水災リスクや高潮リスクの把握、台風の接近が予測された際の対応手順の整備が挙げられますが、ここでは特に建物・設備等の損害防止に関する事項について解説します。

(1)平常時の対策

①施設の防護措置

工場や倉庫等の建物の外装材に使用されることが多いスレートや波状鉄板は、軽量で強風被害が発生しやすいため、健全な状態を維持することが重要です。また、浸水した場合に操業停止につながるおそれがある設備機器については、嵩上げ等の浸水防止措置を実施することが重要です。

強風や大雨による建物損害の防止対策例を表7に示します。

 

②資器材・備蓄品の用意

資機材・備蓄品の種類や数量が十分かを確認し、必要なものを補充・拡充します。強風や大雨に対する資器材・備蓄品の例を表8に示します。

③訓練の実施

避難訓練・消火訓練のように実際に体を動かしてみる「実動訓練」とともに、さまざまな台風シナリオに柔軟に対応するための「図上訓練」を実施することも有効です。訓練で浮かび上がった課題をマニュアルに反映させることで、より実効性の高い防災体制が構築できます。

(2)緊急時の対策

建物・設備等の防護措置
台風が接近してきた場合には、迅速に行動する必要があるため、各実施事項の担当者や実施手順を明確にすることが重要です。

まとめ

企業は台風被害を最小限にするためハード面の対策がカギになりますが、災害時に実施すべき内容を事前に洗い出し、タイムライン(防災行動計画)を作成するなどのソフト面も大きな効果を発揮します。気象庁等の最新情報をこまめに確認し、活用していくことが重要です。


MS&ADインターリスク総研株式会社発行の災害リスク情報2024年11月(第100号)を基に作成したものです。

 

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