賃上げにより受けられる業務改善助成金の概要を紹介!申請の流れも解説

公開日:2024年6月3日
更新日:2025年7月3日

助成金・補助金

従業員の賃上げは、従業員満足度やモチベーションの向上、採用競争力の強化に直接つながる重要な施策と言えます。賃上げを実施する上で、ぜひ活用を検討したいのが「業務改善助成金」です。

今回は2025年度における最新の情報をもとに、業務改善助成金の基本的な仕組みや申請方法をご紹介します。中小企業における活用事例にもふれながら、自社の取組に活かせるヒントを探ってみましょう。

【2025年度】業務改善助成金とは

業務改善助成金とは、生産性向上につながる設備投資等を行うと同時に、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた時に、設備投資等にかかった費用の一部を助成してもらえる仕組みです。事業場内最低賃金とは、事業場で最も低い時間給のことを指し、地域別最低賃金と同様に、最低賃金法および最低賃金法施行規則の定めに基づいて計算されます。

業務改善助成金を受け取るには、事業場内最低賃金の引上げ計画と設備投資等の計画を作成して申請する必要があります。業務改善助成金の交付が決定した後に、提出した計画どおりに事業を進め、その結果を報告することで助成金が支給されます。

 

対象事業者

業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が対象となる制度です。事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差が50円以内であること、解雇や賃金引下げ等の不交付事由に該当しない事業者が対象となります。

また、支給要件に関しては、中小企業基本法で定義されている「中小企業者」の条件を満たす必要があります。この法律における中小企業者とは、以下の資本金または出資額、あるいは常時使用する従業員数の条件を満たした企業のことです。

 

ただし、2025年度の制度改正により、「みなし大企業」は業務改善助成金の対象外になっているので注意が必要です。みなし大企業とは、大企業と密接な関係にある中小企業のことであり、例えば「発行株式総数または出資価格の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有している場合等」が挙げられます。

実質的に大企業の一部として見られる場合は、資本金・出資金や労働者数の条件を満たしていても利用できない可能性があるので注意しましょう。

支給要件

業務改善助成金を利用するには、先にも述べた「中小企業基本法における中小企業の条件」を満たすとともに、業務における生産性や効率性の向上を目的に投資を行う必要があります。また、6か月以上雇用している従業員の「事業場内最低賃金の引上げ」も実現しなければなりません。

これらを踏まえた設備投資等の計画と、事業場内最低賃金の引上げ計画を立て、期間内に適切な形で申請を行う必要があります。

助成上限額・助成率

業務改善助成金における助成上限額は、以下にまとめた表のとおりです。

※10人以上の上限額区分は「特例事業者」が対象

また、助成率に関しては申請を行う事業場の引上げ前の事業場内最低賃金によって、助成率が変わってきます。具体的な助成率は、次のとおりです。

対象となる経費

業務改善助成金における助成対象となる経費は、「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等」となっています。業種によって違いがあり、一例として以下のものが挙げられます。

特例事業者とは

 

業務改善助成金において、賃金要件・物価高騰等要件のどちらかの要件に該当する事業者を特例事業者としています。特例事業者と認められることで、上記のように助成金上限額や助成対象経費の拡大が受けられます。

それぞれの要件について見ていきましょう。

賃金要件

賃金要件とは、事業場内最低賃金が950円未満の事業者が申請を行う場合が当てはまります。要件に該当することで、助成上限額の拡大が認められます。

物価高騰等要件

物価高騰等要件は、原材料費の高騰等の外的要因によって、申請を行う前の3か月間のうち任意の1か月の利益率(売上高総利益率または売上高営業利益率)が前年同期と比較して、3%ポイント(※)以上低下している事業者が該当します。

(※)%ポイント:パーセントで表された2つの数値の差を表す単位

【2025年度】2024年度との変更点

業務改善助成金は、2025年度に仕組みの一部が改正されているため、昨年の情報をもとに利用を検討していた場合は変更内容に注意が必要です。

助成率区分の変更

2024年の段階では、900円未満、900円以上950円未満、950円以上の3つに区分されていましたが、2025年度は「賃金1,000円未満」「1,000円以上」の2つに変更されているため注意が必要です。助成率はそれぞれ、1,000円未満が4/5、1,000円以上が3/4となり、よりシンプルな仕組みとなっています。

生産性要件の廃止

2024年度までは、生産性要件に該当した場合において、助成率が割り増しされる仕組みとなっていました。しかし、2025年度からは生産性要件そのものが廃止され、助成率の割増制度がなくなっているため注意が必要です。

その他の変更点

2025年度からは、事業主単位での申請上限が600万円までと明確化されました。これにより、同一事業主による、異なる事業場にまたがった600万円を超える支給は認められなくなっています。

それ以外の変更点としては、賃上げ対象となる基準労働者の雇用期間が、「3か月以上」から「6か月以上」に変わった点が挙げられます。また、2025年度は申請期間が分割されており、現状では2回に分けて募集・受付が行われているのも特徴です。

ここからは、スケジュールの詳細について見ていきましょう。

2025年度における業務改善助成金の最新スケジュール

前述のとおり、2025年度においては、申請期間が複数回に分割されています。現状においては、第1期、第2期の2回に分けて募集・受付が行われており、具体的な期間は次のとおりです。

なお、状況によっては第3期以降の募集が行われる可能性もあり、その場合は別途で告知が行われることとなっています。

地域別賃金改定日とは

第2期のスケジュールでは、申請期間および賃金引上げ期間の締め切りが、「申請事業場に適用される地域別最低賃金改定日の前日」に設定されています。「地域別最低賃金改定日」とは、厚生労働省が毎年発表する最低賃金の地域別基準のことです。

改定日は都道府県ごとに異なりますが、基本的にはまず毎年7月末に、厚生労働省の中央最低賃金審議会で答申がまとめられ、引上げ額の目安が発表されます。その後、答申の内容を受けて、毎年10月に地域別の最低賃金改定状況が公表されます。

公表日は都道府県によってズレがありますが、おおむね10月1日となっているので、スケジュールの設定には注意が必要です。

 

事業完了期限とは

業務改善助成金を利用するには、指定された「事業完了期限」を守る必要があります。事業完了期限とは、以下のいずれかのうち、最も遅い日のことです。

・導入機器等の納品日
・導入機器等の支払完了日(銀行振込の振込日。クレジットカード等の場合は口座の引き落とし日。)
・賃金引上げ日(就業規則等の改正日)

第1期、第2期ともに、翌年の1月31日が期限とされているため、超過しないように注意しましょう。なお、やむを得ない事情がある場合は、理由書とともに申請することで、3月31日まで延長される場合があります。

例えば、「導入機器等の納入日が、半導体不足等納入機器業者の都合により、1月31日よりも遅くなる場合」等が該当します。延長が認められるかどうかは、状況によって異なるため、必要があれば管轄の労働局雇用環境・均等部(室)に問い合わせて確認しましょう。

業務改善助成金の申請方法

業務改善助成金をスムーズに申請するには、基本的な流れを把握しておくことが大切です。申請を行う際は、次の手順となります。

業務改善助成金の申請の流れ
1. 交付申請書・事業実施計画書等を作成する
2. 交付申請書・事業実施計画書等を都道府県労働局に提出する
3. 設備や機器の導入を行う
4. 事業場内の最低賃金引上げを行う
5. 事業実績報告書を作成・提出する

各ステップについて、ポイントを解説します。

補助金の申請に必要な手続、入金までのスケジュール例について解説しています。

 

交付申請書・事業実施計画書等を作成する

業務改善助成金を申請するには、交付申請書と事業実施計画書等を作成する必要があります。事業実施計画書には、賃金引上げ計画と業務改善計画を記載します。

コース区分ごとに定められた金額以上を引き上げる計画を立て、設備投資にかかる費用を記載しましょう。

交付申請書・事業実施計画書等を都道府県労働局に提出する

作成した書類は、都道府県労働局に提出します。審査が行われ、交付決定または不交付決定の通知を受け取ります。

注意しておきたい点は、交付決定の通知を受け取る前に業務改善計画を実施し、経費を支出しても対象とならないことが挙げられます。必ず、交付決定の通知を受けてから、計画を進めるようにしましょう。

設備や機器の導入を行う

交付決定の通知を受けたら、設備や機器の導入を行います。後から事業実績報告をする必要があるため、契約書や納品書、請求書、銀行振込明細書、購入した機器の写真等をきちんと保管しておきましょう。

また、生産性が向上したことが確認できる数値等を取りまとめておくと、報告を行う際にスムーズです。

事業場内の最低賃金引上げを行う

申請を行う前に賃金引上げを実施している場合は不要ですが、そうではない場合は賃金引上げを実施します。賃金引上げのタイミングとしては、交付決定後から事業完了期日までとなっています。

事業実績報告書を作成・提出する

必要な機器の導入や助成対象経費の支払い、賃金引上げのすべてが完了したら、事業実績報告書を作成して都道府県労働局に提出します。事業完了期限は導入機器の納品日、支払完了日、賃金引上げ日のいずれか遅い日となります。

事業実績報告書の提出と併せて、支給申請書も忘れずに提出しましょう。事業実績報告書等を提出することで審査が行われ、適正と判断されれば助成金の支給が行われます。

申請時の注意点

業務改善助成金を利用する際には、いくつか注意したいポイントがあります。ここでは、主に申請する際の基本的な注意点を3つご紹介します。

交付決定前の事業は対象外

最低賃金の引上げや設備投資等は、「これから実施するもの」が助成の対象となります。業務改善助成金では、「先に計画を出して、労働局から交付決定を受けてから実施」するのが基本の流れです。

交付決定後から事業完了期限(賃上げは地域別最低賃金の改定日)までの間であれば、実施時期は問われませんが、申請前に行った賃上げや投資は対象外となるので注意しましょう。

申請期限前に募集打ち切りの可能性がある

業務改善助成金は決められた予算枠で運営されているため、早期に応募が集まれば、打ち切りになる可能性もあります。現状では第1期と第2期の募集が行われていますが、交付の状況によっては今年度の分が打ち切りとなる恐れもあるので、利用を検討している場合は早めに手続を済ませましょう。

賃金の段階的な引上げは認められない

賃上げについては、以前は段階的な引上げによって条件をクリアすることも認められていましたが、2024年度の申請から行えなくなっています。例えば、5月1日に事業内最低賃金を1,000円から1,010円に引き上げた後、9月1日に1,010円から1,030円に引き上げた場合、両者を合算して引上げ額を算定することはできません。

このケースでは、賃金を30円以上引き上げたことにはならず、賃上げの要件をクリアできないため注意が必要です。

業務改善助成金の活用例

業務改善助成金を利用することで、実際に企業ではどのような成果が生まれているのでしょうか。ここでは、厚生労働省の「業務改善助成金の活用例」をもとに、企業における活用事例をいくつかご紹介します。

 

宿泊業・飲食サービス業

従業員数30人規模の宿泊業の企業では、おにぎりの製造や食器洗浄、オーダーの伝達といったオペレーションに課題を抱えていました、そこで、社会保険労務士の提案によって業務改善助成金の仕組みに目を向け、キッチンの業務効率を向上させるための機器と、QRコードオーダーシステムの導入を決断します。

その結果、機器の導入によって、おにぎりの製造に必要な作業人員を3人から1人に省力化することに成功します。さらに、ホールスタッフのオーダーミスがなくなり、業務負担が2~3割軽減されるという結果につながりました。

その成果として、10人の従業員の事業内最低賃金を平均で149円引き上げることに成功しています。

製造業

食品製造業を営む従業員数19人のある小規模企業では、業務効率の伸び悩みと、外国人従業員への教育効果に課題を抱えていました。そこで、業務改善助成金を活用し、自動モチつき機とベルトコンベア、視聴覚機器、翻訳機を導入します。

その結果、商品製造時間が15%削減され、商品ロスはほぼ0%になるという成果につながります。4人必要だった作業が2人で行えるようになり、省力化による効率的な人員配置が可能となりました。

さらに、外国人への教育も改善され、半分の時間で理解度の向上を果たすことができました。その成果として、19人全員の時間給を平均で65円引き上げることに成功しています。

医療・福祉

介護事業を営む従業員数16人のある小規模企業では、施設の構造によって「利用者の状態を事務所から確認できないためトイレや入浴の際の職員の待機時間が長くなる」「福祉車両が小さく、車いすの種類によっては載せられない」といった課題を抱えていました。そこで、業務改善助成金を活用し、ベッドセンサー、ワイヤレスコール、新型福祉車両を導入します。

ベッドセンサーとワイヤレスコールにより、遠隔でもモニター管理が行えるようになり、巡回や介助にかかる時間を1日合計約6時間も削減することに成功します。さらに、どのようなタイプの車いすも1人で車両に乗せられるようになり、移動の効率化も実現しました。

その結果、1人の従業員の時間給を134円引き上げ、さらに事業場内最低賃金を上回る従業員の賃金の引き上げることに成功しました。なお、福祉車両の設備費については、一定の関連費用も助成の対象となります。

ただし、各種税金や自賠責保険、販売車両リサイクル料金等は対象外となるので注意しましょう。

その他賃上げに関する助成金・控除を紹介

最後に、賃上げに関するその他の助成金・控除をご紹介します。

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者等が企業内でキャリアアップを行えるように支援するための仕組みです。正社員化や処遇改善の取組を行った事業者に対して一定額の助成が行われます。

キャリアアップ助成金について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

キャリアアップ助成金の基本的な仕組み、申請条件、助成額、申請までの流れを解説します。

 

中小企業向け賃上げ促成税制

中小企業向け賃上げ促進税制とは、中小企業者等が前年度より給与等を増加させた時に、その増加額の一部を法人税から税額控除できるための制度です。適用期間は2027年3月31日までの間に開始する各事業年度となっており、すべての要件を満たすことで最大45%の控除率となるのが特徴です。

賃上げに取り組みながら、税負担の軽減につながる仕組みであるため、自社の状況を踏まえた上で活用してみましょう。

2025年に新設される補助金制度や変更点などについて解説しています。

 

まとめ

業務改善助成金は、業務改善のための設備導入等と、従業員の賃上げをセットで行う際に活用できる制度です。中小企業向けの制度であり、一定の条件を満たせば幅広い業種で利用できる仕組みとなっています。

これまでに業務改善助成金を活用している企業の事例も参考にしてみると、自社で活かせるヒントが見つかるはずです。まずは、どのような活用パターンが考えられるのか、自社の業務に当てはめて検討してみましょう。

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