アトツギ支援とは?後継者不足の課題解決につながるポイントを解説

公開日:2026年3月23日

事業承継・M&A

日本の中小企業において、経営者の高齢化と後継者不在は悩ましい社会課題となっています。多くの経営者が事業の継続を望みながらも、適切なバトンタッチができずに廃業を選択せざるを得ないケースがあると言えるでしょう。

こうした中で注目されているのが、単なる事業の引継ぎにとどまらない「アトツギ支援」という新しいアプローチです。この記事では、アトツギ支援の定義や従来の事業承継との違い、そして後継者不足を解消するための具体的なポイントについて解説します。

アトツギ支援とは

「アトツギ支援」とは、先代経営者から受け継いだ有形・無形の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・暖簾等)を最大限に活用し、新しい取組やイノベーションに果敢にチャレンジする「若手後継者(アトツギ)」を支援する一連の活動を指します。そのため、単に会社の代表権や株式を譲渡する手続だけを指す言葉ではありません。

従来、事業承継といえば、負債の引継ぎや古参社員との軋轢といったネガティブな側面がクローズアップされがちでした。しかし、アトツギ支援においては、後継者を「第二創業」を担うベンチャー経営者と捉え直すのが特徴です。

既存の安定した基盤があるからこそ、ゼロから起業するよりもリスクを抑えつつ、大胆な新規事業に挑めるというメリットがあります。アトツギ支援は国や自治体、金融機関、商工会議所等、多くの支援機関が連携し、後継者同士のコミュニティ形成やイベントの開催、補助金の交付等を通じて実施されています。

事業承継における補助金制度について解説しています。

 

アトツギ支援と事業承継の違い

「アトツギ支援」と「事業承継」は関連するものですが、重視するポイントやアプローチには明確な違いがあります。ここでは、それぞれの定義と特徴を比較しながら、その違いを見ていきましょう。

まず、一般的に言われる「事業承継」とは、経営者が自身の会社や事業を後継者に物理的・法的に引き継ぐ行為そのものを指します。企業のオーナーシップ(所有権)と経営権を移転するプロセスであり、基本的には株主や現経営者の意思に基づいて後継者を定めていきます。

そして、数年かけて会社の経営権や自社株式、財産権等を徐々に後継者へと移していく実務的な手続が中心です。事業承継の具体的な方法としては、親族等に引き継ぐ「親族内承継」、役員や従業員に引き継ぐ「従業員等への承継」、そして株式譲渡等を通じて社外の第三者に引き継ぐ「第三者への承継(M&A)」といった選択肢があります。

一方、「アトツギ支援」において大きな特徴となるのは、手続面よりも「後継者(アトツギ)視点」でプロセスを進めていく点です。事業承継が「渡す側(先代)」の事情や法的手続に重点を置くことが多いのに対し、アトツギ支援は「受け取る側(後継者)」の成長や準備に焦点を当てます。

具体的には、後継者が引き継ぐ会社のポテンシャルを再発見し、自分自身のやりたいことと継承先のリソースを掛け合わせて、「ビジネスモデルの変革」や「後継者自身のキャリア形成」を導き出していくことを支援します。つまり、守りの承継ではなく、「攻めの承継」を促すのがアトツギ支援の本質だと言えるでしょう。

事業承継において抱えがちな課題

円滑な事業承継は多くの中小企業にとって課題ですが、どのような課題があるのかを整理しておくことが大切です。ここでは、多くの中小企業が直面している課題や、事業承継を取り巻く状況について詳しく解説します。

事業承継を取り巻く状況

帝国データバンクが実施した「全国企業後継者不在率動向調査(2025年)」によれば、全国・全業種における2025年の後継者不在率は50.1%にのぼっています。これは、日本企業の半数以上が、将来会社を誰に託すか決まっていないという状況にあることを示しています。

また、経営者の年齢別に見た時の後継者不在率は、60代で35.9%、70代で27.3%、80代以上でも22.2%です。3~5人に1人の割合で後継者が見つかっていない状況がわかります。

経営者が高齢になればなるほど、健康リスクや判断能力の低下といった問題が生じる可能性が高まるでしょう。後継者が決まらないまま突発的な事態が発生すれば、黒字企業であっても廃業せざるを得ないケースもあり、大きなリスクと言えるはずです。

社長の平均年齢について解説しています。

 

中小企業が抱えている後継者問題

独立行政法人中小企業基盤整備機構が公表したデータによれば、日本の全企業数約337万社のうち、99.7%にあたる約336万社は中小企業で占められています。また、雇用の面でも、全従業員数約4,748万人のうち、69.7%にあたる約3,309万人が中小企業で働いている状況がわかります。

つまり、中小企業の存続は日本の雇用の約7割に何らかの影響を与えるものだと言えるでしょう。しかし、日本政策金融公庫が2023年3月に公表した資料「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によれば、後継者が既に決まっていて、かつ後継者本人も承諾している企業は全体のわずか10.5%にとどまっています。

一方で、廃業を予定している企業は57.4%にも達しており、事業継続を断念する経営者が過半数を占めている状況にあります。廃業理由として挙げられている点として、業績不振だけでなく、「子どもがいない」「適当な候補者が見つからない」等、後継者不足を直接的な廃業理由とする企業も28.4%となっているのです。

高齢の経営者がなかなか引退できない理由

経営者自身も、いつかは引退しなければならないと理解はしていても、現実には高齢になっても経営の第一線から退くことができない事情が数多く存在します。その主な理由をまとめると、次のとおりです。

上記のような理由が複合的に絡み合い、経営者が「自分がやるしかない」と抱え込んでしまうことが、引退を遅らせる大きな要因となっています。

事業承継における2025年問題

事業承継における「2025年問題」とは、日本の高度経済成長を支えてきた団塊の世代が、2025年ごろまでに75歳(後期高齢者)を超えることによって発生する社会構造や経済への影響を指す言葉です。

多くの企業経営者が平均引退年齢とされる75歳以上となることで、体力面・健康面での限界を迎え、後継者不足に伴う廃業や倒産が急増すると考えられています。中小企業庁の試算によれば、現状のまま放置すれば、2025年までの累計で約650万人の雇用と、約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされています。

廃業する企業が増えれば必然的に雇用は失われ、地域経済の衰退やサプライチェーンの寸断等、経済全体に計り知れないマイナスの影響が出てくると予測されているのです。多くの企業が廃業していく流れを回避するためにも、早期の事業承継対策やアトツギ支援の重要性が高まっているのです。

後継者視点に立ったアトツギ支援の特徴

アトツギ支援は、従来のような「事業の現状維持」を目的とするのではなく、後継者が主役となって新たな価値を創造することに重点を置いています。ここでは、アトツギ支援の核となる概念や、支援者に求められる役割について解説します。

ベンチャー型事業承継のとらえ方

アトツギ支援の中核にあるのが「ベンチャー型事業承継」です。ベンチャー型事業承継では、若手後継者(アトツギ)が世代交代を好機と捉え、先代から受け継ぐ有形・無形の経営資源(顧客リスト、技術、信用、土地・建物等)を活用し、新規事業の立ち上げ、業態転換、新市場参入等、新たな領域に果敢に挑戦していくことをめざします。

アトツギが地域にしっかりと根を張り、自社の強みを見つめ直し、時代の変化に合わせて商品を変えたり、売り方を変えたりする「小さな挑戦」を積み重ねることこそが、ベンチャー型事業承継の特徴です。具体例としては、老舗の和菓子屋がオンライン販売を始めたり、町工場が自社ブランドのアウトドア製品を作ったりすること等が挙げられます。

既存の事業の枠にとらわれず、後継者自身の情熱を事業に反映させることが重要だと言えるでしょう。

アトツギ支援に必要とされる役割

アトツギ支援においては、後継者本人の努力だけでなく、周囲のサポートが欠かせません。特に同族承継の場合、親子であるがゆえの感情的な対立や、先代とのコミュニケーション不足等が原因で、事業承継そのものが成就しないケースがあります。「継ぐ・継がない」の話が、いつの間にか家族間の感情論にすり替わってしまうことも珍しくありません。

こうした家族の問題として扱われがちなテーマについて、客観的な視点を持つ第三者が介入し、未来を担う次世代の後継者をサポートする必要があります。支援機関や専門家が第三者として間に入り、先代の想いを後継者に翻訳して伝えたり、逆に後継者の新しいアイデアの妥当性を先代に説明したりすることによって、先代と後継者をうまくつなぐ役割を果たします。

また、孤独になりがちな後継者に対して、メンターとして伴走したり、同じ境遇のアトツギ仲間とつなげたりすることも、支援に求められる重要な役割です。

事業承継に向けた準備について解説しています。

 

アトツギ支援や事業承継ができなかった時のリスク

仮に適切なアトツギ支援や事業承継が行われず、企業が廃業を選択せざるを得なくなった場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか。廃業は単に会社がなくなるだけでなく、経営者自身の生活や周囲の関係者にも多大な影響をおよぼすので注意が必要です。

ここでは、どのようなリスクが発生するのかを見ていきましょう。

廃業に伴う費用が発生する

廃業を行う際には、多額のコストがかかる場合があります。工場や店舗等の不動産を売却・更地にする費用、機械設備を廃棄する費用、在庫の処分費用等が必要になるでしょう。

さらに、長年勤めてくれた従業員に対しては、解雇予告手当や退職金を支払う必要もあり、これらを合計すると多額の廃業コストがかかることになります。会社の規模や業種にもよりますが、廃業コストが数百万円から1千万円超におよぶことも決して少なくありません。

借入金の返済やこれらのコストを支払った結果、廃業後に手元に残る金額が想像以上に少なくなり、経営者が勇退後に生活苦に陥ってしまうリスクが生じる恐れさえあります。資産が残ると思っていたのに、逆に借金が残ってしまったという最悪のケースを避けるためにも、廃業に向けた計画的な取組が必要です。

従業員の雇用が維持できない

事業承継ができずに廃業を選択した場合、従業員に与える影響は大きなものがあるでしょう。廃業するということは、従業員は職場を失い、退職せざるを得なくなります。

若手社員であれば再就職も比較的容易かもしれませんが、長年会社に貢献してきた中高年の従業員の場合、年齢等の条件によって希望に見合う転職先が見つからないケースもあるものです。再就職先が見つからなければ、従業員の生活基盤が失われ、大きな影響が出てくるでしょう。

結果として、従業員との間に築いてきた信頼関係が崩れる恐れがあり、企業の評判を落とすことにもつながる可能性があります。

取引先や顧客に影響が出る

廃業の影響は、自社の枠を超えて社外にも広がるケースがあります。廃業によって、自社で開発・提供してきた独自の商品やサービスが市場からなくなるため、長年愛用していた顧客にとっては、代替品が見つからないという不便を強いることにもなるでしょう。

また、特にBtoBビジネスの場合、自社が製造していた部品や提供していた機能がなくなると、取引先の製造ラインが止まってしまったり、代替の調達先確保にコストがかかったりします。場合によっては、主要な仕入先や販売先を失った取引先が経営難に陥る恐れもあるでしょう。

事業承継ができなかった時のリスクは自社だけにとどまらず、関係先にも影響を与えてしまう点を押さえておく必要があります。

アトツギ支援・事業承継の課題を解決する方法

後継者不足や事業承継は難しい点もありますが、適切な準備と対策を行えば乗り越えていくことは可能です。ここでは、アトツギ支援や事業承継を成功に導くために、経営者が押さえておくべきポイントを解説します。

早めにプランを検討する

事業承継は一朝一夕にできるものではなく、後継者の育成には5年から10年かかると言われています。自社株の移転に伴う税金対策や、他の相続人への配慮、場合によっては株式の買取資金の準備等には、十分な時間をかける必要があるでしょう。

経営者が元気なうちは「まだ早い」と考えがちですが、突然の病気やケガ等、健康上の問題が生じてからあわてて準備を始めたものの、時間切れで間に合わず廃業した、というケースは少なからずあります。

リスクを回避するためには、できるだけ早めに事業承継を検討し、「事業承継計画」を策定することが重要です。後継者候補に意思確認をしておくと同時に、専門家に相談してロードマップを作成し、計画的に準備を進めていくとより安心だと言えるでしょう。

自社の経営課題を解決しておく

後継者にバトンを渡す前に、引き継ぎやすい環境を整えておくことも現経営者の重要な役割です。事業承継を意識し始めたら、まずは決算書の見直しや財務状況の精査を行い、経営の現状把握をしっかりと行います。

その上で、将来の収益性や法的リスク等、事業承継におけるリスクや問題点を洗い出しておくことが重要です。例えば、不明瞭な資金の出入りをなくす、不良在庫を処分する、契約関係を整理するなどが挙げられるでしょう。

また、借入金の個人保証がネックになる場合も多いため、経営者保証を解除できるのかといった可能性を探ることも重要です。リスクや問題点を事前に把握すれば、早めに対応策を検討でき、後継者が安心して経営を引き継げる状態を作ることができるでしょう。

国の制度を上手に活用する

国も中小企業の事業承継をバックアップしており、政府は税制面や予算面でさまざまな優遇制度を用意しています。代表的なものに「事業承継税制」が挙げられます。

一定要件を満たせば、後継者が取得する自社株式にかかる相続税や贈与税の納税が猶予・免除される制度であり、税負担の軽減につながるはずです。また、「事業承継・引継ぎ補助金」等の補助金制度を活用すれば、M&Aにかかる専門家費用や、事業承継後の新しい取組(設備投資や販路開拓等)にかかる経費の補助を受けられます。

こうしたメリットを享受することで、資金面でのハードルを下げ、スムーズな事業承継につなげていけます。

事業承継における補助金制度について解説しています。

 

相続対策も並行して取り組む

中小企業のオーナー経営者にとって、事業承継と個人の相続は切っても切り離せない密接な関係にあります。会社の株は個人の財産でもあるため、事業承継を進める際は同時に相続対策も行う必要性があるでしょう。

例えば、後継者に自社株を集中させようとすると、他の相続人(兄弟姉妹等)から「遺留分」を侵害されたとして金銭を請求されるリスクがあります。こうしたトラブルを防ぐために、遺言書の作成や種類株式の活用等、株式の移転方法をよく検討する必要があります。

事業承継税制等の制度を理解して相続対策にも取り組み、事業承継と相続対策が万全なものとなれば、経営者自身も家族も、将来に対するさまざまな不安が解消されるはずです。

自社株式の承継についても考える

事業承継で引き継ぐ財産の中で大きなウエイトを占める自社株式を承継すると、その評価額に応じた税金を納める必要があります。承継方法には、売買(譲渡)、生前贈与、相続等の方法があり、どの方法を選ぶかによって、いつ、誰が、どれだけの税金を払うかという最終的な納税額が変わるため、慎重な注意が必要です。

特に、業績の良い会社ほど自社株式の評価額は高くなります。納税額は自社株式の評価額に基づき算出されるため、評価額が高いほど納税額は高くなり、後継者が納税資金を用意できなくなるリスクもあります。

株価引下げ対策を行うタイミングも含め、専門的な視点での検討が欠かせません。

何でも相談できる専門家を見つけておく

ここまで見てきたように、事業承継や相続対策は、税務、法務、財務、そして家族感情等、多岐にわたる知識と高い専門性が必要とされます。自分たちだけで解決しようとせず、税理士・弁護士・公認会計士・中小企業診断士等の専門家に相談し、リスクを抑えて取り組むことが大切です。

ただし、すべての専門家が事業承継に詳しいわけではありません。事業承継の実績が豊富な専門家を見極めることが重要です。

正しい知識がないと行動に移しづらく、実行したとしても選択を誤って税制優遇を受けられなかったり、余計な時間を浪費したりするので気をつけなければなりません。信頼できるパートナーを見つけることが、スムーズな事業承継の成功への第一歩です。

事業承継に向けた準備について解説しています。

まとめ

この記事では、アトツギ支援の重要性や事業承継との違い、そして後継者不足解決のための具体的なポイントについて解説しました。後継者不在率は依然として高水準ですが、アトツギ支援という視点を取り入れることで、事業承継は単なる存続のための手段ではなく、企業が新しく生まれ変わるチャンスとなります。

廃業リスクを回避し、従業員や取引先を守るためにも、早期に準備を開始し、専門家や支援制度を賢く活用しながら、次世代へのバトンタッチを進めていきましょう。

関連記事

帝国データバンク公表 日本企業の「後継者不在率」過去最低の50.1% 「脱ファミリー」経営が加速

2026年3月18日

事業承継・M&A

事業承継におけるM&Aが増加!具体的な手順と活用できる補助金制度を紹介

2025年10月27日

事業承継・M&A

帝国データバンク公表「社長の平均年齢、60.5歳 33年連続の上昇、高齢化止まらず」

2024年4月26日

事業承継・M&A

事業承継に向けたはじめの一歩!中堅・中小企業の経営者が知っておきたいポイントをわかりやすく解説

2023年10月2日

事業承継・M&A

おすすめ記事

価格転嫁を上手に進めるポイントとは?事例も詳しく解説

2026年6月15日

経営に関する全般

年収の壁とは?働き控えの解消を活かすポイントをわかりやすく解説

2026年6月1日

経営に関する全般

CEO詐欺の被害事例と企業が取り組むべき対策をわかりやすく解説

2026年5月25日

サイバーリスク

ストレスチェック義務化とは?実施の手順やポイントを詳しく解説

2026年5月18日

健康経営・メンタルヘルス

賃上げ促進税制とは?制度の概要と申請要件をわかりやすく解説

2026年5月11日

経営に関する全般

週間ランキング

6月から義務化(罰則付き)となった「職場の熱中症対策」のポイント

2025年6月13日

人事労務・働き方改革

自然災害・事業継続

法改正

産休 (産前産後休暇)と育休の手続きについて解説

2025年5月7日

人事労務・働き方改革

「個人から法人への非上場株式の譲渡における注意点」

2024年11月22日

その他

過剰に主張するハラハラとは!?具体例と対策について

2024年9月6日

人事労務・働き方改革

ハラスメント

高齢者の自動車運転に関する実態と意識について~アンケート調査結果より(2024年版)

2025年2月28日

事故防止