運送業界の脱炭素化に向けた取組
公開日:2024年10月9日
脱炭素
日本政府は2020年10月に、2050年までに温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いた合計をゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと宣言しました。この宣言を受け、大企業を中心にカーボンニュートラルの実現に向けた取組が本格化しており、商品やサービスの提供に携わる複数の事業者が協力したサプライチェーン全体での脱炭素化の動きが広がっています。本稿では、運送業界における脱炭素化に向けた取組について説明します。
目次
現状
2022年度の国内CO2排出量のうち、貨物自動車からの排出量は運輸部門の38%、日本全体の7%を占めています。自動車の燃費改善等により、CO2排出量は2013年度比では減少していますが、削減ペースは他産業に比較して低調です。新型コロナウイルスの流行で落ち込んだ経済が回復する中で、輸送量が増加し、排出量は新型コロナウイルス流行前の水準に戻っています。運送業界は、2030年度の中間目標として2005年度比31%(2013年度比24%)のCO2排出量削減を目指していますが、現在のペースでは達成が難しく、削減ペースを加速させる取組が必要です。
運送業界の課題
運送業界が排出するCO2の大半は貨物自動車に起因するものです。電力や水素などのクリーンエネルギーを燃料とする充電・充填インフラが整っていないことや、これらを燃料とする車両の開発が遅れていることから、貨物自動車では化石燃料車の割合が依然として高い状況です。そこで効果的な取組は、車両をCO2を排出しないZEV(ゼロエミッション車)に置き換えることですが、現時点では高価格でもあり、ZEVを使用している事業者は限定的です。公益社団法人日本トラック協会の「トラック業界における認識と課題」によると、貨物大型自動車のZEVには、航続距離の短さ、充電時間の長さ、車両重量の増加などの課題もあり、普及には相当な時間がかかる見込みです。
脱炭素化に向けた取組
運送業界の脱炭素化に向けた取組は、長期的にはZEVへの移行を目指し、短中期的には物流の効率化を進めていくことが最適なシナリオとなります。運送業界の脱炭素化に向けた取組は、以下のとおり短期的・中期的・長期的な視点に分類できます。
(1)短期的な取組:物流DXの推進
事業者単独で早期導入が可能な取組です。輸送に関わる情報を標準化・デジタル化することで、物流効率化の基盤を作ります。
(2)中期的な取組:オペレーションの改善
荷主を含めた複数社での連携が必要で、導入に一定の時間を要する取組です。物流業界全体で最適化を図り、輸送効率を改善します。
(3)長期的な取組:動力源の転換
従来の化石燃料から電気や水素などの代替燃料に切り替える取組です。短中期的な取組で輸送効率を高め、輸送に必要な車両台数を減らすことにより、車両入れ替えコストを抑えた大幅なCO2排出量の削減が期待できます。
おわりに
物流は他産業と密接に関わる重要な社会インフラであり、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを実現するためには運送業界の脱炭素化が不可欠です。中堅・中小企業の多い運送業界では、個々の会社で取り組めることは限られており、荷主企業や国・地方公共団体をはじめとする関係者と協力して脱炭素化取組を進めていくことが重要です。
当社では、お客さまの脱炭素化に向けた取組をサポートするため、中堅・中小企業向け脱炭素支援メニューを展開しています。詳細については、当社の営業担当にお問い合わせください。
この記事は、「MS&AD Marine News 2024年9月17日発行分」を基に作成したものです。
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