弁護士が解説!企業が問われる法律上の損害賠償責任とは ~自然災害(一般不法行為責任)における訴訟事例~

2024年5月8日

自然災害・事業継続

近年、企業の信頼性や財務、ブランドイメージ等に深刻な影響をおよぼす訴訟リスクが高まりをみせており、訴訟リスクに備えることの重要性が増しています。「企業が問われる法律上の損害賠償責任」をテーマとして、計3回にわたりご案内しておりますが、前回は「自然災害等の不可抗力における土地工作物責任」についてご説明しました。2回目となる今回は、自然災害等の不可抗力に起因する訴訟事例について、一般不法行為責任の要件とともに、具体的な事例をお伝えします。

はじめに

第1回目でも解説したとおり、台風、地震等の自然災害の際に自らの所有物によって第三者の所有物を損傷するなどの損害を与えたときは、不可抗力の要素が大きければ、当該第三者に対して損害賠償責任を負わない可能性が大きくなります。
しかし、自然災害の際に発生した事故であっても損害賠償責任を負う可能性があるため、注意が必要です。自然災害の際に発生した事故によって損害賠償責任を負うケースとしては、一般不法行為責任¹ や土地工作物責任 ²がありますが、本記事では、一般不法行為責任の要件とともに、裁判例において、自然災害の際であっても損害賠償責任を負うとされた事例をご紹介します。

一般不法行為責任とは

一般不法行為責任とは、自らの行為に関して過失がある場合に、自らの行為によって発生した損害について賠償責任を負うというものです。

代表的な事例としては、脇見運転等が原因となる危険な運転による交通事故があります 。

不法行為責任の法律要件(※)(以下、要件)は、以下のとおりです。
※法律要件:一定の法律効果が生ずるために必要とされる事実。

上記①~⑤については、被害者(損害賠償を請求する者)が証明する必要があります。

主な要件の意義等

(1)加害者の故意又は過失(要件③)

ア 故意
結果の発生を認識しながら、敢えてこれをする心理状態をいいます³ 。

イ 過失
(ア)概念
予見可能性(※)を前提とした結果回避義務(※)違反を考慮するのが実務の傾向です⁴ 。なお、誰かに損害を与えることを予見すれば足り、特定の人に損害を与えることについて予見可能性を有することは必要ありません。
※予見可能性:危険な事態や被害が発生する可能性があることを事前に認識できること。
※結果回避義務:予見した危険な事象に対し、その事象の発生を回避するために適切な措置をとること。

(イ)基準、程度
過失は、被害者自身の注意能力を基準とするのではなく、その職業、地位等に属する一般人・通常人の注意能力を基準とします。そのため、生まれながらにして極めて不注意な人は、その人としては最善の注意を払ったとしても、過失があると認定されることがあります。

(2)損害(要件④)

侵害行為がなかったとしたらあるべき財産状態と、侵害行為がなされた現在の財産状態との差を金銭で表示したものと解されています(差額説)。
例えば、自動車が損傷して全損のときは、当該自動車と同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するのに要する価格が損害になります。

(3)因果関係(要件⑤)

因果関係は、以下の二つの関係から構成されます。

なお、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合的に検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りると解されています ⁵。

加害者(損害賠償を請求される者)の反論

加害者の反論としては、大きく分けて、「否認」と「抗弁」があります。

(1)否認

否認とは、相手方の主張と両立しない事実を主張することをいいます。
例えば、被害者(損害賠償を請求する者)が、過失の内容として、「適切な養生をしていなかった。」と主張した際に、加害者(損害賠償を請求される者)が、「適切な養生をしていた。」と反論することです。この場合、「適切な養生をしていなかったこと」と「適切な養生をしていたこと」は両立しませんので、加害者の反論は、「否認」となります。

(2)抗弁

抗弁とは、相手方の主張する事実と両立する一方で、その請求を成り立たなくさせる事実をいいます。
主な抗弁としては、以下のものがあります。抗弁は、加害者(損害賠償を請求される者)が証明する必要があります。

例えば、①過失相殺は、不法行為責任が発生する場合に損害額を減額するものであり、被害者(損害賠償を請求する者)の主張と両立する事実であるため、抗弁となります。

裁判例

自然災害の際に不法行為責任の成否が問題となった近時の裁判例をご紹介します ⁶。

(1)事案の概要

Yは、ビルの解体工事用の防音パネルを複数枚設置しましたが、台風の強風により、当該パネルが、Xが所有する隣接するビルに飛来し、当該ビルの窓ガラス、カーテンウォールおよび柱タイルが破損しました。このため、Xは、防音パネルを設置したYに対し、不法行為に基づく損害賠償として、ビルの復旧工事代金の一部(約230万円)を請求しました。

(2)被害者(X)の主張についての裁判所の判断

被害者(X)の主張(不法行為責任の要件)について、裁判所は、以下のとおり判断しました。

(3)加害者(Y)の反論についての裁判所の判断

加害者(Y)は、以下のとおり反論しましたが、裁判所は、上記(2)のとおり判断し、いずれも認めませんでした。

企業の備え

以上のとおり、裁判例においては、たとえ観測史上1位の暴風を伴うような強い台風であったとしても、適切な養生がなされていなかったこと等を理由として、パネル設置業者に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を認めています。自社が所有または賃借するビル等の看板、パネル等については、強風等によって落下するおそれがないかを定期的に点検し、ぐらつき等があるのであれば、適切に補修等をする必要があるでしょう。
また、法律上の損害賠償責任が生じない場合は、損害保険会社が取り扱う保険商品(賠償責任保険)においても補償されないケースが一般的です。しかし、保険会社によっては不可抗力が認められた事例であっても、被害者に対して見舞金の一部を補償する商品も販売されていますので、さまざまなケースを想定してこの機会にご検討されることも備えの一つかと思います。

次回予告

次回は、店舗・商業施設における訴訟事例についてお伝えします。

¹民法709条
²民法717条1項
³大審院昭和5年9月19日判決
⁴東京地裁昭和53年8月3日判決
⁵最高裁昭和50年10月24日判決
⁶東京地裁令和4年9月12日判決

TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 森安 博行

2008年東京弁護士会登録、TMI総合法律事務所勤務。その後、厚生労働省大臣官房総務課勤務(国の代理人として、多数の行政訴訟や民事訴訟に関与)を経て、同事務所復帰。紛争案件全般のほか、労働法、ヘルスケア分野を中心とした法律業務に従事している。

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