ヒヤリハットとは?意味から原因、事例まで徹底解説
公開日:2024年10月7日
事故防止
「一歩間違えば大事故につながるミスがあった」「危険な出来事にヒヤッとしたが難を逃れた」といったように、ちょっとしたミスや危険な状況は誰にでも起こり得るものです。ヒヤリハットとは、このように事故にこそつながっていないものの、「ヒヤッとしたりハッとしたりした出来事」を指します。
ヒヤリハットは大きな事故の予兆にもなり得ることから、この段階でしっかりと対策を練ることが重大事故を防ぐポイントとされます。今回は、ヒヤリハットの具体的な事例を原因とともに見ていきましょう。
ヒヤリハットとは
労働災害を防ぐには、安全性に気を配るとともに、その予兆となる出来事が発生した段階で速やかに対処する必要があります。危険な状態を見逃さず、的確に察知する上で重要となるのが「ヒヤリハット」の考え方です。
ここではまず、ヒヤリハットの概要について解説します。
ヒヤリハットの概要
ヒヤリハットとは、仕事や日常生活において「ヒヤッとしたこと」や「ハッとしたこと」、「危ないと感じたこと」等を指す言葉です。実際に危ないことが起こったものの、災害には至らなかった事象をまとめてヒヤリハットと表現します。
ヒヤリハットは何気ない日常業務のなかで発生し、それほど大きな影響をおよぼさないことから、無意識のうちに忘れられてしまいやすいのが特徴です。しかし、そのまま放置すれば、さらなる重大な事故に発展するおそれもあります。
そこで、職場におけるヒヤリハットをきちんとピックアップし、データとして活用していく「ヒヤリハット活動」の重要性が注目されています。
ハインリッヒの法則とは
ヒヤリハット活動の重要性を示すものとして、アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発見した「ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)」があります。これは、1件の重大事故の裏側に、29件の軽傷事故、300件の無傷事故(ヒヤリハット)が潜んでいるというものです。
具体的な比率は業務内容や状況によって異なるとされていますが、重大事故の背景にこれだけ多数の危険要因が存在しているという事実は重要な意味を持っています。つまり、重大事故を防ぐためには、300件にものぼる多数のヒヤリハットを見逃さず、適切な対策を行う必要があるということです。
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職場におけるヒヤリハットの事例を紹介
厚生労働省が運営するポータルサイト『職場のあんぜんサイト』では、さまざまなシチュエーションにおけるヒヤリハットの事例が紹介されています。ここでは、代表的なものをピックアップして見ていきましょう。
墜落・転落
墜落・転落は建築物や足場、樹木、はしご等から落ちる事故のことです。具体的なヒヤリハットの例としては、次のようなものが紹介されています。
・木の剪定作業中、脚立から足を踏み外して落下しそうになった
・給食調理場で、厨房のコンロ上のダクトを清掃中、バランスを崩して転落しそうになった
・波形スレート屋根を踏み抜き、コンクリート床に転落しそうになった
・フォークリフトのパレットに荷物を積み下ろし作業中、作業場から転落しそうになった
転倒
転倒とは「ほぼ同一平面上で転ぶこと、あるいはつまずきや滑りによって倒れること」です。車両系機械等とともに転倒した場合なども含まれますが、交通事故は除いて考えます。
転倒に関するヒヤリハットの具体例としては、次のようなものが紹介されています。
・介護施設の浴室内で、清掃中に滑って転倒しそうになった
・訪問介護の利用者の電動車椅子を階段で運んでいる時、バランスを崩して転倒しそうになった
・重機から降りる時に転び、廃棄用鋼材に激突しそうになった
・側溝に脱輪した手押し台車に乗り上げて転倒した
激突
激突とは、人が主体となって静止物あるいは動いている物に当たる事故を指し、車両系機械等とともにぶつかった場合も含まれます。具体的なヒヤリハット事例としては、次のようなものが挙げられます。
・屑鉄入れバッカン(着脱式コンテナ)が振れて身体に当たりそうになった
・後退走行をしている2台のフォークリフトが激突した
・ドラグ・ショベルの旋回時にバケットが作業員に接触しそうになった
バッカンの激突については、「ワイヤー掛けフックの個数が不十分」「操作ボタンの取付コードの長さが短く、バッカンから離れることができなかった」といった原因が挙げられています。また、フォークリフトの激突については、「自車の発生音が大きく、相手の後退警戒音が聞こえない」「運転者の一時不停止」等が原因とされています。
そして、ドラグ・シャベルの事例においては、残土をトラックに積み込む際に「誰もいないはず」と思い込んで旋回させたところ、作業員にぶつかりそうになったことが紹介されています。
飛来・落下
飛来・落下とは、飛んでくる物や落ちてくる物が人に当たる事故を指します。また、自分が持っていた物を足の上に落とした場合も落下事故に該当すると言えるでしょう。
飛来・落下のヒヤリハット事例としては、次のようなものが挙げられます。
・クレーンのワイヤーロープが巻き過ぎによって切断され、土砂が入ったバッカンが立坑内に落下した
・工事現場の足場解体中、足場材が落下し、歩行者にぶつかりそうになった
前者のヒヤリハットは、「移動式クレーンの運転に必要な資格を有していない者に運転を行わせたこと」や「巻過防止装置の点検を怠ったこと」が原因とされています。また、後者は「落下防止ネットが適切に設置されていなかったこと」が原因です。
崩壊・倒壊
崩壊・倒壊とは、堆積物や足場、建築物などが崩壊・倒壊して人に当たる事故のことです。また、立てかけてあった物が倒れて人に当たった場合も含まれます。
崩壊・倒壊のヒヤリハットには次のようなものが挙げられます。
・トイレのマット洗浄機が倒れて足を挟まれそうになった
・パレットで荷を積み込み作業中、荷崩れを起こした
・倉庫に積んだフレコンバッグのはい替えを実施しようとしたところ、フレコンバックが崩れだし、下敷きになりかけた
いずれにおいても「不安定な状態にした」「適切な手順が徹底されていなかった」等が原因とされています。
激突され
「激突され」とは、飛来・落下、崩壊・倒壊、交通事故以外で、物が人に当たることを指します。具体的なヒヤリハットとしては、以下のようなものがあります。
・橋形クレーンが風で逸走しそうになった
・移動式クレーンの荷下ろしの際に、ジブ(ブーム)を伏せた時にクレーンが転倒し、ジブが作業者に当たりそうになった
前者については「アンカーを使用せずに休憩に入ったこと」、後者については「必要な能力よりも小さなクレーンを使用した上で、過負荷防止装置を無効化したこと」が原因として挙げられています。
はさまれ・巻き込まれ
物にはさまれる状態および巻き込まれる状態でつぶされ、ねじられるなどの事故を指します。はさまれ・巻き込まれのヒヤリハットとしては、次のようなものが挙げられます。
・歩行型除雪機を用いて店先の除雪中に、しりもちをつきレバーを離し除雪機が後進し続けて轢かれそうになった
・横中ぐり盤に腕が巻き込まれそうになった
前者のヒヤリハットは、「後方を見ずに後進したこと」「自動停止の安全装置(イネーブルスイッチ)を無効化していたこと」が原因です。また、後者は「清掃時の停止を怠ったこと」が主な原因とされています。
切れ・こすれ
「切れ・こすれ」とは、刃物による切れや工具取扱い中の物体による切れ・こすられ、こすられる状態で切られた場合を指します。具体的なヒヤリハットには、次のようなものがあります。
・突然動きだした手持ち丸のこ盤を落として足に当たりそうになった
・竹林で間伐作業中、チェンソーがキックバック(跳ね上げ)を起こし、右足を負傷しそうになった
前者はスライドスイッチ式の丸のこ盤の使用中にコンセントから抜け、別の作業者がその事実を知らないままコンセントに入れ直したことで起こったヒヤリハットです。また、後者はキックバックが起こりやすいチェンソーの上半分で切断作業をしたことが原因とされています。
高温・低温の物との接触
高温・低温の物との接触とは、文字どおり高温・低温の物体と接触する場合と、高温・低温の環境下にばく露された場合を指しています。ヒヤリハットの事例としては、次のようなものが挙げられます。
・炎天下で草刈りを行い、終業後に具合が悪くなった
・高温の鉄板を素手で触って火傷をしそうになった
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感電・火災
感電・火災はさまざまな要因によって発生するため、事故と起因物との関係性が重要となります。具体的なヒヤリハットの事例としては、次のようなものがあります。
・アーク溶接の火花で作業服に火がつき、火傷しそうになった
・下水処理施設の油分分離装置で火炎
前者は難燃性の作業服を着用していなかったことが原因であり、後者は不十分な自然換気によるガスの充満に起因したヒヤリハットです。
有害物との接触
有害物との接触とは、放射線や有害光線との接触、CO中毒、高気圧・低気圧等の有害環境下にばく露された場合を指します。ヒヤリハット事例としては、以下のようなものが挙げられます。
・漁港防砂堤工事で、潜水士へ空気を送るコンプレッサーの吸気ホースが排気筒と接触して熱で穴が開き、エンジンの排気ガスが流入しそうになった
・塩素タンクに塩素を補給中、飛散した塩素が目に入りそうになった
動作の反動・無理な動作
「動作の反動・無理な動作」には、無理な動作や不自然な姿勢に起因した、転倒・墜落等を除くケガが該当します。具体的には、次のようなケースがヒヤリハットとして挙げられます。
・水(72kg)を積んだ台車の動きが悪く、無理に動かそうとして腰や背中を痛めそうになった
・入浴介助中、利用者を抱えて浴槽の中で立ち上がろうとした時、腰を痛めそうになった
ケガを防ぐためには、「正しい姿勢を身につける」「荷物量を調整する」「複数名で対応する」といった対策が必要となります。
破裂
破裂とは、容器や装置が物理的な圧力によって破裂する状態を指します。具体的には、次のようなヒヤリハットの事例が挙げられます。
・空気を充填したタイヤをトラックに装着していたところ、サイドリングが吹き飛んで作業員に当たりそうになった
・タイヤに空気を充填中に、突然タイヤが破裂した
これらのヒヤリハットは、「部品のかみ合わせの確認が不十分だった」「部品が経年劣化していた」等が原因とされています。
自動車事故
自動車が関連する事故のうち、道路交通法が適用されるものは「道路における交通事故」として分類されます。具体的には、次のようなヒヤリハット事例が挙げられます。
・工事車両の誘導待機中に、既に動きだしていた工事車両と接触しそうになった
・狭い道でトラックの後退を誘導中、電柱との間に挟まれそうになった
前者の原因は「後方の誘導者を目視確認しなかった」「誘導者の合図を待たずに後進したこと」にあるとされています。また、後者は誘導者の目視確認を怠ったことに加え、「無理のある状況で後進させたこと」も原因とされています。
ヒヤリハットを防ぐための対策
社内におけるヒヤリハットを防ぐには、安全活動や安全教育の適切な機会を設ける必要があります。そのためには、実際にどのようなヒヤリハットが起こっているのかを調査し、原因や対策と合わせて正確に把握しておかなければなりません。
現場で起こった事例を把握するには、誰もが正直に報告できるような仕組みを整え、定期的に意見をヒアリングすることが重要です。そして、データをもとにリスクレベルや災害の可能性を分析し、積極的にリスクアセスメントへ活用しましょう。
優先的に対策すべきリスクを見つけ出し、作業のあり方や道具・設備の安全性を見直しながら、労働災害の可能性を丁寧に排除していくことが大切です。
まとめ
仕事における大きな労働災害を予防するためには、その前兆にあたるヒヤリハットを見逃さず、適切に対処していく必要があります。ヒヤリハットにはさまざまな種類があり、原因や経緯も多種多様です。
まずはこれまでに起こった事例を調べながら、自社と共通する要因がないかをチェックすることが大切です。その上で、社内でもヒヤリハットの事例を把握できる仕組みを整え、労働環境の改善に活かしていきましょう。