帝国データバンク公表 「AIは「生成」から「実行」の段階へ ~生成AIの普及から、AIエージェント・フィジカルAIによる「実行するAI」に~」

公開日:2026年7月10日

人材育成

情報統括部 主席研究員 窪田 剛士

近年、生成AIは文章作成や要約、情報収集、企画立案、プログラミング支援等、企業の日常業務に入り込み始めています。人手不足や賃上げ対応、業務量の増加、DX人材不足に直面する企業にとって、生成AIは限られた人員で生産性を高める手段として注目されています。

帝国データバンクが2026年3月に実施した調査[1]によると、生成AIを業務で「活用している」企業は34.5%でした。実際に使い始めた企業の多くが一定の効果を実感しており、生成AIは話題先行の技術から、企業実務で成果を生む段階へ移りつつあります。

本レポートでは、現在のAIブームを「第4次AIブーム」と位置づけ、第1次から第4次までの流れを整理します。その上で、企業における生成AI活用の現状を踏まえ、次に来るAIブームとして、AIエージェントやフィジカルAIを中心とする「実行するAI」の展開を考察します。

AIブームの歴史的整理

AI(Artificial Intelligence:人工知能)の歴史は、技術進歩の歴史であると同時に、企業や社会が「何を機械に担わせようとしたか」の歴史でもあります。

1.1 第1次AIブーム:推論・探索への期待

第1次AIブームは、1950年代後半から1960年代にかけての推論・探索を中心とした時期です。迷路、ゲーム、定理証明等、明確なルールがある問題をコンピュータに解かせる研究が進みました。

この時期のAIは、企業実務に広く普及する段階には至っていませんでした。日本では高度成長期の大型コンピュータ導入や事務処理の機械化と並行し、コンピュータを計算だけでなく判断や推論にも使えるのではないかという期待が広がりました。

第1次AIブームは、実用化よりも「コンピュータは考えられるのか」という可能性を提示した時期でした。

1.2 第2次AIブーム:知識処理とエキスパートシステム

第2次AIブームは、1980年代を中心に、1990年代初頭にかけて注目された知識処理の時代です。中心となったのは、エキスパートシステムでした。これは、専門家の判断やノウハウをルールとして記述し、コンピュータに再現させようとするものです。

日本企業との関係では、製造、設計、品質管理、金融審査、故障(トラブル)診断等の分野で、熟練者の知識をシステム化する試みが進みました。1980年代の日本は、製造業、電機、半導体、金融等で国際競争力を高めていた時期であり、企業内に蓄積された専門知識や熟練技能を形式知化することへの関心が高かったです。

しかし、人間の知識や判断をすべてルールとして書き出すことは容易ではありませんでした。現実の業務では、例外、曖昧さ、経験的な判断が多く、ルールの追加や保守にも大きな負担が生じました。そのため、第2次AIブームは、期待の大きさに比べて実用化の範囲が限られ、やがて停滞しました。

1.3 第3次AIブーム:機械学習・ディープラーニング

第3次AIブームは、2010年頃からの機械学習・ディープラーニングを中心とした時期です。この段階で転機となったのは、AIが人間の書いたルールに従うだけでなく、大量のデータから特徴やパターンを学習する技術として広がったことです。

企業活動では、画像認識、需要予測、異常検知、レコメンド、リスク管理等で活用が進みました。製造業では外観検査や予知保全、小売・サービスでは需要予測や顧客分析、金融では与信や不正検知、物流では配送最適化や在庫管理等、現場データを活用した効率化が進みました。

この時期のAIは、DX、IoT、ビッグデータ活用とも結びつきました。センサーや業務システムから得られるデータを用いて、現場の効率化や自動化を進める技術として企業に浸透していきました。第3次AIブームは、AIが研究室の技術から、工場、店舗、物流、金融、行政等の現場へ入り込んだ段階といえます。

1.4 第4次AIブーム:生成 AI・大規模言語モデル

現在のAIブームは、2022年後半以降に広がった、大規模言語モデルを中核技術とする生成AIを中心とした「第4次AIブーム」と位置づけられます。第3次AIブームまでのAIは、画像認識、需要予測、異常検知等、比較的特定の用途で使われることが多かったです。これに対して、第4次AIブームでは、自然言語で指示を出すだけで、文章、画像、コード、資料、要約、アイデア等を生成できる点が大きな特徴です。

この変化により、AIは専門人材だけが扱う技術ではなく、一般社員が日常業務で使う道具になりつつあります。文章作成や情報整理を中心に、活用対象はホワイトカラー業務全般へ広がり始めています。

第4次AIブームの本質は、AIが「認識する技術」「予測する技術」にとどまらず、知的作業のたたき台を作る技術へ広がった点にあります。企業にとっては、生成AIを使うことで、業務の速度を高めるだけでなく、見落としを減らし、アイデアを広げ、限られた人員でより多くの業務に対応できる余地が生まれています。

企業における生成 AI 活用の現状

帝国データバンクが2026年3月に実施した調査[1]によると、生成AIを業務で「活用している」企業は 34.5%でした。内訳は、「非常に活用している」が4.4%、「やや活用している」が30.2%である(四捨五入の関係で合計と一致していない)。一方で、「あまり活用していない」は13.6%、「ほとんど活用していない」は23.3%となり、低活用層もなお約4割にのぼります。「いまは活用していないが、今後の活用を検討している」は14.2%で、活用余地を残す企業も一定数存在します。

この結果から、生成AIは既に企業活動に一定程度入り込んでいるものの、企業全体としてはなお移行期にあるとみられます。

2.1 活用企業は3割台、大企業ほど高い

規模別にみると、企業規模が大きいほど生成AIの活用率は高いです。大企業では「活用している」が46.5%であるのに対し、中小企業は32.4%、小規模企業は28.0%でした(図1)。従業員数別でも、「1,000人超」では63.6%、「301~1,000人」でも51.9%と高い一方、「5人以下」は29.6%にとどまっています。

業界別では、「サービス」が47.8%で最も高く、「金融」が38.6%、「不動産」が34.9%で続きました。他方、「建設」は26.4%、「運輸・倉庫」は27.5%と相対的に低くなっています。業務のデジタル化度合いや、情報処理業務の比重、社内体制の違いが、生成AI活用の進み方に影響しているとみられます。

2.2 活用業務は「文章・情報整理」が中心

生成AIを業務で活用している企業に対して、主にどのような業務で活用しているかを尋ねたところ、最も多かったのは「文章の作成・要約・校正」の45.1%でした(表1)。次いで、「情報収集」が21.8%、「企画立案時のアイデア出し」が11.0%となりました。一方、「データの集計・分析」は7.4%、「コード生成などのプログラミング支援」は5.9%にとどまっています。

この結果は、生成AIが現時点では最終判断を代替するというより、判断の前段階にある情報整理、文章化、たたき台作成を支援する形で使われていることを示しています。いわば、生成AIは「判断するAI」ではなく、「人間が判断するための材料を整えるAI」として活用されています。

専任の調査・企画担当者を置きにくい中小企業では、生成AIによって情報収集や資料作成の初動を早められる効果が大きいです。

2.3 効果実感は高いが、課題も明確

活用企業を対象にした生成AIの業務への効果の質問では、「大いに効果が出ている」が25.2%、「やや効果が出ている」が61.5%となり、合計で86.7%が「効果あり」でした(表2)。実際に活用している企業の多くが、何らかの業務上の効果を実感しています。

規模別では、小規模企業で「大いに効果が出ている」とする割合が29.7%となり、大企業の20.8%を上回りました。これは、人員の限られた企業ほど、文章作成や情報整理の効率化を直接的に感じやすいことを示唆しています。

一方で、懸念・課題も明確です。生成AI活用に関する懸念・課題として最も多かったのは「情報の正確性」の50.4%でした(表3)。次いで、「専門人材・ノウハウ不足」が41.3%、「生成AIを活用すべき業務の範囲」が40.0%、「情報漏洩のリスク」が33.5%、「トラブル時の責任所在などのルール整備」が25.5%となりました。

また、悪影響・トラブルについては、「悪影響やトラブルはない」が67.7%で最も多かったです。直接的な事故は現時点では広範に表面化していないとみられます。一方で、「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」は18.8%にのぼりました。生成AIの影響は、単なる情報漏洩や誤回答といった事故だけでなく、社員間の使いこなし格差、確認負担、人材育成の難しさとして表れています。

以上の結果から、生成AIは既に企業実務に入り込み始めているものの、その活用は文章作成、情報収集、要約といった「判断の手前」の業務に集中していることが分かります。次章では、こうした活用が日本企業にとってどのような意味を持つのかを整理します。

AIブームと日本経済・企業活動のつながり

AIブームは、その時代の企業や社会が何を自動化し、どのような能力を機械に担わせようとしたのかを映しています。第1次ブームでは、コンピュータが「考える」ことへの期待がありました。第2次ブームでは、専門家の知識や熟練者のノウハウをシステムに置き換えようとしました。第3次ブームでは、データから見分ける、予測する、異常を検知することが重視されました。

これに対し、第4次AIブームでは、文章を作る、情報を整理する、企画のたたき台を出すといった知的作業の補助が中心となっています。AIは一部の技術者や専門部署だけが扱うものではなく、一般社員が日常業務のなかで使う道具へと広がり始めています。この点に、第4次AIブームが日本企業に与える大きな意味があります。

3.1 日本企業が AI 活用を急ぐ背景

日本企業が生成AIに注目する背景には、人手不足、賃上げ圧力、業務量の増加という構造課題があります。少子高齢化が進むなか、多くの企業では採用が難しくなっています。一方で、人材を確保するためには賃金を引き上げる必要があり、その前提として生産性の向上が求められます。人員が増えにくいが故に、報告、管理、確認、顧客対応、社内調整といった業務はより増えやすいです。

生成AIは、こうした課題に対する一つの解決策となり得ます。文章作成、要約、情報収集、問い合わせ対応、資料作成等は、多くの企業に共通する業務です。これらの作業時間を短縮できれば、社員は本来注力すべき判断、顧客対応、企画、改善活動により多くの時間を使えるようになります。

ただし、生成AIは万能ではありません。出力内容をどのように確認し、どこまで業務に組み込み、どの工程で人間が判断するのかによって、効果は大きく変わります。生成AIの活用は、単なるツール導入ではなく、業務設計そのものに関わる問題です。

3.2 中小企業にとっての可能性

中小企業にとって、生成AI活用の意味は特に大きいです。大企業と比べて専任部署や専門人材を置きにくく、経営者や管理職に営業、採用、資金繰り、社内管理等の業務が集中しやすいからです。生成AIは、こうした業務の論点整理や資料作成を支援することで、少人数体制の弱点を補う可能性があります。

ただし、情報管理や社内ルールが整わないまま使えば、顧客情報や取引先情報、個人情報等の漏洩リスクが生じます。中小企業では、導入支援だけでなく、利用ルールや教育支援まで含めた支援が求められます。

3.3 「実行するAI」へ向かう理由

現在の生成AI活用は、文章作成や情報整理等、人間の判断を支える業務に集中しています。しかし、企業活動は情報を整理するだけでは完結しません。顧客に提案し、見積りを作成し、承認を取り、発注し、提供し、請求し、次の対応につなげるといった一連の業務プロセスがあります。

企業が次に求めるのは、単に情報を生成・整理するAIではなく、整理した情報をもとに業務を前に進めるAIです。この点に、AIエージェントやフィジカルAIへと関心が移っていく理由があります。第4次AIブームで生成AIが知的作業の入口に入り込んだとすれば、次の段階では、AIが業務プロセスや現場作業の実行支援へと広がっていきます。

次に来るAIブーム:生成するAIから実行するAIへ

現在の生成AI活用は、文章や情報の生成・整理を中心に広がっています。しかし、企業活動は文章を作るだけでは完結しません。次のAI活用の焦点は、顧客対応、承認、発注、提供、請求、現場作業といった業務の流れそのものにAIを組み込むことに移っていきます。そのとき、AIは単に答えを出すだけでなく、業務の手順を計画し、システムや機器を操作し、一定の作業を実行する方向へ進むとみられます。

本レポートでは、これを便宜上「次のAIブーム」と呼び、内容面ではAIエージェントやフィジカルAI等、業務や現場の実行支援に関わるAIを中心に整理します。

もっとも、AIエージェントやフィジカルAIは、第4次AIブームと断絶した別の技術ではありません。生成AIや大規模言語モデルを土台にしながら、その役割が「生成」から「実行支援」へ広がるものと捉えるべきです。

4.1 AIエージェント:業務プロセスを進めるAI

AIエージェントとは、人間の指示を受けて、複数の作業を分解し、必要な情報を集め、ツールやシステムを使いながら、目的達成に向けて動くAIです。現在の生成AIが「文章を作るAI」だとすれば、AIエージェントは「業務を進めるAI」に近いです。

例えば、営業では顧客情報や過去取引を踏まえた提案準備、経理では請求書処理や承認フロー、人事では応募書類の整理や日程調整、開発ではコード作成やテスト支援等が想定されます。

AIエージェントが普及すれば、企業活動のなかでも、特に部門間・システム間をまたぐ業務の進め方が変わり得ます。現在は、社員が複数のシステムを開き、情報を探し、文章を作り、確認を依頼し、次の工程へ回しています。AIエージェントは、こうした一連の流れの一部をつなぎ、業務の停滞や手戻りを減らす役割を果たします。

4.2 フィジカルAI:現場作業を支援するAI

もう一つの柱が、フィジカルAIです[3]。本レポートでは、フィジカルAIを、AIがロボット、機械、車両、設備、センサー等と結びつき、現実世界の状況を認識し、判断や動作を通じて作業を支援する技術領域として捉えます。

第3次AIブーム以降、画像認識や異常検知は製造現場で活用されてきました。しかし、次の段階では、AIが現場の状況を理解し、判断し、実際の動作につなげる領域へと広がっていきます。

日本経済との関係では、フィジカルAIの意義は大きいです。人手不足は、事務部門だけでなく、物流、建設、介護、農業、小売、サービス等の現場でも深刻です。生成AIによる事務効率化だけでは、人が足りない現場を十分に支えることはできません。AIがロボットや機器と結びつくことで、現場作業の一部を補完できれば、人手不足への対応力は高まります。

ただし、フィジカルAIは、ソフトウェアだけでなく設備投資、現場設計、安全管理、人材教育を伴います。そのため、普及には一定の時間を要します。中小企業では、まずは既存設備やクラウドサービスと組み合わせた小さな導入が先行しやすいです。

4.3 「生成するAI」と「実行するAI」の違い

第4次AIブームと次のAIブームの違いは、AIの役割にあります。第4次ブームでは、AIは主に文章、画像、コード、資料等を生成し、人間がその出力を確認・修正して利用します。一方、次のブームでは、AIが業務の流れに入り込み、複数の工程をまたいで作業を進めます。

AIが実行に関わるほど、効率化の効果は大きくなる一方、失敗した場合の影響も大きくなります。そのため、メール送信、発注、承認フロー等をAIが担う場合には、権限管理、確認手順、責任所在の明確化が不可欠となります。

企業への影響:省力化から付加価値創出へ

次のAIブームが企業に与える影響は、3つの段階で整理できます。第一段階は省力化、第二段階は業務プロセスの再設計、第三段階は新たな付加価値の創出です。

5.1 第一段階:省力化

第一段階は、既存業務を速く、少ない負担で処理する省力化です。文章作成、議事録、問い合わせ対応、確認作業等、企業に共通する定型的な知的業務で効果が出やすいです。

中小企業では、総務、経理、人事、営業支援等を少人数で兼務するケースが多く、AIによる省力化の効果を実感しやすいです。

5.2 第二段階:業務プロセスの再設計

第二段階は、AIを前提に業務フローを組み替えることです。生成AIを単なる便利ツールとして使うだけでは、個人の作業効率は上がっても、組織全体の生産性向上には限界があります。

重要なのは、どの業務でAIを使い、どの工程で人間が確認し、どのデータを参照させるのかをあらかじめ設計することです。営業資料作成や請求書処理等でこうした流れを明確にすれば、AI活用は個人任せではなく、組織としての標準業務になります。

5.3 第三段階:新たな付加価値の創出

AI 活用の最終的な意義は、省力化だけではありません。AI によって生まれた時間や情報処理能力を、新たな商品・サービスの開発、顧客対応の高度化、研究開発、地域課題の解決等に振り向けることで、付加価値を高めることができます。

例えば、購買履歴や問い合わせ内容をもとにした個別提案、製造業における設計・検査・保全データを組み合わせた品質改善、サービス業における口コミ分析を通じたサービス改善等が考えられます。AIは、人間がより創造的で判断を要する仕事に集中するための技術として位置づけることが望ましいです。

リスクとガバナンス

AIが業務の実行に近づくほど、効率化の効果は大きくなる一方で、誤った判断や不適切な処理がもたらす影響も大きくなります。とりわけ、次のAIブームでは、AIが単に文章を作成するだけでなく、実行に関わる段階へ進みます。そのため、企業は「便利だから使う」段階から、「安全に使い続ける仕組みを整える」段階へ移ることが求められます。

6.1 情報の正確性

企業が最も懸念しているのは、情報の正確性です(表3参照)。生成AIは、もっともらしい文章を作る一方で、誤った情報を含むことがあります。調査、法務、契約、財務、人事、採用等、正確性が特に問われる業務では、AIを最終判断者ではなく、論点整理や確認リスト作成の補助として使うことが基本となります。

6.2 情報漏洩・知的財産・プライバシー

情報漏洩も大きなリスクである(表3参照)。顧客情報、個人情報、取引先情報、未公開の経営資料、技術情報等を外部サービスに入力することにより、情報管理上のリスクが生じかねません。

企業は、AIに入力してよい情報と入力してはいけない情報を明確にする必要があります。生成物を社外に出す場合には、著作権、商標、個人情報、誤認表示等にも留意し、利用規程を具体的な業務手順として整えることが望ましいです。

6.3 使いこなし格差と人材育成

生成AIの活用が進むと、AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の差が、業務成果の差として表れやすくなります。帝国データバンクの調査でも、使いこなし格差の拡大が一定程度認識されています。

これは単なるITスキルの差ではありません。AIをうまく使うには、問いの立て方や前提条件の整理、出力の検証、編集力、業務知識が必要です。つまり、研修では操作方法だけでなく、どのような場面で使うのか、どのように確認するのか、どこまで任せてよいのかまで扱うことが大切となります。

若手社員については、AIに依存しすぎることで、自ら考える力や基礎的な業務理解が育ちにくくなるリスクもあります。AIを使わせないのではなく、AIを使いながら考える力を伸ばす教育設計が求められます。

6.4 責任所在と運用ルール

AIの活用が進むほど、責任所在の明確化が前提となります(表3参照)。AIが作成した文章を誰が確認し、AIが提案した判断を誰が承認し、AIエージェントにどこまで自動実行を認めるのかを明確にしておく必要があります。

特に、メール送信、発注、契約、採用、評価、与信、支払い、顧客対応等、外部への影響が大きい業務では、AIの実行権限を段階的に管理し、人間による確認を組み込むことが求められます。

政策・企業への示唆

生成AIの活用は、導入そのものよりも、使いこなすための仕組みづくりが成果を左右する段階に入っています。今後、AIエージェントやフィジカルAIが広がれば、この傾向はさらに強まります。

7.1 企業への示唆

企業はまず、効果が出やすくリスクが比較的低い業務からAI活用を始めることが望ましいです。文章作成、要約、情報整理、議事録、社内FAQ、営業資料等が候補となります。

その上で、出力の確認手順、利用範囲、責任者を明確にする必要があります。AI活用を個人任せにせず、社内で組織として活用事例を共有し、部門ごとの標準的な使い方や研修、マニュアルを整えることが重要です。

7.2 中小企業への示唆

中小企業では、生成AIを社長や管理職、少人数の事務担当者の「右腕」として使う発想が有効です。大企業のように専任部署や専門人材を置きにくい一方で、営業、採用、資金繰り、価格改定、補助金、社内管理等の課題が経営者や管理職に集中しやすいからです。生成AIは、こうした課題について、論点整理、資料作成、文章化、比較検討を支援できます。

まずは、顧客向けメール、提案書のたたき台、求人票、社内通知、議事録、マニュアル、問い合わせ対応のFAQ等、日常的に発生する文書作成や情報整理から始めるのが現実的です。効果があった使い方を社内で共有し、繰り返し発生する業務に組み込めば、生成AIは少人数経営を支える業務基盤となり得ます。

ただし、情報管理や社内ルールが後回しになりやすい点には注意が必要です。顧客情報、個人情報、未公開の取引情報、技術情報等を安易に入力すれば、情報漏洩につながりかねません。最低限、入力してはいけない情報、社外に出す前の確認、利用するツール、責任者または相談先を明確にしておきたいです[2]。

7.3 政策面での示唆

政策面では、単なる導入促進だけでなく、運用を支える支援が求められます。中小企業に対しては、業種別・業務別の活用事例、情報管理のひな型、社内ルールのモデル、研修機会、相談窓口等が有効です。

また、AIを人手不足対策にとどめず、地域企業の営業力、商品開発力、顧客対応力を高める基盤として支援する視点も必要になります。地域企業がAIを使って営業力を高め、商品開発を進め、顧客対応を改善できれば、AIは単なる省力化ツールにとどまらず、地域経済の競争力を支える技術になり得ます。情報漏洩、著作権、個人情報、責任所在等については、法務やITの専門人材が限られる中小企業にも分かりやすい実務的なガイドラインが求められます。

おわりに

本レポートでは、現在のAIブームを第4次AIブームと位置づけ、第1次から第4次までの流れと企業活動への影響を整理しました。現在の生成AIブームの特徴は、AIが専門家や技術者だけのものではなく、一般社員の日常業務に入り込んだ点にあります。

2026年3月の調査結果からは、生成AIを業務で活用している企業が3割台に達し、活用企業の多くが効果を実感していることが分かりました。一方で、情報の正確性や情報管理、人材・ノウハウ、責任所在をめぐる課題も明確であり、生成AI活用は導入の有無ではなく、業務への組み込み方と確認体制の設計が問われる段階に移っています。

次に来るAIブームでは、AIエージェントやフィジカルAIが、業務プロセスや現場作業の実行支援へと広がっていくであるでしょう。AI活用の焦点は、省力化から業務再設計、さらには付加価値創出へと広がっていきます。

ただし、AIが実行に関わるほど、リスク管理の重みは増します。情報の正確性、情報管理、責任所在、社員教育、実行権限の管理を整えながら、AIをどのように業務に組み込み、人間の判断力や創造性をどう高めるかが、企業の競争力を左右することになるでしょう。

【参考文献・資料】

1. 本文で直接参照した調査・官公庁資料

[1] 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」2026年5月14日発表
[2] 帝国データバンク「景気のミカタ 生成 AI は『導入するか』から『どう回すか』へ」、『帝国ニュース日刊版』2026年6月1日号、pp.4-5
[3] 帝国データバンク「【注目業界】フィジカルAI業界の動向と展望(主要企業一覧掲載)」、TDB
REPORT ONLINE、2026年2月26日掲載

[4] 文部科学省『令和6年版 科学技術・イノベーション白書』第1章「新時代を迎えたAI」
[5] 内閣府『人工知能基本計画』2025年12月23日閣議決定
[6] 内閣府「Society 5.0」
[7] 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」
[8] 経済産業省「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」2024年6月
[9] デジタル庁「ガバメントAI『源内』」
[10] 情報処理学会 コンピュータ博物館「知識情報処理指向の第五世代コンピュータプロジェクト開始」

2. AI史・技術史を補強する基礎文献

[11] Turing, A. M. “Computing Machinery and Intelligence.” Mind, Vol. 59, No. 236, 1950, pp. 433–460.
[12] McCarthy, J., Minsky, M. L., Rochester, N., and Shannon, C. E. “A Proposal for the Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence.” 1955.
[13] LeCun, Y., Bengio, Y., and Hinton, G. “Deep Learning.” Nature, Vol. 521, 2015, pp. 436–444.
[14] Vaswani, A., Shazeer, N., Parmar, N., et al. “Attention Is All You Need.” 2017.
[15] OpenAI. “GPT-4 Technical Report.” 2023.
[16] Bubeck, S., Chandrasekaran, V., Eldan, R., et al. “Sparks of Artificial General Intelligence: Early experiments with GPT-4.” 2023.

3. AIエージェント・次世代AI活用に関する補足参考資料

[17] Capgemini Research Institute. “Rise of agentic AI: How trust is the key to human-AI collaboration.” 2025.
[18] Capgemini Research Institute. “Generative AI in organizations 2025.” 2025.
[19] NVIDIA Developer Blog. “AI Factories, Physical AI, and Advances in Models, Agents and Infrastructure That Shaped 2025.” 2025.

 

株式会社帝国データバンク発行の「第4次AIブームの現在地と次に来るAIの企業活用」(2025年6月9日)を基に作成したものです。

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