リスキリングとは?必要とされる背景や導入時のポイントとともに事例を紹介

公開日:2024年2月26日

人材育成

消費者のニーズや市場の変化に対応して、人材育成や組織の見直しを行っていくことは、企業において必要な視点だと言えます。競争優位性を保ち、持続的な成長を遂げるためには、さまざまな変化に対応できる組織づくりを進めていく必要があります。

リスキリングは、そうした変化に組織が対応するために、従業員に新たな教育の機会を提供するために行われる取組です。この記事では、リスキリングの概念や必要とされる背景、導入時のポイント等を解説します。

リスキリングとは?意味を解説

リスキリングとは、従業員が新たな仕事に就く際や現在の職場で必要とされるスキルの大幅な変化に対応するために、必要なスキルを獲得することを意味する言葉です。また、従業員が業務をスムーズに進められるように、必要なスキルを獲得させて適応できるようにする取組を指します。

近年では特に、デジタル技術の発展が急速に進み、仕事の進め方が大きく変わる職業に就くために必要なスキルを習得する意味で使われることが多くなっていると言えるでしょう。

リスキリングが必要とされる背景

日本において、リスキリングの重要性が増しているのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の影響があります。どのような背景があるのかを詳しく解説します。

企業や社会のDX推進を加速させるため

DXとは、企業が市場や顧客のニーズ等の劇的な変化に対応するため、組織や企業風土、従業員等の変革について、デジタル技術を用いて取り組むことを指します。新たなビジネスモデルの構築や新製品・新サービス等を通じて、新たな価値を生み出し、競争優位性を確立することを言います。

企業等の組織がDXを推進するにはDX人材の確保が欠かせませんが、さまざまな業界で人材が不足しているのが課題です。2021年から開始されている「デジタル田園都市構想」においては、2026年度までにデジタル推進人材を230万人育成することが掲げられています。

デジタル人材の育成や教育を活発にし、DXを推進するためにリスキリングが重要視されていると言えるでしょう。

DXが進む海外

海外では、急速にDX化が進められています。Amazonやウォルマートといった海外の大手企業では、DX推進のためにリスキリングを積極的に導入する動きがみられます。

また、世界経済会議(ダボス会議)においては、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言しており、世界中で注目されている取組だと言えるでしょう。「第4次産業革命により、数年で8,000万件の仕事が消失する一方で9,700万件の新たな仕事が生まれる」とも指摘されています。

さらに、アメリカでは政府主導の取組として、1,600万人分にリスキリングの機会を提供することが誓約されています。

後れを取っている日本

日本においても、DX推進の取組は企業を中心に少しずつ増えてきてはいますが、デジタル人材が不足している企業はまだまだ多いのが現状です。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」によれば、人材の「量」についてアメリカ企業で人材が大幅に不足していると回答したのが3.3%であるのに対して、日本では49.6%となっています。

また、人材の「質」についてアメリカ企業では「過不足はない」と回答した割合が50.8%であるのに対して、日本企業では6.1%という結果になりました。人材の量や質においても、日本企業のほうが不足している傾向がみられます。

リスキリングと類似する概念の違い

リスキリングに類似する概念として、リカレント教育・生涯学習・アンラーニング等が挙げられます。それぞれの違いについて解説します。

リスキリングとリカレント教育の違い

リカレント教育とは、社会人が自らに必要な知識やスキルを「学び直す」ことを指します。一度学習をして終わりといったものではなく、生涯にわたって教育と労働・余暇を交互に行う点に特徴があります。

リカレント教育においては、学習を行っている期間は仕事を休職したり、業務から離れたりすることが前提です。リスキリングは転職で求められるスキルや今の職場で活用できるスキル・知識の習得をめざしますが、リカレント教育では必ずしも仕事に関する学びだけとは限らないと言えます。

リスキリングと生涯学習の違い

生涯学習とは、文部科学省によれば「人々が生涯に行うあらゆる学習、すなわち、学校教育、家庭教育、社会教育、文化活動、スポーツ活動、レクリエーション活動、ボランティア活動、企業内教育、趣味等さまざまな場や機会において行う学習」の意味だとされています。

また、人々が生涯にわたってあらゆる機会で自由に学習が行え、その成果を適切に評価できる社会を「生涯学習社会」と呼んでいます。リスキリングも広い意味では生涯学習に含まれると言えるでしょう。

リスキリングとアンラーニングの違い

アンラーニングとは、既に身につけた知識やスキル、価値観等のうち、時代の変化に対応するために有効的でないものを捨て、新しいものを習得することを指します。時代によって役に立つ知識やスキルは変化していくため、アンラーニングの概念が必要とされていると言えるでしょう。

リスキリングは時代の変化に対応できるよう、新たな知識・スキルを身につけるためのものであるため、アンラーニングとの関連性は強い部分があります。

人材版伊藤レポート2.0からみるリスキリングへの取組

企業がリスキリングを効率的に進めるには、いくつか押さえておくべきポイントがあります。ここでは、経済産業省が公表している「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」の内容を基に、リスキリングに必要とされるポイントを解説します。

組織に不足しているスキルや専門性を明確にする

企業の経営層においては、経営戦略の実現や事業推進にあたって不足しているスキルや専門性を特定し、従業員に対して必要な知識やスキルのリスキリングの機会を提供していく必要性があります。その際は、スキルや専門性を向上させることが、従業員にとってどのように役立つものであるかを丁寧に説明していくことが大切です。

社内外から教育側の人材を確保する

企業にとって不足しているスキルや専門性を向上させるには、それらのノウハウを備えた外部のプロフェッショナルな人材を確保する必要があります。ポイントとしては、社内で人材を求めるだけでなく、社外の人材も候補に入れておくことです。

また、単にスキルや専門性を備えているだけでなく、適切な教育や指導が行える人材であるかの見極めも必要となります。

リスキリング後の成果報酬を導入する

リスキリングの取組を推進するには、スキルや専門性の習得に挑戦した従業員に対して、何らかのインセンティブを用意しておく必要があります。具体的には、成果に応じてキャリアプランや報酬等を処遇に反映させることが挙げられるでしょう。

必要に応じて、人事評価制度の見直しも含めて検討することが大切です。従業員の自主的な学びを活発化させる仕組みづくりが必要だと言えます。

社外での学習機会を設ける

リスキリングは社内だけで完結するものではないため、社外で学習できる機会を提供していくことが大事です。一定期間、職場を離れて学習できるよう、休職できる体制を整えてみましょう。

例えば、長期休暇制度を導入し、国内外の大学や大学院で学ぶことができる機会を設けることが挙げられます。既存の学習支援制度と照らし合わせて、効果の高い支援方法を検討することが大切です。

社内起業や出向起業の機会を与える

従業員にさまざまな知識や経験を身につけてもらうために、社内起業や出向による起業支援を行っていくことも有効な方法です。従業員に選択肢の一つとして提示することで、人材育成をさらに効果的に推進できるはずです。

自治体のリスキリング取組事例

DX推進やデジタル人材確保・育成について検討する際は、実際の事例から学んでみるのも一つの方法だと言えます。自治体のリスキリング事例を3つ紹介します。

徳島県小松島市

徳島県小松島市では、企業と連携してテレワーカー人材のリスキリングを実施しています。以前から、テレワークセンターの機能を持つ施設を開設していましたが、地方におけるテレワークの仕事には限りがあるため、企業と「テレワーク人材の育成に関する連携協定」を締結しました。

地方での人材育成を促進し、都市部の仕事を誘致することを目的とした取組であり、「子育てしながら働ける環境づくり」を推進しています。地元企業と育成したテレワーク人材のマッチングを実現させる取組も進められています。

鳥取県

鳥取県では企業と連携し、オンライン動画で学習できるプラットフォームサービスを自治体で用意する取組を行っています。おもな目的として、県内の中小企業や個人のリスキリングを推進する狙いがあります。

リスキリングの推進には、学習機会の充実だけでは不十分であるとし、今後は学ぶことへの動機づけや企業風土の構築等も段階的に進めていく予定です。

東京都江戸川区

東京都江戸川区では、地域住民の要求サービスレベルが高まったことで、DX人材育成の必要性が高まっています。DX人材育成に向けた職員のリスキリングが急務となっており、2022年からオンライン動画研修のサービスを導入しました。

江戸川区だけでなく、周辺の自治体とも協力をすることで導入コストを削減したり、ノウハウを共有したりすることで、DX人材の育成に関する課題への対応を強化しています。

まとめ

リスキリングとは、従業員が新たな仕事に就く際や現在の職場で必要とされるスキルの大幅な変化に対応するために、必要なスキルを獲得することを意味します。海外ではDXの取組が急速に進んでおり、日本においてもDX人材の育成や確保は課題となっています。

企業が持続的な成長を遂げるには、時代の変化に合わせた人材を得ることが欠かせません。リスキリングの基本的なポイントを押さえた上で、自社での取組をどのように進めていくべきかを検討してみましょう。

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