【2024年】法改正一覧 おもな改正ポイントと対応策を解説
公開日:2023年12月15日
法改正
2024年には労働基準法をはじめ、年金制度改正法や不正競争防止法、商標法・意匠法、景品表示法、民事訴訟法等、多くの法改正が行われる予定となっています。経営者や人事担当者等にとって、今後の法改正のスケジュールや改正点を押さえ、事前に準備を整えておくことは重要です。
この記事では、2024年に改正が予定されている法律の内容と、対応策について解説します。
2024年に改正・制定されるおもな法律一覧
2024年に改正される法律として、労働基準法・労働基準法施行規則・年金制度改正法・不正競争防止法・商標法・意匠法・景品表示法・民事訴訟法等が挙げられます。また、新たにフリーランス保護新法が施行される予定です。
各法律の改正ポイントや内容について、詳しく見ていきましょう。
労働基準法の改正ポイント|時間外労働の上限規制の適用開始
働き方改革の一環として労働基準法が改正され、時間外労働の上限規制が設けられました。時間外労働の上限規制とは、時間外労働時間を原則として月45時間、年360時間以内、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間(休日労働含む)、月平均80時間以内(休日労働含む)、限度時間を超えて時間外労働を延長できるのは年6ヶ月が限度とする法的な規制を指します。
既に、2019年4月(中小企業は2020年4月)から適用されていますが、一部の事業・業種においては業務の特性や取引慣行の課題等から、時間外労働の上限規制が5年間猶予されていました。
しかし、2024年4月1日以降は、建設業や自動車運転業、医師等における上限規制の猶予が廃止されることになりました。時間外労働の上限が規制されることによって生じる問題の総称を「2024年問題」と呼んでおり、労働環境の整備や労務管理の見直し、不足する人材確保等多くの問題に企業は対応することを求められています。
労働基準法施行規則の改正ポイント|労働条件明示事項の追加
労働基準法施行規則の改正によって、労働条件明示事項の追加が義務付けられます。企業は労働者を雇い入れる際に労働条件を明示する義務を負っており、その際に労働者に対して交付する書面を労働条件通知書と言います。
労働契約の期間や期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準、就業場所、業務内容、始業および終業の時刻・休憩時間・休日・休暇、賃金・昇給、退職に関する事項等については必ず記載しなければなりません。さらに、2024年4月1日以降は、労働条件通知書において以下の点も記載が必要になるので注意しましょう。
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年金制度改正法のポイント|社会保険適用事業所の拡大
年金制度改正法が施行されたことによって、2024年10月から従業員51~100名の企業で働くパートタイムとアルバイトのうち、以下の4つの条件を満たす従業員は社会保険の適用対象となります。
社会保険の適用範囲が拡大されたことによって、新たに社会保険適用事務所になる企業が出てくるでしょう。また、既に雇用している従業員が新規加入をする際は、企業にとって保険料を負担するコストが増えてしまいます。
雇用の維持や人材確保の面から、影響が出てくる懸念があります。
不正競争防止法等の改正ポイント|ブランド・デザインの保護強化
2023年6月に不正競争防止法等が改正され、同年7月3日に施行されました。デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化、国際的な事業展開に関する制度整備といった点から、以下のポイントで改正が行われました。
今回の改正では、メタバース等のデジタル空間においても、模倣商品の提供が不正競争と捉えられるようになりました。また、商標におけるコンセント制度が新たに導入されたことによって、ビジネスチャンスの拡大につながる可能性があります。
商標法・意匠法の改正ポイント|登録できる商標の拡充
商標法の改正においては、「コンセント制度」が新たに設けられました。商標権は同一・類似の指定商品・役務に対して、同一・類似の商標を使用することを禁じています。
しかし、コンセント制度の導入によって先行登録商標の権利者の同意や消費者が混同する恐れがないと判断されれば、両方の商標の併存登録が認められるようになっています。
意匠法については、「新規性喪失の例外規定の要件」が緩和されました。一定の要件を満たすことによって、これまでも新規性喪失の例外規定は認められていましたが、今回の改正によって類似する意匠の公開行為に関する証明書の提出が一度で済ませられるなど、手続の簡素化が図られています。
景品表示法の改正ポイント|確約手続・直罰の導入
2023年5月に景品表示法が改正され、1年半を超えない範囲で施行される予定です。事業者の自主的な取組の推進や違反行為に関する抑止力の強化等の内容が盛り込まれており、おもなポイントとして以下の点が挙げられます。
今回の改正によって、優良誤認表示等の疑いがある表示を行った事業者が是正措置計画を申請して認定されることで、当該行為について措置命令・課徴金の納付命令の適用を受けずに迅速に問題を改善解決できる「確約手続」が導入されています。また、違反行為に対する罰則規定が拡充し、優良誤認表示・有利誤認表示を行った事業者に対して、直罰(100万円以下の罰金)が新設されました。
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民事訴訟法の改正ポイント|民事訴訟のIT化
2026年5月までに民事訴訟のIT化が盛り込まれた改正法が段階的に施行される予定です。民事訴訟のIT化が実現することで、民事訴訟の手続がオンラインで可能となり、当事者における利便性の向上が見込まれています。
具体的には、訴状の提出や訴訟記録の閲覧や複写、口頭弁論を含む各種手続等が挙げられます。訴訟手続の効率向上により、当事者の負担軽減につながることが期待されています。
今回の改正では、いわゆる遠隔地要件が廃止され、当事者が遠隔地に居住していないケースであっても、オンラインで弁論準備手続に参加できることが明確になっているのがポイントです。和解期日の参加についても、同様の改正が行われています。
フリーランス保護新法の施行|下請法との違い
フリーランスとは、特定の企業や組織等に所属せず、業務委託によって働く事業者のことを言います。フリーランスには労働基準法が適用されないため、取引を行う上で不利な立場に置かれるなどの問題が発生しています。
フリーランスが不当な不利益を受けることがないように、2023年4月にフリーランス保護新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が成立し、2024年秋頃までに施行される予定です。下請法においては取引を発注する事業者の資本金が一定金額以上である場合に適用されますが、フリーランス保護新法においては資本金要件の制限が設けられていません。
取引を発注する事業者に対し、業務委託をした際の取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられるようになりました。個人が事業者として受託した業務について、安定的に従事できる環境を整備することが狙いとしてあります。
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2024年の法改正への対応策
2024年に改正法の施行が予定されているものは、業務フローの見直しや社内ルールの整備といった対応を早急に行う必要があります。どのような取組を行えば良いかを解説します。
時間外労働の上限規制への対応
労働基準法の改正によって、すべての業種で時間外労働の上限規制に対応する必要があります。従業員の時間外労働に関する社内ルールの策定や、労働時間を適切に把握するために勤怠・労務管理ツールの導入を検討する必要があるでしょう。
特に、これまで適用が猶予されてきた建設業や運送業等の業種においては、迅速な見直しが必要になります。建設業であれば、工事を発注・受注する際に、4週8閉所や週休2日制を取り入れるなど、従業員の休日数も考慮して工期を設定する必要があります。
また、トラック運送業においては、荷主と協力することで荷待ち時間の削減に取り組むといった対応が必要です。労働時間を把握できる勤怠管理ツールに上限規制のルールを追加し、全従業員に対して変更点を周知してルールに沿った適切な労務管理を行いましょう。
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労働条件明示事項の追加への対応
新たに追加された労働条件明示事項をしっかりと把握しておく必要があります。まず、有期契約労働者を含んだすべての人を対象として、雇入れ直後の就業場所・業務の内容に加え、就業場所・業務の「変更の範囲」を明示することが求められます。また、有期契約労働者に対して、契約更新の上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無とその内容を明示する必要があります。契約更新の上限を新設・短縮する際は、その理由をあらかじめ説明しなければなりません。
そして、無期転換申込権が発生する有期労働契約の契約更新が行われるタイミングごとに、無期転換を申し込める旨を明示することや無期転換後の労働条件の明示等の対応が事業者には求められます。
社会保険適用事業所の拡大への対応
年金制度改正法によって、新たに加入対象となる従業員がいないかを把握する必要があります。そして、新たに対象となる従業員がいる場合は、社会保険制度の仕組みや従業員の負担分について丁寧に説明しなければなりません。
一方で、労働時間を減らすことを希望する従業員がいる場合は、新たな人材の確保も必要でしょう。加えて、会社が負担する社会保険料の試算も行うことが大切です。
ブランド・デザインの保護強化への対応
不正競争防止法等の改正点を把握するとともに、自社のブランドやデザインをどのように保護していくかを改めて見直す必要があります。デジタル空間上の商品の模倣行為も規制対象となったため、自社が提供しているデジタルコンテンツの模倣を第三者が行っていないかをチェックしてみましょう。また、既にビッグデータ保護制度が設けられていますが、今回の改正によって対象が「秘密管理されたビッグデータ」にも拡充されたため、より強固な情報管理ができるようになっています。営業上、取り扱う秘密情報の管理について情報セキュリティの担当者や外部の専門家等とも連携しながら、管理体制を強化していきましょう。
登録できる商標の拡充への対応
コンセント制度が設けられたことによって、これまで登録できなかった商標について、登録できる可能性が生じています。自社が抱えている知的財産を見直し、必要な申請を行うことが大切です。
また、新規性喪失の例外規定の要件緩和によって手続が簡素化されたので、上手に活用していきましょう。
確約手続・直罰の導入への対応
景品表示法違反と疑われる行為があると判断された場合、事業者はその旨の通知を受けることになります。そして、必要な措置を取りまとめた是正措置計画を作成し、認定を得る必要があります。
なお、計画に沿った是正措置が行われない場合は、認定が取り消された上で措置命令や課徴金納付命令が出される恐れがあるので注意が必要です。また、景品表示法の改正によって直罰が新設されている点を踏まえ、優良誤認表示や有利誤認表示が起こらないように、広告運用等に関して社内でのチェックを強化していくことも大事だと言えます。
民事訴訟のIT化への対応
民事訴訟がIT化されることで、遠方からでも訴訟に参加しやすくなります。また、訴訟記録の閲覧・複写が容易になり、訴訟準備に割ける時間が増えるのでメリットが大きいと言えるでしょう。一方で、スムーズに弁論準備を整えたり、審理に参加したりするには社内のIT環境を整備しておく必要があります。これまで紙の書類を中心に対応していた場合、書類をデジタル化するだけでも相当な時間と労力が必要になるでしょう。
いつまでに準備を整えるのかのスケジュールを組んだり、実際にオンラインで審理に参加するときに不具合が生じないかをテストしたりする対応が求められます。
まとめ
2024年から施行予定の法律は数多くあるため、自社の状況に応じて適切に対応していくことが重要です。改正点を把握するだけでなく、それに伴う社内ルールの変更やマニュアルの整備、労務管理の見直し等が必要になります。
また、従業員にも周知徹底し、現場レベルでもきちんと対応できるように、研修や説明会の場を設けることも大事です。法改正が行われたポイントを正しく理解して、対応していきましょう。