台風対策とは?企業が備えておきたいリスクと対応

公開日:2024年6月24日

自然災害・事業継続

企業が継続的な事業活動を続けていくには、自然災害に対する備えをきちんと整えておくことが大切です。特に台風等の風水害は、毎年のように被害が発生する場合があるため、しっかりとリスクを把握しておくことが重要だといえます。

この記事では、企業として取り組んでおきたい台風対策やリスクについて解説します。

日本の台風被害の概要

台風に対する備えを十分に行うには、過去に発生した被害について把握しておくことが必要です。日本における台風被害の状況を解説します。

台風の上陸数

気象庁のデータによれば、過去10年間(2014~2023)における台風の上陸数は次のように示されています。

2014~2023年における台風の年間上陸数
2014 4件
2015 4件
2016 6件
2017 4件
2018 5件
2019 5件
2020 0件
2021 3件
2022 3件
2023 1件

上記のデータは、「台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合」をカウントしたものであり、平均して毎年3~5件程度の台風が上陸していることがわかります。また、統計が開始された1951年以来、もっとも上陸数が多い2004年では10件の上陸数が記録されています。

 

主な台風被害

台風の具体的な被害には、風害や水害、波浪害、高潮害等があり、複合して発生することもあります。国内における過去の災害事例のなかで、記憶に新しい「令和元年東日本台風(第19号)」は死者107人、行方不明者3人と大きな被害を与えました。

また、2004年には2つの大きな台風が発生しており、風害・高潮害・波浪害をもたらした「台風第18号(死者41名、行方不明者4名、住宅被害約7万棟)」と大規模な水害を生み出した「台風第23号(死者95名、行方不明者3名、住宅被害約2万棟)」によって、人命や家屋に多大な被害が生じています。

特に、過去の事例において甚大な被害を生み出す傾向が強いのは、9月に上陸した台風です。これには、台風によって湿った空気が秋雨前線を活発化させ、豪雨につながってしまうことが大きく関係しているとされます。台風被害について、さらに詳しく調べたい方は以下のページも参考にしてみてください。

2023年に発生した台風の概要や教訓を踏まえた企業に必要な対応等について解説しています。

台風によって生じる企業のリスク

台風による災害は、企業活動にも大きな影響を与えます。ここでは、台風がもたらす主なリスクを3つのテーマに分けて見ていきましょう。

出退勤のリスク

中小企業庁の「2019年版中小企業白書」のなかで公表されているアンケート結果によれば、自然災害がもたらした中小企業への被害の種類について、もっとも多くの回答があったのは「役員・従業員の出勤不可」です。強風や浸水害等によって交通機関がストップすれば、役員や従業員の出退勤が不可能になり、通常どおりの業務が行えなくなってしまいます。

また、台風が通過する時間帯によっては、無理に出勤をさせることで帰宅困難者が出る可能性もあります。

 

物的損害のリスク

台風が企業にもたらす直接的な被害として、物的損害のリスクが挙げられます。風水害によって事務所・工場等の機器や書類に大規模な損害が生じれば、事業の継続にも大きな支障をきたしてしまう可能性があるでしょう。

中小企業庁の「2019年版中小企業白書」における従業員規模別に見た物的損失額のデータによれば、従業員100人以下の企業では「100万円~500万円未満」がボリュームゾーンとなっています。また、従業員101~300人の規模では「1億円超」の損害が出たと回答した企業が21.3%あり、規模に応じて被害額も大きくなる傾向が見られます。

 

自然災害等の不可抗力に起因する訴訟事例について、土地工作物責任の要件とともに具体的な事例を用いて解説しています。

 

サプライチェーンが被害を受けるリスク

中小企業庁の「2019年版中小企業白書」における被害内容のアンケート結果において、「役員・従業員の出勤不可」に次いで回答数が多かったのが「販売先・顧客の被災による売上の減少」です。自社が直接的な被害を免れたとしても、販売先や顧客の被害によって、事業に影響が出てしまうケースは少なくありません。

また、仕入先の被災による原材料等の供給停止、輸送車両の破損や浸水といったサプライチェーンへの被害によって、事業の継続・再開が困難になる場合もあります。

 

サプライチェーンが抱えるリスクや課題解決につなげるためのポイントを解説しています。

 

台風に備えるための対策

台風による影響を最小限に抑え、事業の継続や速やかな再開を実現するには、日ごろの備えを充実させることが重要です。ここでは、個々の企業においてどのような対策が求められるのかについて見ていきましょう。

災害に対するリスクの把握

台風による被害を抑えるためには、想定されるリスクを事前に把握しておくことが重要となります。例えば、従業員の通勤ルートや利用交通機関を適切に把握したり、万が一の際の役員の出勤対応について決めておいたりすることは、台風による事業停止のリスクを軽減することにつながります。

また、自社の事務所や倉庫の被災リスクを把握し、必要に応じて対策を講じることも重要です。しかし、中小企業庁の「2019年版中小企業白書」によれば、アンケートの調査対象となった中小企業の多くで、自社が抱える災害リスクが把握されていない実態が明らかにされています。

さらに、リスクの把握に努めている企業のほうが、相対的に自然災害への備えも進んでいるという結果も出ています。両者の因果関係は明らかではないものの、リスクを把握するという取組が、具体的な備えを始めるきっかけとなる可能性は十分に考えられるでしょう。

 

過去に発生した台風被害の教訓を踏まえた企業に必要な対応・備えるべきポイントを解説しています。

 

支援者との協力

先にも述べたように、台風による被害は自社のみならず、取引先等のさまざまな関係者から波及していくケースも多いです。そのため、独力で対策を立てようとするのではなく、外部との連携を図ることも重要な課題となります。

仕入先や販売先といったサプライチェーン上の取引先と連携し、万が一の際に想定されるリスクを共有しておくことで、各社が適切な災害対策を行えるようになります。また、災害リスクの把握という点では、取引のある保険会社や保険代理店等が協力者となるケースも多いです。

過去のデータや専門的な知見から、中小企業特有の災害リスク等も踏まえてアドバイスをしてもらうこともできるでしょう。さらに、行政機関や地域の支援機関との関係性を強化しておくことも、災害による経営リスクを軽減させる備えとなります。

台風による水害に備えるためには、ハザードマップを活用することが大切です。国土交通省のハザードマップポータルサイトや、各自治体が発信している情報を活用すれば、自社の事務所や倉庫等に関するリスクの把握が行えます。

国土交通省のポータルサイトで公開されている「重ねるハザードマップ」や「わがまちハザードマップ」を活用すれば、1枚の地図上で「浸水リスク」「土砂災害リスク」「通行止めになるおそれがある道路」をまとめて把握することも可能です。災害リスクについて的確な情報把握が行えれば、水災に関連する損害保険への加入を判断したり、従業員の避難計画を作成したりする際にも役立ちます。

さらに、事務所を移転したり新たに倉庫を開設したりする際には、立地選びの重要な判断基準となるでしょう。

ソフト面での対策

災害リスクを把握したら、それに基づいて実際に対策を講じる必要があります。企業における災害対策は、内容や性質に応じて「ソフト面での対策」と「ハード面での対策」の2つに分けて考えることができます。

ソフト面の対策は、大きな設備投資を行わずに実施できるのが大きな特徴です。具体的な取組としては、まず「安否確認に関するルールの策定」や「避難経路・避難場所の周知」といった意識改革に関するものが挙げられます。

また、「災害用品の備蓄」「定期的な防災訓練の実施」等を企業側が率先して行うことで、組織全体としての防災意識の向上を促せます。

ハード面での対策

ハード面での対策としては、主に「建屋や機械設備の点検」「事業継続のために必要なバックアップ体制の構築」等の取組が挙げられます。ただし、業種や業態によっても、必要とされる対策は異なります。

例えば、多数の在庫や機械設備を抱える企業であれば、設備・什器等の保管場所を高位置へ移動させたり、そもそも倉庫や事業所を高台へ移転したりすることも代表的なハード対策です。また、電力がストップしてしまった場合に備えて「非常用発電機の導入」を行ったり、物流に影響が出た時に備えて「平時の在庫積み増し」を行ったりするのも一つの方法です。

事業継続力強化(BCP)の必要性

企業の災害対策として、近年特に重要視されているのが「事業継続力強化(BCP)です。ここでは、BCPの基本的な内容と策定方法について解説します。

BCPとは

BCPとは、自然災害等の不測の事態が発生しても、事業を中断させない、あるいは速やかに復旧させるための方針や体制、システム等をまとめた計画のことです。BCPが策定されている企業では、緊急時に会社や従業員を守るための行動を迅速に実行でき、それによってサプライチェーンやステークホルダーの損失を最小限にとどめることも可能です。

さらには、主要業務の中断による機会損失や、マーケットシェアの低下といった重大なリスクも避けることができます。

BCPの策定・運用手順

BCPを策定するためには、基本方針と運用体制を十分に検討した上で、どの業務を優先的に継続させるべきかを選定する必要があります。その上で、目標復旧時間を決め、それに合わせて必要な戦略や手順を具体化していくというのが基本の手順です。

その後、運用にあたっては訓練・教育によって従業員への周知徹底を図るとともに、訓練を通じて得られた課題等を踏まえて見直し・改善を行うことが重要です。

 

事業継続力強化計画の基本的な仕組みや策定するメリット、具体的な策定手順などのポイントを解説しています。

 

危機管理対策としてテレワークを活用する

自然災害発生時における従業員の安全性や事業の継続性を検討する際、危機管理対策としてテレワークを活用するのも一つの方法です。テレワークを導入するメリットや必要なもの、注意点等を解説します。

テレワークを導入するメリット

テレワークが行える環境を整えることで、台風による被害が懸念される状況においても業務を継続することができます。ネットワーク環境に支障がなければ、従業員との情報のやりとりをスムーズに行えるので、被害状況の把握等にも役立つでしょう。

また、災害発生時だけでなく普段からテレワークを行える環境を整備しておけば、多様な働き方を推進することにもつながります。従業員の意見も取り入れながら、柔軟な勤務形態で働ける環境を整えてみましょう。

テレワークの導入に必要なもの

テレワークを導入するために必要なものは、パソコンやスマートフォン、コミュニケーションツール等が挙げられます。自宅等から業務に必要な情報にアクセスするために、クラウドサービスの活用も検討してみましょう。

ただし、テレワークを行う際に個人情報の流出等に気をつける必要があります。ネットワーク権限の管理やウイルス対策ソフトの導入等、セキュリティ対策を施すことが大切です。

テレワークを導入する際の注意点

テレワークを行える環境を整えていても、災害時には停電等の影響によってテレワークそのものが行えないケースがあることも想定しておく必要があります。テレワークが行えない時の対応も含めて、マニュアルを整備するなどの準備を整えておきましょう。

また、テレワークによって外部に機密情報が漏れないようにするために、情報管理を徹底させる必要もあります。セキュリティ対策を強化するだけでなく、定期的に社内研修を行うなど、継続して取り組むことが大切です。

まとめ

台風等の風水害に対する備えを行うことで、企業としての危機管理対策の強化につながります。また、災害時の対応を事前に知らされていることで、従業員としても安心して業務に取り組んでいけるでしょう。

台風が発生した際の被害を想定した上で、自社だけでなく取引先等も含めて対策を講じていくことが重要だといえます。

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