福利厚生とは?充実させるメリットと注意点を解説
公開日:2024年8月5日
人事労務・働き方改革
福利厚生の充実は従業員のモチベーションを高め、活力ある職場を生み出すことにつながります。一方、制度を維持するために費用が膨らんでしまったり、そもそも従業員のニーズに合わず無駄になってしまったりすることもあるでしょう。
従業員にとってプラスとなる福利厚生の仕組みを整えるには、いくつか押さえるべきポイントが存在しています。この記事では、福利厚生を充実させるメリットと注意点を解説します。
福利厚生の概要
福利厚生制度の充実を図るためには、まず基本的な仕組みを理解しておく必要があります。福利厚生の意味、法定福利と法定外福利の違いについて解説します。
福利厚生の意味
福利厚生とは、労務管理の一環として行われるものです。賃金や労働時間等の基本的な労働条件を補完する役割を持つものであり、従業員の働く意欲や企業に対する帰属意識を高めるために設けられる仕組みだと言えます。
また、自社に合った福利厚生制度を導入すれば、目に見える形のインセンティブだけを従業員は手にするわけではありません。自社の福利厚生制度を通じて、社内コミュニケーションが活発化し、良好な人間関係を構築する機会にもつながるはずです。
法定福利
法定福利は、法律によって定められたものであり、具体的には社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)や労働保険(労災保険、雇用保険)を指します。労働者を雇用する事業者等に保険料と拠出金の負担が義務付けられており、本人負担分を含めて所要の給付が行われる仕組みを言います。
社会保険は常時5人以上の労働者を雇用する事業所、法人の場合は5人未満であっても強制的に加入するルールです。労働保険に関しては、原則として業種や事業規模にかかわらず、労働者を1人以上雇用していれば加入しなければなりません。
法定外福利
法定外福利は、事業者が自らの意志によって自らの費用負担で実施する福利厚生を指します。具体的には、慰安旅行や慶弔見舞金制度、会社商品の割引制度等が挙げられます。
どのような内容の制度とするかは企業ごとにそれぞれ異なり、独自の制度を設けている企業も多いと言えるでしょう。
従業員のモチベーションが低下することの影響や具体的に改善していくための方法等について解説しています。
福利厚生を導入する企業のメリット・デメリット
福利厚生を導入することで企業には多くのメリットがある一方で、注意しておきたいデメリットも存在します。それぞれどのようなポイントがあるのかを見ていきましょう。
企業が得られるメリット
福利厚生制度を導入することで、企業は次のようなメリットを得られるでしょう。
企業が得られるメリット
・採用力の向上
・従業員満足度、エンゲージメントの向上
・労働生産性の向上
・従業員の定着率の向上
・企業イメージ、信頼度の向上
・節税効果 等
給与や賞与だけでなく、福利厚生制度を充実させることで、求職者に対してより良い職場環境であることをアピールできるでしょう。また、社外の人だけでなく、社内においても従業員満足度やエンゲージメントの向上につながっていきます。
従業員がモチベーションを高くして業務に取組んでくれることで、労働生産性の向上や従業員の定着率のアップにもプラスとなっていくでしょう。働きやすい職場環境を構築することは、人材への投資に前向きな姿勢を示すため、ステークホルダーに良いイメージを与えることになり、自社への信頼度も高まります。
さらに、福利厚生制度は自社でどのような支出を行うかを決められる部分もあるため、企業利益を有効活用することにつながり、結果として節税効果にもつながっていくはずです。
エンゲージメントの概要や測定方法、改善策等について解説しています。
気を付けておきたいデメリット
福利厚生制度の導入は企業にとって多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットも存在します。
気を付けておきたいデメリット
・コストがかかる
・運用管理の手間
・全ての従業員を満足させられるとは限らない
・一度導入すると簡単にやめられなくなる 等
どのような制度とするかの制度設計をきちんと行わなければ、費用対効果が悪くなり、コスト面の負担ばかりが気になる恐れがあります。また、さまざまな施策を実行すれば運用管理の手間も増えてしまうため、従業員のニーズを踏まえて実施する施策を絞り込む必要があるでしょう。
さらに、一律の制度を導入しても、個々の従業員によってニーズが異なる部分もあるため、全ての従業員を満足させられるわけではありません。いったん福利厚生制度を導入すると、簡単にやめられなくなる面もあるため、慎重な検討が必要だと言えます。
【関連記事】
コスト削減の捉え方や具体的な方法、注意点、事例等について解説しています。
福利厚生制度の運用方法
福利厚生制度は企業規模や内容によって、いくつかの実施方法に分けられます。ここでは、3つのパターンに分けて解説します。
自社での福利厚生制度の運用
自社で福利厚生制度を実施する場合、企業規模によって差が大きい傾向が見られます。具体的な施策としては、健康管理、社宅・寮、自己啓発支援、社員食堂、文化・体育・余暇施設、退職準備支援、持ち家補助等が挙げられるでしょう。
大企業であるほどさまざまな施策を実施しやすいですが、事業規模が小さな企業にとっては多くの施策を実施すれば、その分だけ費用の負担が大きくなってしまいます。自社の財務状況や従業員数等を勘案した上で、導入する施策を検討していく必要があります。
パッケージプラン
パッケージプランとは、あらかじめパッケージ化された福利厚生サービスを利用する方法を言います。サービス提供会社によって、豊富なパッケージが用意されており、比較的少ない予算で始められるのが特徴です。
ただし、サービス内容が一律に決められているため、個々の従業員のニーズには対応しにくい部分があるのがデメリットでもあります。
カフェテリアプラン
カフェテリアプランとは、従業員に対して福利厚生サービスを利用するためのポイントを付与し、自由に選んでもらう方法を指します。決められた期間内に、自分が利用したい福利厚生を選び、ポイントを使用することで通常よりもお得にサービスを受けられるのが特徴です。
企業側が一律に福利厚生のメニューを決めるわけではないため、従業員の細かなニーズに対応しやすい方法だと言えるでしょう。
最近では、デジタルスキルや外国語習得のサポートをするリスキングを福利厚生として取り入れる企業も増えて来ています。
また、助成金を活用することで従業員のスキル向上を効率的に推進することも可能となります。
リスキリングの概念や必要とされる背景、導入時のポイント等について解説しています。
法定外福利費の推移
各企業が従業員に対して、どの程度の割合で福利厚生制度に費用をかけているかを知ることは、自社の施策を検討する上で大事な点でもあります。厚生労働省が公表している「令和2年版 厚生労働白書」によれば、2018(平成30)年の法定外福利費の平均額(従業員1人あたり1カ月の平均額)は「25,369円」となっています。
内訳としては、住宅関連が47.8%、ライフサポートが24.1%、医療・健康が12.5%です。暮らしに直接関わりがある部分でのニーズが高い傾向が見られるので、自社の福利厚生制度を検討する際の参考にしてみましょう。
福利厚生制度を導入する際の注意点
福利厚生制度を円滑に導入するには、あらかじめ注意しておきたい点がいくつかあります。それぞれのポイントについて解説します。
基本的に全従業員を対象にする
福利厚生制度を導入する際は、基本的に全従業員を対象としましょう。一部の従業員しか利用できない仕組みであれば、かえって従業員の不満が溜まる恐れがあります。
雇用形態にかかわらず、全ての従業員が利用できる仕組みを整えることで、組織全体の活性化につながるはずです。派遣社員や在籍型出向の従業員等も利用できる制度設計を行ってみましょう。
従業員のニーズを踏まえた仕組みにする
福利厚生制度はあくまで従業員のためのものなので、ニーズを踏まえた仕組みを整える必要があります。単に制度の導入だけを目的にしてしまっては、あまり利用されずに費用負担ばかりが大きくなる恐れがあるので注意しましょう。
より充実した制度として設計するには、導入前にあらかじめヒアリングやアンケート調査等を実施することが欠かせません。従業員と適切にコミュニケーションを取りながら、本当のニーズを汲み取ってみましょう。
定期的に制度を見直すことが大切
社内のニーズを踏まえた福利厚生制度を導入しても、時間の経過とともにニーズが変化していくことも念頭に置いておく必要があります。以前はよく利用されていたものであっても、従業員の志向が変化することであまり利用されなくなってくる場面も見られます。
従業員数の増減や事業環境の変化に応じて、定期的に制度を見直していくことも重視しておきましょう。
また福利厚生の見直しだけでなく、就業規則の見直し等も定期的に行うことが必要です。社労士に就業規則の見直しについて相談することもできる「MSコンパス×無料de顧問」のご利用も検討ください。
福利厚生のトレンド
従業員から求められる福利厚生制度のあり方は、時代によって変化していると言えるでしょう。従来は社宅や保養施設等の物理的な福利厚生が主流でした。
しかし、近年においては健康促進やスキルアップ等、人を中心とした福利厚生のニーズが高まっています。人的な部分における福利厚生について解説します。
健康促進
元気に働き続けていくためには、何よりも健康維持や健康増進といった点が欠かせないものです。健康促進に関する福利厚生としてニーズが高いものは、健康診断・人間ドック補助、禁煙外来補助、スポーツジム補助、お悩み相談窓口の設置等が挙げられます。
病気等の医療に関するものと、健康の維持や増進に関するものは多くの従業員のニーズと合致しやすい部分があるので、積極的に導入を検討してみましょう。
【関連記事】
健康経営とメンタルヘルスの関係や、メンタルヘルス不調者の低減に向けた取組について解説しています。
多様な働き方
働き方改革や労働に対する価値観の多様化、ライフステージの変化等によってさまざまな働き方を求めるニーズもあるでしょう。具体的には、テレワークやフレックス勤務の導入、産休・育休休暇、介護休暇等が挙げられます。
勤務形態を変更することも、福利厚生につながる点を押さえておきましょう。それほど費用をかけなくても取り組める施策であれば、導入しやすい部分もあると言えます。
【関連記事】
勤務間インターバル勤務をめぐる動きや導入におけるメリット、課題点・対応策について解説しています。
自己啓発・能力開発
従業員に長く働いてもらうには、スキルアップやキャリア開発の支援を企業としても取り組んでいくことが重要です。具体的な施策として、資格取得補助、講習等の受講料補助、キャリア開発支援等が挙げられます。
自己啓発や能力開発に積極的に取り組む従業員を支援していきましょう。
キャリアアップ助成金の基本的な仕組み、申請条件、助成額、申請までの流れについて解説しています。
まとめ
福利厚生制度のあり方は、企業規模や時代の変化によって求められるものが異なります。自社の従業員のニーズをよく踏まえた上で、無理なく運営していける仕組みを整えてみましょう。
従業員にとってプラスとなる仕組みとするには、定期的な見直し等も必要です。実際の利用状況の確認やアンケート調査等を通じて、自社独自の福利厚生制度を整備してみましょう。