ウェルビーイング(Well-being)とは?意味や定義と企業経営における取組

公開日:2024年11月18日

健康経営・メンタルヘルス

「ウェルビーイング」とは、現代の企業経営や組織づくりにおいて重要視されつつあるテーマの一つです。働き方改革の推進や仕事への価値観の多様化によって、ウェルビーイングへの取組が企業イメージを左右していく可能性も十分に考えられます。

今回は、ウェルビーイングの基本的な意味や注目されている理由、企業経営への活かし方について解説します。

ウェルビーイングの概要

「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉そのものは、決して新しい用語ではありません。例えば1946年のWHO憲章では、健康を定義づける際にウェルビーイングについて言及されています。

その上で、近年では仕事に対する価値観の多様化や、企業経営のあり方の変化に伴い、社会全体としてウェルビーイングへの注目度が高まっています。ここではまず、ウェルビーイングの意味や、現代社会で注目されている理由について見ていきましょう。

ウェルビーイングの意味

ウェルビーイングとは、「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」を意味する概念です。「良好な状態」には幅広い概念が含まれており、個人の価値観や性質によっても捉え方が大きく異なります。

しかし、おおまかに「自らが幸せを実感できている主観性」「実感が継続しているという持続性」「一人ひとりにそれぞれ異なる姿があり、さまざまな要素が影響し合っているという多様性・多面性」が共通の特徴として挙げられます。そこから、仕事におけるウェルビーイングは、「労働者一人ひとりが自ら望む生き方に沿って、豊かで健康的な職業人生を送れること」と定義できるでしょう。

ウェルビーイングが注目されている理由

ウェルビーイングが注目される背景の一つには、SDGsをはじめとする国際的な動きが関係していると言えます。SDGsにおける17の目標の一つに「Good Health and Well-being」が掲げられたことで、ウェルビーイングに対する世界的な注目度が高まりました。

そして、国内でも政府が2021年の「成長戦略実行計画」で「国民がWell-beingを実感できる社会の実現」を目標に掲げたことで、ウェルビーイングの向上に向けた取組が加速度的に進められています。また、就業面からのウェルビーイングが重視される背景には、仕事に対する価値観の変化やキャリアパス・働き方の多様化が大きく関係していると言えるでしょう。

例えば、リモートワーク等の多様な働き方が普及することによって、企業は従業員のモチベーションや健康管理についてより一層気を配る必要性が生じています。また、個人の希望・特性に応じてキャリアの可能性が多様化するなかで、ウェルビーイングを意識した柔軟な環境整備のニーズが高まっている面もあります。

SDGs目標達成度における日本の評価について解説しています。

 

ウェルビーイングを経営に活かす狙い

企業がウェルビーイングを追求することで、さまざまなメリットが期待できます。ここでは、主な効果を三つに分けてご紹介します。

多様な働き方への対応

一つ目の効果は、多様な働き方の実現による従業員エンゲージメントの向上です。ウェルビーイングの考えに基づいた取組を行うことで、個々の従業員のライフスタイルに合った働き方や、幅広いキャリアパスを提示できるようになります。

例えば、取組の一環としてリモートワークや時短勤務制度を導入すれば、「育児や介護と両立をしたい」という従業員のニーズにも前向きに応えることが可能です。また、従業員の健康に配慮したオフィス環境の整備を進めれば、職場の快適性が高まり、従業員満足度の向上も図れます。

自社の環境が改善されれば、企業に魅力を感じる従業員が増えるため、離職率の低下やモチベーションの向上にもつながるでしょう。

働き方の多様化が示す意味や企業にもたらすメリット、実現するための具体的な手段について解説しています。

 

企業の生産性の向上

ウェルビーイングの取組は、生産性の向上にもつながります。快適な環境と満足のいくキャリアパスが整えられていることで、従業員は高いモチベーションで仕事に向き合えるようになります。

活き活きとした気持ちで仕事に取り組む従業員が増えれば、結果として企業の生産性も高まり、売上や業績の向上も期待できるのです。また、取組の一環として兼業や副業を解禁すれば、自由に新たなスキルを身につける従業員が増えるため、イノベーションの創出にもつながるでしょう。

そして、ウェルビーイングの追求は、従業員のメンタルヘルスにもプラスの効果をもたらします。従業員同士のコミュニケーションが活性化したり、ストレスの少ない職場環境が整えられたりするなかで、精神的な充実度や安定感も得られやすくなるでしょう。

このように、メンタル不調による集中力の低下や離職等を回避することでも、組織全体の生産性向上を図れます。

健康経営とメンタルヘルスの位置づけ、メンタルヘルス不調者低減に向けた取組等について解説しています。

 

就労機会の拡大

ウェルビーイングの向上と生産性の向上という好循環が生まれることで、これまでさまざまな事情で就労の機会を得られなかった人を雇用する機会も広げやすくなります。例えば、ウェルビーイング向上の一環で柔軟な勤務体制を構築すれば、時短で働きたい人や遠方の人、リモートワークを希望する人を受け入れることが可能です。

労働環境改善に向け「勤務間インターバル制度」導入によるメリット、課題点や対応策等について解説しています。

 

ウェルビーイングを高めるための取組

企業が従業員のウェルビーイングを高める上では、具体的にどのような取組を実施できるのでしょうか。ここでは、代表的な施策と取組事例をご紹介します。

労働環境の改善

快適かつ健康的な職業人生を送ってもらうためには、労働環境の改善が重要です。そのためにはまず、長時間労働を是正し、従業員の健康確保やワークライフバランスの実現を図ることが重要なアプローチとなります。

そして、多様な人材や雇用形態を活かすために、同一労働同一賃金や最低賃金の引上げを実現することも大切です。あるいは、非正規雇用で働く従業員に対して、希望に応じた正社員への転換支援を行うという方法も考えられます。

労働環境が着実に改善されていけば、従業員の健康維持・増進につながり、前向きな精神状態で業務に臨んでもらえるようになります。

キャリア支援の実施

従業員一人ひとりに自ら望む職業人生を送ってもらうためには、企業による積極的なキャリア支援も欠かせない要素となります。年令やライフステージに応じたリカレント教育を整備すれば、いくつになってもライフスタイルに応じた新たなチャンレジが可能となり、キャリアの幅を自由に広げることが可能です。

また、従業員の前向きな意欲を引き出すには、キャリアコンサルティングやセルフ・キャリアドックによる客観的な視点でもサポートも重要となります。企業内で自由にキャリアコンサルティングを受けられる体制を整えれば、従業員自身が気づかないようなキャリアの方向性が見つかったり、新たなスキルや知識への関心が高まったりするきっかけになります。

キャリアアップ助成金の基本的な仕組み、申請条件、助成額、申請までの流れについて解説しています。

 

人事労務管理の見直し

多様な人材に活躍してもらうためには、人事労務管理の見直しを図ることも大切です。例えば、中高年齢者の中途採用を積極的に行えば、企業の「年令にとらわれないキャリア形成」を前向きに支援するという姿勢を明示できます。

また、中途採用者とのマッチ度を高めるために、企業には自社の労働条件や職務内容だけでなく、期待する役割や企業文化等も含めて積極的な情報発信が求められます。

副業や兼業の許可

副業や兼業を許可することも、従業員のウェルビーイング向上を助ける施策になり得ます。副業・兼業は自社では経験できないスキルを身につけるきっかけとなるだけでなく、従業員の対外的なコミュニケーション能力を高めたり、新たな人脈を構築したりする機会にもなります。

そのため、中長期的に見れば、企業そのものの生産性を高めてイノベーションの機会をもたらす施策にもなるでしょう。

副業・兼業に対する変換のほか、基本的な考え方や労務管理について解説しています。

 

外部企業との取引状況の再検討

長時間労働等を防止し、良好な就労環境を整えるためには、外部企業との取引状況にも目を向ける必要があります。取引先への過剰なサービス等が長時間労働の遠因となっている場合もあるため、取引状況や契約内容を見直すこともウェルビーイングの向上につながります。

ウェルビーイングの取組事例を紹介

ウェルビーイングに対する社会的な関心が高まるにつれて、実際に実現のための取組を進める企業も増えてきています。ここでは、主に製造業における代表的な取組事例をご紹介します。

◆健康維持・増進に関する取組
・休憩時間におけるウォーキングや運動の推奨(自動車メーカーA社)
・食習慣改善のための健康教室の開催、健康アプリの導入(自動車メーカーA社)
・フィットネス施設・休憩スペースの設置(食品メーカーB社)
・女性の健康やメンタルヘルスに関するセミナーの開催(食品メーカーB社)

◆多様な働き方の実現に関する取組
・対面業務とリモートワークのハイブリッドによる成果の創出(電機メーカーC社)
・子どもの小学校卒業まで利用可能な育児時短勤務制度の導入(外食チェーンD社)
・フレックスタイム制の導入(ゲームメーカーE社)

◆オフィス環境の改善に関する取組
・オープンスペースの開設によるコミュニケーションの促進(IT企業F社)
・壁や仕切りを設けない開放感のあるオフィス環境の実現(IT企業G社)

何から手をつけてよいのか分からないという方におすすめの、ストレスチェック制度の実践方法、取組事例について、解説しています。

ウェルビーイングに取り組む時の注意点

ウェルビーイングの追求は企業にさまざまなメリットをもたらし、何より自社の従業員に充実した職業人生を送ってもらうことにもつながります。ここでは、ウェルビーイングの取組を進める際の注意点について確認しておきましょう。

中長期的な取組として実施する

ウェルビーイングの基本的なスタンスは、従業員の健康増進や働きがいの獲得等を地道にサポートすることにあります。取組を始めたとしても、すぐに成果が出てくるものではなく、短期的な視点ではあまり目に見える効果を実感できません。

そればかりか、取引状況の調整や労働時間の削減等により、一時的に見れば利益が少なくなってしまう可能性もあります。しかし、長い目で見れば、従業員の生産性向上や人材採用における優位性の確立といったメリットも多いのです。

そのため、場当たり的な計画で進めるのではなく、中長期的な視点で計画を立て、じっくりと腰を据えて取り組むことが重要です。

導入する目的を丁寧に説明する

ウェルビーイングに関する具体的な施策には、短期的な売上に直結しないものも多いため、従業員の理解を得た上で実行しなければ形骸化してしまう恐れもあります。例えば、健康経営のための施策やメンタルヘルス向上のためのセミナー等は、従業員に利用してもらえなければ、思うように効果を上げられないでしょう。

導入の効果を得るためには、従業員にとってどのようなメリットがあるのかをしっかりと伝え、正しく理解を得た上で実行することが大切です。

24年8月に開始された健康経営優良法人2025認定基準のポイントを紹介します。

 

定期的な効果測定を行う

ウェルビーイングの取組については、実施する施策ごとに効果測定を行い、改善を重ねていくことも重要です。「定期的に社内アンケートを実施する」「関連する測定ツールを利用する」といった方法で客観的なデータを集め、施策の効果を丁寧に振り返りましょう。

まとめ

人生や仕事に対する価値観が多様化する現代において、ウェルビーイングは個人と企業のどちらにとっても重要なテーマです。ウェルビーイング経営が実践された企業では、多様な働き方やキャリアプランが実現でき、快適な労働環境が構築され、健康で快活に働き続けることが可能です。

その結果、従業員のエンゲージメントやモチベーションが高まり、生産性の向上や人材採用での優位性の確立といったメリットが生まれます。一方、ウェルビーイングの取組ですぐに目に見える成果を上げるのは難しく、場合によっては一時的に収益のダウンを招く可能性もあります。

中長期的な視点でじっくりと取り組めるように計画を立て、地道に施策のブラッシュアップを重ねながら、魅力的な企業づくりを進めていきましょう。

従業員のモチベーションが低下することの影響や具体的に改善していくための方法等について解説しています。

 

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