安全配慮義務違反とは?具体的な事例と防ぐための取組を解説

公開日:2024年12月16日
更新日:2026年4月13日

事故防止

企業が従業員を雇用する際には、安全や衛生に関するさまざまな義務を順守することが法律で定められています。そのなかの一つである「安全配慮義務」は、従業員の生命や健康に関わる特に重要なルールです。

今回は安全配慮義務違反について、関連する法律の内容や違反の具体例、企業におけるリスクと責任等の視点から解説します。その上で、安全配慮義務違反を避けるために必要な取組についても詳しく見ていきましょう。

安全配慮義務違反の概要

企業や組織が労働者を雇用する際には、安全配慮義務を守る必要があります。安全配慮義務違反とは、端的に言えば法律で定められている安全配慮義務を怠っている状態を指します。

ここではまず、安全配慮義務違反の基本的な内容や関連する法律について見ていきましょう。

安全配慮義務違反とは

安全配慮義務とは、従業員の安全と健康を守るために、労働災害(以下、労災)等が発生する可能性を事前に発見して適切な防止策を講じることを指します。つまり、安全配慮義務違反は労災等の可能性の発見を怠り、また必要な対策を講じていない状態ということです。

安全配慮義務は法律で定められている義務であるため、不作為によって労災が発生した場合には、損害賠償責任が生じる可能性があります。また、危険な状態が放置されていることにより、従業員の離職や企業イメージの低下、採用難といったさまざまなデメリットを引き起こすでしょう。

なお、ここで守るべき「安全と健康」は、ケガや事故を防ぐといった物理的・身体的な安全確保にとどまりません。現代では精神面での安全確保も重要視されています。長時間労働によるメンタルヘルス不調や、職場での各種ハラスメントが原因で心の健康を害する労災認定が急増しており、企業には従業員の「心」を守る体制づくりが強く求められています。

安全配慮義務に関する法律

安全配慮義務について触れられている法律としては、「労働契約法」や「労働安全衛生法」が挙げられます。労働契約法第5条では、「労働者の安全への配慮」として、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。

なお、確保すべき「生命・身体等の安全」には、精神の健康も含まれている点に注意が必要です。メンタルヘルスの安全配慮を怠ったとして、義務違反に認定されるケースも少なくありません。

また、労働安全衛生法第3条1項では、使用者の務めとして次のような条文が設けられています。

◆事業者等の責務
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。

 
このように、安全と健康を確保するためには、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を行わなければならないとされています。労働契約法が民事上の安全配慮義務の根拠となる一方、労働安全衛生法はそれを実現するための具体的な基準を規定する役割を担っています。

特に近年、職場環境の改善において重視されているのが精神的健康への配慮であり、その代表例が「ストレスチェック制度」です。現在は従業員50人以上の事業場が義務対象で、50人未満は努力義務とされています。

しかし、小規模事業場でのメンタルヘルス不調者の増加を受け、厚生労働省は50人未満の事業場に対しても同制度を義務化しています。企業規模を問わず、心の健康を守る体制整備が不可欠だといえるでしょう。

2026年3月時点で押さえたい法改正・制度動向

2026年3月現在、企業が早急に押さえておくべき3つの制度動向を解説します。

1.ストレスチェックの対象拡大

2026年4月より、これまで努力義務だった「従業員50人未満の事業場」にも実施が順次求められています。小規模事業場でも、外部委託を含めた実施体制の構築が必要だといえるでしょう。

2.高年齢労働者の労災防止

2026年4月より、健康面談の実施や作業環境の改善等、高年齢労働者を安全に働かせるための措置が全企業を対象に努力義務となります。

3.カスハラ対策の義務化

2026年10月より、カスタマーハラスメント対策が義務付けられます。基本方針の策定や相談窓口の設置等、実施に向けた準備が不可欠です。

これらはいずれも従業員の心身を守る重要施策であり、計画的な実務対応が求められます。

安全配慮義務違反に当てはまる4つのケース

それでは、具体的にどのようなケースが安全配慮義務違反とみなされるのでしょうか。ここでは、過去の事例をもとに代表的な4つのパターンをご紹介します。

過労死につながったケース

まず、長時間労働を原因とする従業員の過労死が、企業の安全配慮義務違反によるものと認められたケースが挙げられます。裁判では、長時間労働によってうつ病を発症した新入社員が自殺してしまったことについて、遺族が企業へ損害賠償を請求しました。

裁判所は、本人の健康状態の悪化を知りながら負担軽減措置を行わなかったとして、企業の安全配慮義務違反を認めました。その結果、最終的には企業が遺族へ1億6,800万円を支払うことで和解が成立しています。

このように、企業には日頃から労働時間を客観的に把握し、必要に応じて産業医面談や業務軽減を実施する責任があります。これらの具体的な措置を怠り、漫然と長時間労働を放置することは、安全配慮義務違反と認定される大きな要因となる恐れがあるので注意が必要です。

脳や心臓疾患の労災認定基準の改定のポイントについて解説しています。

 

ハラスメントに関するケース

職場におけるハラスメント行為を放置することも、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。ここでは、上司によるパワハラでうつ病を発症した従業員が、その後に休職へ至り、それについて上司や会社に損害賠償を求めた事例について見ていきましょう。

裁判では、パワハラに該当する上司の言動を不法行為とした上で、休職の申し出に不当な条件を設けた点にも触れ、「心身への配慮を欠く言動」として不法行為と認めています。さらに、会社は上司の不法行為について使用者責任を負うものとされ、上司・会社に対して慰謝料と弁護士費用の支払いが命じられました。

なお、近年は社内のハラスメントにとどまらず、悪質なクレーム等のカスタマーハラスメントや顧客対応による精神的負荷も実務上の重要な論点です。企業には、顧客からの不当な要求から従業員を守るための体制整備も求められています。

ハラスメントの定義や主な種類をご紹介した上で、発生する原因と必要な対策について解説しています。

 

労災事故に関係するケース

製造業や運送業、建築業等は特に労災の発生件数が多くなる傾向があり、企業の安全配慮義務違反が認められる事例も少なくありません。例えば、プレス加工の作業に従事していた女性従業員に右手第二・第三指切断の労災事故が発生したケースでは、会社に安全配慮義務違反があったとし、954万7,725円の支払いが命じられました。

また、近年は就労者の高齢化に伴い、高年齢労働者の身体的特性への配慮不足が安全配慮義務違反に問われるリスクも高まっています。年齢に応じた作業環境の改善が、今後の実務における重要な課題となるでしょう。

下請企業に対する責任が問われたケース

元請企業と下請企業との関係性においても、安全配慮義務違反が問われるケースがあります。過去には、元請企業の作業場で下請企業の従業員が作業をするにあたり、「元請企業によって管理された設備工具を用いていた」「元請企業の指揮監督によって稼働していた」「作業内容も元請企業とほとんど同じであった」といった点によって、元請企業に安全配慮義務があったとする判例がありました。

その他の事例については、「企業に求められる安全配慮義務」を参照ください。

安全配慮義務違反によるリスクと責任

安全配慮義務違反によって、企業にはさまざまなリスクと責任が発生します。ここでは5つの角度から、企業が負うべき責任について整理してみましょう。

1.刑事上の責任

労働安全衛生法では、事業者に対して労災防止の事前予防のための安全衛生管理措置を定めています。労災の発生の有無を問わず、適切な安全衛生管理措置を怠ると刑事責任が課せられ、罰則の対象となります。

また、労働者の生命、身体、健康に対する危険防止の注意業務を怠り、その結果として労働者を死傷させた場合には、刑法第211条の業務上過失致死傷罪にも問われる恐れがあるでしょう。

2.民事上の責任

民事上の責任とは、平たく言えば被害者に対する損害賠償責任のことです。労災が発生すると、労働者本人あるいは遺族から、不法行為責任や安全配慮義務違反による損害賠償を請求される可能性があります。

労災保険は損害や慰謝料等のすべてをカバーしているわけではないため、保険給付を超える損害に関しては、民事上の損害賠償責任が問われる恐れがあります。

3.行政上の責任

労働安全衛生法に違反している場合や、労災発生の危険がある場合には、機械設備の使用停止や作業停止等の行政処分を受けることがあります。また、官庁等から仕事を請け負っている場合は、取引停止等の処分を受ける可能性もあります。

4.補償上の責任

補償上の責任とは、労働者が労災を被った場合に、本人やその家族が生活に困らないように保護する義務のことです。労働基準法や労働者災害補償保険法では、業務の遂行に伴う危険性によって事故が発生した場合には、企業側の無過失責任として、労働者の治療と生活補償のための補償が義務付けられています。

5.社会的な責任

安全配慮義務を怠った結果、労災等が発生すれば、当然ながら企業の社会的な信用も損なわれます。労災への補償や対外的なイメージの悪化、取引への影響等により、企業そのものの存続が危ぶまれる可能性も考えられます。

さらに、労働環境が悪化することは、既存社員の不信感やモチベーション低下を招き、離職者の増加にもつながる恐れがあるでしょう。「従業員を大切にしない企業」というイメージが広がれば、求職者からも敬遠されて採用難に陥ることも考えられます。

職場の安全性を高める3つのメリット

安全配慮義務を順守し、職場の安全性が向上すれば、企業にとってもさまざまなメリットが生まれます。ここでは、3つのポイントに分けて職場における安全の重要性を見ていきましょう。

1.従業員のモチベーションが高まる

安全性の高い職場づくりには、現場レベルでの気づきや問題意識が欠かせません。従業員の意見を活かして職場環境を改善していくことで、労働への安全性が高まるだけでなく、社内コミュニケーションが活性化するのも大きなメリットです。

従業員のモチベーションが低下することの影響や具体的に改善していくための方法等について解説しています。

 

2.生産性の向上が期待できる

作業環境の改善や整備も、安全性を向上させる上で重要な取組といえます。作業プロセスの改善に目を向けることで、工数の削減や段取りの効率化にもつながるため、結果として生産性の向上が期待できます。

3.コストの削減や抑制につながる

安全性の向上は、不要なコストの削減や抑制にもつながります。業務の過程で「ヒヤリハット」が起これば、そのたびに作業の中断を余儀なくされ、余計なコストや労力が発生する原因となります。

安全への配慮を行って作業プロセスの整備を実行することで、予期せぬトラブルを避けられ、職場や組織全体のコストパフォーマンスも向上します。

ヒヤリハットの概要や事例、防止策等について解説しています。

 

安全配慮義務違反を防ぐための取組

安全配慮義務違反を防ぐためには、特定の部門や管理職者だけでなく、企業全体として取組を進める必要があります。ここでは、取組の具体的な方向性を4つのポイントに分けて確認していきましょう。

1.従業員の健康管理に気をつける

労働安全衛生法第66条では、従業員に対する適切な健康診断の実施が義務付けられています。常時雇用されるすべての労働者に対しては、雇入れ時と1年以内に1回ずつ、医師による「一般健康診断」を実施しなければなりません。

一般健康診断とは、既往歴・業務歴の調査、身体測定、血圧測定、胸部エックス線検査、尿検査、心電図検査等の検査項目について行われる基本的な診断です。それに加えて、特殊な業務に従事する労働者に対しては、その内容に応じて「特殊健康診断」や「じん肺検診」、歯科医師による健康診断等を実施する必要があります。

なお、騒音作業やVDT作業、重量物の取扱い、身体に著しい振動を与える業務等については、それぞれ特定の項目について健康診断を実施する指針・通達が行われます。さらに、近年は身体的な健康だけでなく、メンタルヘルス対策の重要性も大きく高まっているといえるでしょう。

常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、身体の健康診断に加え、年1回の「ストレスチェック」の実施が義務付けられました。検査の結果、高ストレス者と判定され本人が申し出た従業員に対しては、医師による面接指導を実施し、必要に応じて就業上の適切な措置を講じなければなりません。

また、面接指導に至らない場合でも、従業員が安心して悩みを打ち明けられる社内外の相談体制を整備しておくことも必要です。従業員の休職や離職を防ぎ、心身ともに健康に働ける職場を維持する観点からは、企業規模に関わらず、産業医の確保や相談窓口の設置等、早急な事前の準備と体制づくりを進めることが求められています。

健康診断の種類や対象者、実施にあたっての注意点等について解説しています。

 

2.労働時間を適切に管理する

安全配慮義務を果たす上では、過労死等の防止措置を行うことも重要です。まずは、時間外労働や休日労働等を含めた労働時間を適切に把握し、長時間労働の削減に努める必要があります。

具体的には、時間外労働や休日労働の内容を周知し、週労働時間が60時間以上となる労働者をなくすように努めるなどの取組が考えられます。その上で、業務プロセスの見直しや効率化を図り、過重労働が発生しないように仕組みそのものを改善することも大切です。

また、過労死を防ぐには、肉体的な負荷だけでなく、メンタルヘルスの維持・向上にも目を向ける必要があります。メンタルヘルスに関する相談体制の整備を進めたり、セルフケアが行えるように従業員研修を行ったりすることも重要な取組といえます。

さらに、単に労働時間を客観的に把握するだけでなく、長時間労働者等への面談記録を適切に保存し、事後措置につなげることも大切です。面談結果を踏まえて、特定の個人に偏った業務配分の見直しを迅速に行うなど、実効性のある対応が求められます。

加えて、勤怠の乱れや行動の変化から、従業員の心身の不調を早期に察知することも重要です。管理職からの声かけや休養の打診を行うといった不調への初期対応を徹底することが、過労死防止の要となります。

3.ハラスメントを防止する

安全性の高い職場づくりには、社内におけるハラスメント対策も欠かせません。主なハラスメントにはパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、出産・育児に関するハラスメント(マタハラやパタハラ)等の種類があり、原因や内容もさまざまです。

2019年に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正されると、事業主には職場におけるパワーハラスメント防止対策が義務付けられました。また、セクシュアルハラスメント、出産・育児に関するハラスメントも、関連する規定が改正され2020年から施行されています。

ハラスメントを防止するためには、各ハラスメントの内容を正しく理解するとともに、法律や規定の内容も把握しておくことが大切です。その上で、具体的な取組としては、「方針の明確化と周知・啓発」「ハラスメント行為を行った者への厳正な対処」「相談窓口の設置」「被害者に対する適正な配慮措置の実施」等が挙げられます。

さらに、2026年10月の法改正により、顧客等からの著しい迷惑行為である「カスタマーハラスメント」対策や、求職者等へのセクハラ対策が新たに事業主へ義務化される点も押さえておきましょう。これによって、社内のみならず、社外からの不当な要求や暴言から従業員を守る体制づくりも急務となります。

カスハラ対策を踏まえた実務対応としては、既存の取組に加え、カスハラに対する企業としての基本方針の策定と社内外への周知が必要です。また、現場で毅然とした対応をとるためのマニュアル整備、顧客対応部門への教育研修の実施、被害に遭った従業員の迅速なメンタルケア体制の構築等、対外的なリスクを想定した組織的な仕組みづくりが求められます。

4.労災事故の発生を防ぐ

安全配慮義務を果たすには、労災事故を防ぐための具体的な取組が求められます。主な施策としては、「危険防止の措置」「健康管理の措置」「安全衛生管理体制の整備」「安全衛生教育の実施」等が挙げられます。

危険防止の措置とは、例えば「機械の動作範囲に柵や覆いを設ける」「火災・爆発の危険性があるものを取り扱う場合は適切な換気を行う」といった取組のことです。また、健康管理の措置には、先にも述べた「健康診断の適切な実施」が該当します。

安全衛生管理体制の整備には、安全衛生推進者や衛生推進者の選任、作業主任者の選任等が該当します。その上で、安全衛生の教育を徹底し、全社的な意識改革を図ることが労災事故を予防する上で重要です。

さらに近年は、働く高齢者の増加に伴い、これらの措置に加えて「高年齢労働者の身体特性に応じた作業環境改善」の視点も必要だといえます。視力や聴力、筋力、バランス感覚といった身体機能の低下は、転倒や墜落等の労災リスクを高めます。

そのため、厚生労働省のガイドライン等も参考にしつつ、通路の段差解消や十分な照度の確保、身体的負担を軽減する補助機器の導入等、年齢に関わらず安全に働ける職場環境づくりを進めることが求められます。

まとめ

従業員の心身の安全を守る「安全配慮義務」は、企業が順守すべき重要なルールの一つです。万が一これに違反すれば、刑事・行政上の処罰はもちろん、労災事故による甚大な損害賠償リスクを抱えることになります。

重大な事故は従業員の生命を脅かすだけでなく、企業の社会的信用をも失墜させます。逆に言えば、職場の安全衛生を徹底することは、リスクマネジメントの枠を超え、従業員のエンゲージメントや生産性を引き上げる重要な経営投資といえるでしょう。

留意しておきたい点は、相次ぐ法改正によって安全配慮義務のハードルが年々引き上げられていることです。法改正への対応は、もはや「いつか取り組むべき中長期の課題」ではありません。

企業を守り抜くために、最新の法制と自社の現状を照らし合わせ、早期に具体的な対策を講じる「直近の実務対応」として、すぐに着手する必要があります。

三井住友海上では、労災事故等で会社側が安全配慮義務違反で使用者責任を求められた際の損害賠償金を補償する企業防衛に関する保険商品もご用意しております。万が一に備えて、この機会にぜひご加入をご検討ください。

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