建設業の2024年問題とは?課題となるポイントと対策を解説
公開日:2024年9月9日
人事労務・働き方改革
働き方改革に伴う関連法の改正は、企業経営にさまざまな影響をもたらしています。「2024年問題」もその一つであり、2024年4月に建設業へ適用された「時間外労働の上限規制」によって生じる諸課題をまとめた言葉です。
この記事では、建設業における2024年問題の具体的な内容と課題、企業が取り組むべき対策について解説します。
建設業の2024年問題とは
「2024年問題」とは、現代の建設業を取り巻くさまざまな課題の総称であり、建設業界において2024年は一つの分岐点となる重要なタイミングにあたります。
まずは建設業における2024年問題の概要について見ていきましょう。
建設業における2024年問題の概要
そもそも、「2024年問題」とは、働き方改革関連法の施行に伴う「時間外労働の上限規制」によって起こる諸問題のことです。時間外労働の上限そのものは、働き方改革関連法が施行された時点ですでに適用されていたものの、建設業を含むいくつかの業種では5年間にわたる猶予が与えられていました。
その猶予期間が終了するのが2024年の4月であり、規制の新たな適用によってさまざまな影響が懸念されることから、2024年問題として注目されるようになったのです。特に建設業では、他の業界と比較しても長時間労働が慢性化しており、時間外労働によって労働力を補ってきた側面がありました。
上限規制の適用による影響は大きく、多くの企業にとって労務環境の変革が最重要課題の一つとなっています。
建設業のこれまでの勤務状況
国土交通省の資料「建設業における働き方改革」では、年間実労働時間と年間出勤日数の推移が、建設業と製造業、調査対象となった産業計の3パターンで公開されています。データによれば、建設業における2007年度の年間実労働時間は平均で2,065時間であるのに対し、2016年度は2,056時間と10年間でほとんど変化が見られません。
一方で、調査産業計の年間実労働時間は、2007年時点の1,807時間から2016年の1,720時間まで短縮されています。2016年度では、建設業と調査産業計との間に「年間336時間」もの実労働時間の開きが生まれていることが分かります。
また、年間出勤日数についても、2016年時点で調査産業計は222日となっているのに対し、建設業は251日と30日近くも多い状況です。時間外労働の上限規制に5年の猶予が設けられていたのには、こうした労務環境の特性も大きく関係していると考えられるでしょう。
出典:国土交通省「建設業における働き方改革(実労働時間及び出勤日数の推移)」から抜粋
帝国データバンクが行った調査結果について解説しています。
働き方改革によって改正されたポイント
働き方改革ではさまざまな関連法が施行・改正されましたが、労働基準法の改正はとりわけ大きな影響を与えています。ここでは、労働基準法の改正において、特に重要度の高いポイントをご紹介します。
時間外労働規制の見直し
大きな変更点として挙げられるのが、時間外労働規制の見直しです。具体的には、時間外労働の上限が原則として月45時間・年360時間となり、「臨時的な特別な事情があり、かつ労使の合意」(特別条項)がなければこれを超えることができないとされています。
臨時的な特別の事情とは、「災害への対応」や「事業運営を不可能にするような突発的な機械・設備の故障」等のことであり、単に業務の繁忙やこれに準ずる経営上の必要は認められません。
また、特別条項であっても、「時間外労働は年720時間以内」「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満かつ2~6ヵ月の平均80時間以内」「時間外労働が月45時間を超えられるのは年6回まで」という条件を守る必要があります。
ただし、災害復旧・復興の事業に限っては、「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満かつ2~6ヵ月の平均80時間以内」という規定は適用されないことになっています。
割増賃金の引上げ
もう一つの改正は、中小企業における割増賃金の引上げです。2010年4月以降、すでに大企業においては、1ヵ月の時間外労働が60時間を超える部分について「50%の残業割増賃金率」が適用されていました。
一方、中小企業においては、時間外労働が60時間を超える部分についても、60時間以下と同じ25%が適用されていました。しかし、働き方改革関連法の改正に伴い、2023年4月1日からは、中小企業でも大企業と同様に「月60時間以上の残業割増賃金率50%」が適用されるようになっています。
これにより、例えば深夜割増賃金率が適用される時間帯(22:00~5:00)に月60時間を超える時間外労働が発生した場合は、「深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%」となります。なお、月60時間の時間外労働時間の算定には、法定休日に行った労働時間は含まれません。
法定休日に行われた労働については、「法定休日労働」として別枠で算定され、35%の割増賃金率が適用される仕組みとなっているので注意が必要です。
従業員の賃上げに取り組む際は、助成金制度を活用することが大切です。業務改善助成金の基本的な仕組みや要件、注意点等を詳しく解説しています。
違反した場合の罰則
時間外労働の上限規制を守らなかった場合や、割増賃金を適切に支払わない場合は、労働基準法違反として「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されるおそれがあります。
法違反にあたるケースとしては、「時間外労働が月45時間を超えた回数が年間で7回以上になってしまった」「時間外労働と休日労働の合計の2~6ヵ月平均のいずれかが80時間を超えてしまった」という場合が考えられます。
労働時間の計算方法はやや複雑なため、誤りがないように正確な計算を行うことが大切
です。
建設業界が抱えている課題
2024年問題は、前述した働き方改革による企業への要請と、建設業が抱える課題とのギャップによって起こるものです。ここでは、建設業界全体として抱えている課題について、3つのポイントから確認しておきましょう。
長時間労働の常態化
前述のように建設業では、その他の業種と比べても一人あたりの労働時間が長く、長時間労働が常態化しているのが特徴です。また、年間休日日数も少ない傾向にあり、一人あたりの労働負担は大きいと言えます。
その原因としては、後述する人手不足の影響や工期の問題が挙げられます。人員の確保や工期の遵守が、従業員の長時間労働によって支えられており、その状態が長く続いているのです。
そのため、時間外労働の上限規制が適用されることで、労働力不足がくっきりと浮き彫りにされます。不足した労働力を補うために、各企業にはさまざまな対応が求められ、場合によっては事業規模の維持に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
人手不足の深刻化
国土交通省の資料によれば、令和4年時点における建設業就業者数は479万人となっており、ピーク時であった平成9年と比べておよそ25年で約28%も減少しています。過去10年程度は下げ止まりの傾向にあるものの、人手不足は建設業における慢性的な課題となっています。
出典:国土交通省「建設業における働き方改革(建設業就業者の現状)」から抜粋
さらに、建設業就業者の35.9%は55歳以上となっており、一方で29歳以下の就業者はわずか11.7%と、人材の高齢化も大きな問題です。特に建設技能者では4分の1が60歳以上というデータが示されており、技術・技能の継承と若手人材の育成が喫緊の課題とされます。
出典:国土交通省「建設業における働き方改革(建設業就業者の現状)」から抜粋
帝国データバンクが行った調査結果について解説しています。
工期の適正化
建設業での長時間労働を引き起こす原因の一つとなってきたのが、無理のある工期の設定です。実際のところ、国土交通省の資料では、多くの工事現場で「1~3割分に相当する工期不足」を抱えていることが明らかにされています。
工期にゆとりがなければ、決められた期間内で要求されるリソースが増大するため、適切な労務環境を確保するのが難しくなります。例えば、多くの産業ですでに定着している完全週休2日制も、適正な工期を確保できなければ建設業での定着は難しいと言えるでしょう。
また、ゆとりのない工期は、長時間労働による疲労やスピードを優先した施工により、ミスや品質の低下を招く要因にもなります。このように、適正な工期の設定も建設業における重要課題の一つです。
建設業の働き方を改善する対策
ここまで見てきたように、2024年問題に対処するためには、業界全体としての改革が必要とされます。しかし、その前提に立ったうえで、個々の企業にも必要に応じた対策が求められます。
ここでは、企業が働き方を改善するために取り組める施策を3つに分けて見ていきましょう。
長時間労働の是正
まずは、働き方改革で見直された基準に合わせ、長時間労働の是正を行う必要があります。そのためには、一人ひとりの勤務状況について正確にデータを把握し、改善すべきポイントを分析することが大切です。
例えば、業務量に対して絶対的に人員が不足している場合は、人材採用の考え方について見直してみる必要もあるでしょう。「若手にこだわらない採用」「外国人人材の積極採用」等、新たな人材の活用を検討してみることで、自社における担い手不足を解消できる糸口が見つかるケースもあります。
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また、長期的な視点では、福利厚生の充実を図って人材の流出を防ぐことも重要な取組となります。
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IT化による生産性の向上
会社全体として生産性の向上に取り組むことも、人材不足や長時間労働の問題を解消する重要なアプローチです。建築業の生産性を向上させるためには、ITやAIの適切な導入がカギを握ります。
例えば、建築図面の管理や現場管理にITツールを用いることで、検査にかかる時間を短縮するといった方法が挙げられます。工程管理にITツールを活用すれば、現場との意思疎通がスムーズに図れるため、施工管理者等の負担が大幅に軽減されるでしょう。
電子データのやりとりで業務を進められるようになれば、ペーパーレスによる管理負担の軽減やコスト削減も期待できます。また、業務フローそのものを見直して、社内のDXを推進することも重要な取組です。
BIM/CIMの活用による手戻りの防止、ICT建機の導入による作業の効率化等は、建設業DXの具体的な施策としてすでに実施され始めています。
DX化の基本的なポイントや2025年の崖問題、DX化を推進する手順やポイント等を解説しています。
工期の適切な設定
長時間労働を是正するうえでは、適切な工期設定も避けては通れない課題です。不当な短い工期での発注を受けないためにも、適正な工期を算出したうえで請負契約を締結できるように条件を整理しておく必要があります。
そのために活用できるツールの例として、国土交通省が公表している「適切な工期を設定するためのチェックリスト」が挙げられます。これは、工期設定で検討すべき項目を「工期全般にわたって考慮すべき事項」と「工程別に考慮すべき事項」のそれぞれについてまとめたものです。
工期全般にわたって考慮すべき事項には、自然要因や制約条件、イベント等が挙げられており、具体的に目を向けるべきポイントがまとめられています。また、工程別に考慮すべき事項については、準備・施工・後片付けの3つのプロセスごとに考慮すべき要因・条件がまとめられています。
チェックリストを活用すれば、見落としや抜け漏れなく検討事項を確認できるため、適切な工期の設定に役立てられるでしょう。
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まとめ
建設業における2024年問題は、2024年4月に猶予期間が解除された「時間外労働の上限規制」の適用に起因しています。しかし、根本的な原因は、建設業に蔓延する長時間労働や深刻な人手不足にあると考える必要があります。
従業員の長時間労働を是正するためには、十分な人員の確保や若手人材の育成、業務効率化、工期の適正化といったさまざまな課題を解消しなければなりません。まずは自社における課題を一つずつ明らかにし、優先度の高いものから改善に取り組んでいきましょう。